第3話



「おお、居間がきれい! さすが三月みつき、おねーさんになったなあ!」

「えへへ。って、ごまかすなパチンカス!」


 書き置き通り昼過ぎに帰ってきて、のんびりと居間を眺めるヨシローの背中を三月がどつく。汚部屋は三月のおかげで見違えるように片付いていた。


「悪かったって。じゃあ昼飯にするか〜」

「あっごめん、まだごはんは用意できてなくて」

「そこまで求めてねえよ。まあ待ってなー」


 ヨシローはビニール袋を下げてキッチンに移動する。

 その後ろをカルガモの子のように三月もついていく。


「あたしやるよ?」

「あーいいよ、ガキは座ってテレビでも見てろ」

「だからガキじゃないもん。あたしだってあの頃より大きくなったし、料理だって慣れてるから!」


 ぴくりとヨシローのこめかみが動いた。そのままチラリと横目で一瞥すれば、少女が気まずそうに視線を左右させている。


「邪魔。あっち行ってろ」


 しっしと手を振るヨシローに、三月はしゅんと肩を落とす。

 その背中があまりにも可哀想すぎて、ヨシローは少しだけ口ごもってから、


「ここにいる間の飯くらい、俺が作ってやりたいんだ」


 つぶやく声に、居間に戻りかけた三月の足が止まる。


「俺みたいなクズがおまえにしてやれることなんて、こんなことくらいしかねーからよ」

「そ、そんなことないよ!」

「おめーのとーちゃんに養ってもらってる手前、なにかしないと……。罪悪感で胸がキリキリと痛むっていうか……」


 振り返った三月はポカン口を開けて呆れていた。

 そして。


「おにーちゃんも働けばいいじゃん」

「うぐっ、ぜったい無理!!」


 少女の身を刺す正論を、全力で拒むクズだった。




 




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