第299話 人にトップシークレットの情報漏洩かましてんじゃねぇ!
「アリスはな……。王妃様と俺らのリーダーである、鬼の子供なんだ。幼少期は王宮で育ってたんだが、知られちゃまずい子供として、公の場には発表されず、閉じ込められながら育ったんだ」
いらない。育ちの説明とかいらんから!
しかも王様じゃなくて王妃かよ! 不倫してできた子かよ! 王族ってそういうもんなん?
留美はそう言うの無理よ? 合法であっても両親ないわーって思う人よ?
考えなしに子供つくっとんちゃうぞボケェって思っちゃう人よ?
てか信用ならん言うなら身の上話すんなぁああ!!
「あの……」
「当然、王族に仕えいない者が王宮に留まることはできず。アリスは父親の存在は知らない」
進めるの?
ねぇ、その話聞かんとあかんの? うぅ……。
「なんでそんな二人が出会ったのか、不思議です」
「色々あったんだよ」
そこは飛ばすんかいっ!
「それでな、父親譲りの正義感が強く育っちまったアリスは騎士を志願し、王城を出たんだ」
騎士って、あの騎士? あのチンピラと変わらん集団に志願したって?
どうなってんのよ北の町! 向こうでは評判いいの? ないわー。
騎士団名乗るなら、規律をちゃんと正せって文句言いたいくらいやのに。あいつら留美の抱いてた幻想を、木っ端微塵にしてくれよったからな。
「――で、騎士のあり方に。あいつらの現場に絶望した」
あぁ、やっぱりクズの集まりやったわけね。
護衛とかに囲われてて、そう言う場所やって、知らんかったんやろうな。
「それでも諦めなかったアリスは厄介払いされる形で追い出された。平民の暮らす場所に来て、露頭に迷おうとしている時に、娘の現状を聞いて鬼の盾に勧誘することにしたらしい」
父親ちゃんと娘の現状を気にかけてた。偉い。……いやもうちょっと早く接触したれよ。
アリスさんが王城でたよ〜って、知らせてくれる友達おらんかったんかな?
「アリスは父親の存在を知らないまま、所属することになって今に至るって感じ。だからアリスをあんまりいじめないでやってくれよ」
いじめ……。
いじめてへんしっ。これからもいじめる予定ないしっ!
最初以来、留美なんもしてへんよ。むしろ看守呼びに行ったり助けたやん。ストーカーおじさん過保護すぎん? 分からんでもないけど……。
それとも、今の言葉で他に言いたいことでも含まれてた? 汲み取れよってのは留美できんからな。
おじさんはゆっくり話し終わると、一息をついた。
「一部の人間しか知らないから内緒な」
「内緒ならその口閉じといてください」
冷たく返しても悪びれる様子はなく、彼はおつまみに手を伸ばす。
自分で広げてる自覚ないん? 信用ならん言うた人に話すことちゃうくない?
ほんま、今の話をどういうつもりで留美に聞かせたんやろう。
この人にとって留美は味方じゃないはずなのに。……わからん。この人の考えてることが全然わからん。
くっそ、混乱してきた……。
アリスさんの父親が鬼の盾と剣の創設者で、母親が王族で。不倫してできた子供やから、存在してはいけないと伏せられた。…………で!? それがなんなんや? マジで分からん。
「……ストーカーしてるのは、そういう理由があるからなんですね」
「そりゃもちろん!」
あ、これ普通にストーカーやってるな。
ジト目で見やると、おじさんがコホンと咳き込む。
「お前、アリスのことをどう思う?」
これ重要な問いかな? ただの言葉遊びかな? 面倒臭いっ。
数分前の留美考え直すんや、このおじさんと話してもいいことないぞ。はぁ……。
「どう、とは?」
緊張を紛らわすために、酸っぱい水に口をつける。
もっと身のない話をしようよ。軽い話がいいよ。重い話は大嫌い。
「そのままの意味だ。なんでもいい、思ったことを言って欲しい」
「……正義感が強くて、かっこいいと思います。女の子らしさもあって妬ま……羨ましいです。でも力不足なのも否めない。あやふやな正義を執行するより、弱者を救いたいという純粋さもポイント高いです」
「ハッキリいうやつだな」
え。かなり高評価のつもりやったんやけど。お気に召さんかったか。何でもいいって言ったくせに。
そういや、無礼講っていう言葉なんであるんやろうな。無礼講って言われても、ほんまに無礼講な場所とかみたことないわ。
私は笑みを浮かべる。
「お酒の席ってのもありますし、今の状況で濁す意味もないでしょう」
おじさんは留美のことをじっと見ると、ふっと笑った。
「俺の名前はダルクス・エバーっていうんだ」
「ダルクスさんですか? エバーさんですか?」
