第297話 感動の再会?



 久しぶりに会って早々にビンタかますヒヨリもヒヨリやけど、セルジオさんとクロノさんも、揃いも揃って『幽霊?』は失礼やろ。

 助かるかどうかは分からんけど。とにかく何か話題を作ればこの空気から脱出できるはず……。

 気まずい空気を出す三人に、私が助け舟を出すことにした。


「あの、ヒヨリはゴブリンに攫われた後、親切な人に助けてもらったみたいです。だから偽物でも幽霊でもないですよ。でも、あの時から私、性格二度も変わるくらい辛かった思いしたのよ! って言ってました」


「……本当に、ヒヨリなんだな?」


 なんかスルーされた気分。

 別に悲しくなんかないもん……。

 ヒヨリが微笑を浮かべ、またセルジオを小突いた。


「疑り深すぎ」


「とりあえず中入ろうぜ」


 クロノさんが家の中に促すのを見て、ひとつ不安なことが頭をよぎる。


「ユリアさん大丈夫ですかね?」


「あぁ、お前から貰ったやつをゴブリンに飲ましてから、ユリアのやつ落ち込んでたからなぁ」


「会わせた方がいいだろう」


 えぇ、ゴブリンにマジで飲ませたん?

 中身変えれば良かったのに。もったいなぁ。…………でもそのゴブリンどうなったんやろう。寿命伸びたんかな? ピンピンしてるんかな?


 私は家の中を『音聞き』と『空間』で探っていく。

 これがユリア、オルグ、カリン。で、ルルフェ、……あれ。ここやったよな…………。檻の中なにも居らんくなってるやん。どうしたんやろう、死んだんかな。


「私もみんなと会いたい。あの後、誰も死んでないのよね?」


「ああ。誰も死んでない」


「よかったぁ」


 平和平和。

 ゴブリンがどうなったんか気になるけど、流石に留美でもこの空気は読めるで。

 元々ついて来るだけやって言ってたし。おじゃま虫はこの辺りで退散するのが、向こうにも留美にとってもいいやろ。


「それじゃぁ、私はこれで失礼しますね」


「留美っ」


 ヒヨリが腕を掴んでくる。

 え………………。

 びっくりしてカチンと身体が動かなくなった。


 いやいやいやっ、一緒に入るんは意味わからんし、涙の再会に部外者って変やろう。めっちゃ気まずいやろうっ。

 留美どうしたらいいのか分からんやんけそれっ。

 私は冷静を装う。


「感動の再会を邪魔しちゃ悪いですし……」


 そっと手を剥がそうとすると、ドアから覗いていた少女が言った。


「それならルルも、邪魔?」


 んッ!?


 ギュッと片手で帽子を握って俯く少女。

 その姿を見て、背中に冷たいものが走った。私は人を傷つけたいわけじゃないから口早に言う。


「ルルフェさんは仲間ですし、いる意味あると思いますよ!」


「……そう」


 なんで留美の言葉で安心してんのさ。

 セルジオさんたちが、ルルフェさんを追い出して、ヒヨリを迎え入れるとでも思ってるん?

 それはないわ。


 そもそも留美がフォローせんくてもクロノさんがなんか言ったやろ。そう考えると不安を煽った形になるのでは?

 うわぁぁああ! もう知らん!


「留美。ありがとう」


「ぅえ……?」


 セルジオさんのお礼の言葉に、私はそっけなく返す。


「たまたま知り合いだっただけです」


 感動の再会を邪魔しちゃ悪い、と言うのは建前で。本音のところは、これ以上は面倒だって、私は思ってるのかもしれない。

 そう思うくらい、自分の心が急に落ち着いていくのを感じた。


 留美が双方を会わせたのは事実やけど、留美がいなくてもそのうち会ってたやろう。感謝されるほどの事はしていない。

 …………むしろ。今まで会わんかった方が不思議や。

 いくら狩りをする時間が合わんくても、町中を歩いていれば偶然に会うことくらいあるやろうに。……いやないかもしれん。……どうなんやろう。


「留美?」


「ん?」


ヤバいまた聞いてなかった。


「付き合ってくれて、本当にありがとうね」


 聞き流してしまっていたけど、朧げに三人に『ありがとう』と言われた記憶がある。これはたぶん、ありがとうと言われるほどの事をしたんだろう。私は認識を改める。

 本当はありがとうって言われて、嬉しかったんだ。自然と浮かんだ微笑みのまま、私は頷いた。


「うん」


 変な人影に意識を向けながら、私は彼女らと別れる。



 ギルドでも行こうかな。


「私は有能な脇役でありたい。それが望み。でも、利用されるのは嫌いで、思い通りにならないと癇癪起こしそうになるわがままな脇役。今回はお助けキャラってことで、いい感じに物語には入れたと思うんよ。主人公やライバル、悪役なんてもってのほか。カッコいいなとは思うけど、面倒くさそうで絶対にやりたくないポジション。……お前はどう思う?」


私は月を見上げる。

なんでか身体がほてってる。


「やっぱり気づいてたのか」


 ……え? なんか出てきた。

 さっきから居るの怪しげな影が出て来たで! ビビるわっ!


「だって、貴方はずっとヒヨリを見守っていたでしょう? ヒヨリが元の仲間と会わなかったのも、貴方が仕組んだこと?」


 演技がかった言葉でいうと、意外と的を得ていたのか、男の笑みが深まる。

 当てずっぽうで、この人誰? 状態の留美は微塵もその気を感じさせないように、適当にごまかしている状態だ。


「頭の良い女性のようだ。だが詰めが甘い」


「……なに?」


 え、留美なんかやらかした?


