第6話


 時は流れて、三月は中学を卒業した。


「おにーちゃん! こっちー!」

「おい、よせ! おま、こんなところで!」


 卒業式が終わり、外で待つ保護者の中から、三月みつきは一瞬でヨシローを見つけ、あわあわと狼狽える彼の元へと走った。

 人目も気にせず銀髪のスーツに抱きつくと、猫のようにぐりぐりと頭をこすりつける。


「えへへ。おにーちゃんがカッコいいからみんな見てるんだよ〜、見せつけてやろ〜」

「おおおお俺、変質者だと思われてるよ! 勘弁して〜」

「他人とか関係ないじゃん。それよりも、あたしに言うことあるでしょ?」

「ああ、卒業おめでとう。入試もよく頑張ったな」

「ありがとう! おにーちゃんがいてくれたからできたんだよ!」


 他の保護者たちの視線を感じるが、三月の言う通り。もう一生会うことのない他人を気にするのは馬鹿らしいなと、ヨシローも開き直ることにした。


「俺なんて、何もしてやれてないよ」

「毎日一緒にいてくれた。それで十分すぎるよ。本当にありがとう!」

「だ、だからやめろってぇ」

「やだ! これからもよろしくね♡」


 小学生のころ。

 屋敷に来たばかりのころ。

 笑顔が極端に少なかった三月が、最近ではよく笑うようになっていた。

 彼女は笑いたくなかったわけではない。

 いつでも不安で、自信がなくて、笑えなかっただけで。


 だけど今は、安心できる居場所を見つけた。

 ヨシローのことが、大好きだった。





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