「どっちでもいい」
だるだる〜。この世界って名前が前についてたり、後ろについてたり、そもそも名前しかなかったりするし。
ダルクスもエバーもどっちも、どっちでもいけるからな……。
「じゃぁ、ダルおじさんで」
「どっちでもねぇのかよ」
「え、じゃぁ。ダルクストーカーさん?」
「普通に呼んでくれ……」
項垂れるおじさんを見て、クスリと笑う。
「冗談ですよ。ダルクスさん。……二人はいつまでこの町にいるんです?」
「結局名前で呼ぶのか」
こっちが名前やったか。
「……俺は明後日にここから東の町に移動する。この町から北へ行く者たちは、アリスの部隊が町まで送る。町まで送ったあとにアリスたちも最も東の町で合流する予定だ」
お酒飲んでると、意味もなく喋りたくなるよね。
聞いたからと言って、留美の行動が変わるわけでもないけど。
「大変」
「そうだな。アリスがやりたいと言い出したことだ。俺は応援する」
留美が大変って言ったのは、アリスさんだけじゃないけど。あんまり働きすぎると、殺人事件になる前に、過労死してまうで。
…………命大事にしいや。
「おじさんも健気ですね。鬼の盾とか剣って、何を目的に作られたんです?」
「ああ……」
口を開きかけたおじさんは先にお酒を飲む。
「鬼の盾、そして剣は、腐敗を切り落とすために、元は騎士団の中から生まれたらしい」
腐敗ねぇ。確かに何回か聞いたけど、やっぱ酷いんやな。
汚職、腐敗。この世界でも、人間は相変わらず欲にまみれてる。まぁ、欲のない人間って、大丈夫? って思うけど。
悟り開いたら心の中は平和なんやろうな。
でも。強欲であればこその人間よ。
余裕ができれば、その分人を助けようと思う心持ちが生まれるやろうし。
「ん? らしいってことは……」
「ああ、俺は最初のメンバーじゃない」
「ふーん」
「俺はそいつらを殺すための剣だ。アリスはそいつらから市民を守る盾。どっちにしろ、守るために集まった集団なんだ」
守るための盾と殺すための剣か。まんまやね。
まだまだ届いてないところばっかりな気もするけど、これでもマシなんやろうな……。
どうせそのうち鬼の集団も、内部から腐っていくって。
特に、創設者が死んだらその団体は終わり、とかよくありそう。
「中心である鬼自身は、今は北の町で治安維持を行ってる。第一王子の改革に手を貸すつもりのようだが、俺はその辺はさっぱりでな」
第一王子。アルさんのお兄さん……?
革命を起こされる前に、改革をするって感じ? アルさんは視察しにこの町に来たとか?
…………って。トップシークレットの情報漏洩をやめろバカ!!
留美の平穏(?)な生活に魔がさしたらどうしてくれんねんっ。
内乱とかマジでやめてや。
革命とか改革とか、難しいことは知らん。分からん。こちとら、来て二ヶ月やぞ。そもそも迷い人の留美がどうにか出来ることでもないから、傍観者に務めるしかないやろうし。
王政なら、王子様が繰り上がって次の王様になる……あぁ、だから革命の火が燻ってんのか。血の海に染まるよぉ……。
顔を顰めながらガシガシと頭を掻く。
目の前でジッと見られていることを思い出して。私は茶化すように、にししと笑った。
「創設者の鬼って、ツノが生えてるとかですか?」
「いや、鬼っていうのはこの組織を作った人物のことを指してるだけで……。そうだな、誰かが、鬼のように強いって言ったことが由来だな」
「こっわ」
鬼のように強い。会いたくないねぇ。
誇張されてるとは思わんぞ。このおじさんが強いっていうんやから、絶対強いやん。
「ここまで話したんだ。俺たちの組織に入ってくれるよな?」
あぁ、そういう……。……え。留美ここで断ったら消される? 殺されちゃう? え。このおじさんが勝手に話しただけやのに!?
……ええい! 嫌じゃ! ムカつくっ! 留美は鬼の盾にも剣にもならんぞ!
私はコップから垂れる水滴を指で掬って、笑顔で答えてやる。
「お断りします。酔っ払いのおじさんが口を滑らしたからって、私が入る義理はありませんから」
「言ってくれるねぇ。おじさんまだ酔ってないって」
「どう見てもベロンベロンに酔ったおじさんですよ。酷い悪酒ですね。情報漏洩ヤバいんだもの。冷水でもぶっかけてみましょうか?」
あ、ほぼ空だ。
コップを揺らすと、水が少しだけ跳ねた。
おじさんは元から冗談だと思っていたようでクククと笑ったままだ。
留美は結構本気やったんやけどな……。やっぱりおじさん酔ってるって。
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