「………………えーっと」


「えーっとが聞こえてます」


 前にも同じような体験した気がする。なんやっけか。

 そんなことを考えていると、もう一人男が出てきた。そして、黙って唸っている男を殴る。


「いってっ!」


 わあ。殴ったな。

 結構いたそうな音がしたけど、大丈夫やろうか?


「痛いじゃないか!」


「その胡散臭い演技やめろ。お前もだ」


「あはい」


 なんだか白けてしまったので、砕けた口調に戻す。

 なんや、あの男も演技やったんか。同じことを思っていそうな男と目が合い、お互いに苦笑する。


 あ、いらんこと思い出した。恥ずかしいっ!

 パニクさんと出会った時。あの時も演技やったなぁ。


 こう言う出会いって普通なんやろうか。人と関係が出来るのって中々ないと思ってたけど、人と関わるともっと多い人と関わることになるんやな。


 どこか遠い目をし始めた私に、二人が近づいてくる。

 ぱちっと瞬きをして、彼らを警戒するように目を合わせた。



「何かご用ですか?」


「お前、どこまで知っている?」


「ヒヨリの近くでよく見かける人やなぁーと。それだけです」


 なんで留美が警戒されてんねん。やんのかゴラァ。

 てか、牢屋から出てきた後のヒヨリと会った、数少ない全部に居たんやから、偶然にしてはこっち見過ぎよね。って思うやんけ。

 あっ、ストーカーやったら看守に突き出した方がいいんやろうか。


「本当か?」


 男達は私を見ながら訝しんだ。疑われて気分が悪い。ムッとしながら出そうになる手足を抑えて、口で答えてやる。


「本当ですよ。独り言呟いてたら、聞かれていることに気がついて、お前はどう思う? って付け足しただけなんですよ。めっちゃ恥ずかしかったので。聞かなかった事にしてほしいくらいなんですよっ」


 早口で言い切る。

 そして全部嘘だ。ギルドからついて来ていたのをずっと知っていたし、私達のことを伺っていたのも知っていた。


 ヒヨリが緊張しているのを理由に、家を知らないことをいいことに。かなり遠回りもした。

 ゴロツキに出会えばいいのに、なんて思っていたのに、会わなかった人たち。


 油断、問いかけのフリ。まさか独り言に答えてくるとは思わんかったけど。居るのが分かってて言葉にした。


「俺はてっきり初めから話しかけられてるものだと思ったよ」


「私も、もう詰めが甘いとか言われたときには何が!? って焦りましたよ」


「ハハッ、俺も勢いで言った言葉だったから、そのあとに詰まったんだよな」


 そんな感じ。


 ノリがいいのはいいことだ。

 空気が読めないと、仲間はずれにされてしまうから。

 いま話してる感じでは、そんなに悪い人たちじゃないんやろうなって思う……ストーカーかもしれんけど。



「……ところで、二人はヒヨリとはどう言う関係です?」


「ヒヨリを助けた親切な人っていうのが俺たちだ。一人は死んじまったけどな」


「捕まったって聞いて心配でな……」


 えっ……。親切なおじさん二人生きてるやん。全員死んだかのような雰囲気やったのに。

 でも一人ヒヨリの目の前で死んだんか。

 留美やったらトラウマで、もう戦えへんくなってそう。


「なるほど。ならなんでヒヨリが元仲間と会わないようにしたんです?」


「してないから!」


 さっき否定せんかったやん。


「ああ。それは、たまたま運が悪かっただけだ」


「ヒヨリも仲間のこと話してくれなかったから、探しようがなくてな……。だからお礼を言いに来た。ありがとな」


 二人は肩の荷が降りたような、嬉しそうな表情をしている。


「いえ、二人にお礼を言われるようなことはしてません。巡り合わせってやつですよ」


 きっと情が深い人達なのだろう。ヒヨリも助けてあげたくなるような性格してるっていうか、懐に入ってくるのが上手いっていうか……。

 世渡り上手いよな、あの人ヒヨリも。

 全部が良いように動いてよかった。他人の可能性もあったわけやしな。


「お前は礼を言われるのが嫌なのか?」


「え? ……いやというか」


 留美は知り合って、知ったから、会わせただけやし。

 ……全部偶然やし。約束ブッチしようかな、とかも思ったくらいやし。いやいやそうじゃなくて。

 このおじさん達にお礼を言われるのは、なんか変っていうか……。


 下を向いた私を慰めるように、おじさんは明るく話す。


「お礼なんてただ受け取っとけばいいんだよ。そうだ、これから飯だろ? 一緒に食べようぜ」


「えっ、えっと……」


「おい、迷惑だろ」


「いえ、ご一緒させていただきます」




 名前も知らないまま、男性二人とギルドで食事をした。

 酒が回った一人の男がウザくなってきた頃、もう一人が酒の回った男を適当に相手しながら連れて帰って行った。

 お金も払ってくれたようで、ありがたい。


 なんだこいつら。と離れることも出来たけど、無視しなくてよかった。

 こう言うのもたまには良いかも。

 きっとあの人たちの話し方が上手かったんやろうな。初対面の人と机を囲んで、一緒にご飯食べて。

 ……痛くなったり、気分悪くなったり、不機嫌にならなかったのは初めてかも。


 浅い人との繋がりってこうやって作るものなんかな。

 うんん、あれは例外。最初から好意を持ってくれる人なんて、そうそうらん。




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