第119話 騎士とは



 二人のことを評価していると、チンピラ風の白騎士が町を見回して言う。


「にしても、汚い町ですね」


「チンピラさんの町は綺麗なんですか?」

「誰がチンピラだ! 殴られたいのかこの野郎!」

「チンピラたる所以はそういう所だと思うんです。……ん? 殺すんじゃなくて、殴るんですね」


「こ、殺すって……そんな事するわけないだろ!」


 目を釣り上げた男は、言葉すら言いたくないとばかりの態度だった。私は彼の慌てようを見て首を傾げる。


「なんでですか?」


 今から何をしに行くんか分かってる?


「そんなの同族だからに決まってんだろ」

「でも今から殺しに行く相手も同族ですよね?」


「……ち、違う! きっともう人間じゃないんだ。それか、操られてるんだよ! だから殺しても、問題ないはずだ……」


 声がどんどんしぼんで行く。

 命の殺傷に関わったことがない人? 初陣ってやつなのかもしれない。


「ふーん」


 あー、あれだ。学校でいる荒れてるヤンキーの人。人を殴ったり蹴ったり暴言吐いたりする割りには、殺そうとはしない感じの。まぁ、人を殺すと大問題だものね。

 そもそも殴ったら暴行罪〜。


 留美も何回、前にいる人を殴ったり、蹴り飛ばしたり、ナイフで斬ったり刺したり、殺そうとしたり。

 それからボコボコにされて、刺されて斬り付けられて殺されたい。なんて思ったことか。

 一度経験してみたいってだけ。


 別に恨みがあるわけじゃないけど、ふとした瞬間に前の人を斬りつけたらって考えちゃうっていう。学生のうちに、一回くらいやっとこうかなって……やばかった。

 普通に犯罪やってことに気付けんくて、やったらどうなるのかって気になってしまって……。なんちゃって!


 大丈夫。留美は我慢強いから。興味とか衝動になんて負けなかった。


 だって、やったら未来に影響するからなぁ。怖い怖い。

 人殺しのレッテルが一生ついて回るなんて、あの社会で生きるうちは不利になる。


 その点、生き物を殺していい。殺さないといけないこの世界って、変な場所や。

 違うな。殺したいと思う方が、社会性を失った人間以下の獣なんだよ。会話で意思疎通ができるのに、それを放棄して暴力に走る。なんだかとても欠陥だらけの獣らしい。


 留美も人殺すの怖いー。


「せいぜい死なねぇように気をつけるんだな」


「心配してくれるんですか? でもご自分の心配をされた方が……チンピラさん、ちびらないでくださいね」


 その様子を見ていた、もう一人のおじさんが笑う。



「あまり虐めないでやってくれ。まだ入ったばかりなんだ」

「おじさんたちは騎士なんですよね?」

「おじ……俺はまだ二十七歳だ。おじさんはやめなさい。白の騎士団所属、コウエだ」


 二十七歳はおじさんじゃないのか。うん、まだ若い。

 白の騎士って正義感あふれるイメージやのに、この人いるからな……。人は見かけによらないタイプでもなさそうやし。

 留美の知識と、この人らの認識が一緒なんか確かめといた方がいいかも。



「そもそも騎士ってなんですか?」


「騎士とは何か。うーん。人々を守る存在と言えばいいか?」


 やっぱ守る人なんか。


「白の騎士団は、北西の町中での揉め事を抑制するために、力自慢たちが集まった組合なんだ」


 力自慢が集まった組合!?

 王族が管理してるとか、トップと紐付いてるわけではなく、ただの寄り集まりの集団!?


 ほぼ傭兵やん。騎士団とか紛らわしい名前つけんなや。


「あの、具体的になにをしている集団なんでしょう?」


「揉め事を止めたり解決するだけで、捕まえるなどの権限は持っていなかったんだけど。その功績を評価した王が王命を下し、正式な組合となったんだ。それ以降、適性があるものを集めて、白の騎士団として犯罪を取り締まる活動しているよ。白騎士の他にも、黒の騎士団や、赤の騎士団、青の騎士団もあって、お互いに付かず離れずの関係かな」


 あぁ、一応王族に紐ついてんだ。


「へぇー。普通騎士団同士でいざこざとか起きそうなのに……」

「まったくとは言わないが、さほどないよ」

「色付き騎士と揉めるよりかは、王の騎士団と揉める方が多いんだよね」


 まだ増えるのか騎士団……。


「色付き? 王の騎士団?」


「なんだそんなこともしらねぇのか?」


 初耳だと言う反応に、白の騎士に入ったばかりらしい男は嘲笑う。

 留美は本当にわからないから、そのバカにするような笑いに目がいくことはなかった。


 んー。王の騎士団っていうくらいやし、エリートの人たち?

 アルさんの周りにいるあの人らは……また違う騎士団っぽい。影の騎士団! ……はなんかちょっと違う?



「おい、聞いてるか?」


「え? 聞いてないです」


 ピキらせた男に向けて、申し訳なさそうにする。


「すみません。考え事してました」


「はは……」

「チッ、もう一度だけ説明してやる」


 何気に優しい? ということではなさげ。マウント取れて嬉しそう。



「いいか。王族直属の騎士が、王の騎士団と呼ばれる奴らだ。北の町を守るのはもちろん。王を守る役割を請け負っている。そんでもって鼻っ柱の強い、面倒この上ない奴らだ」


「こいつのいうことも一理あるが、完全に実力主義のエリートたちだね。王の騎士団は規律正しく、王様を全てより優先するような方達だから、市民優先の俺たちとは衝突しやすいんだ」


 なんか、どっちも聞いてて違和感ある。


「何が規律正しいもんかよ。あいつら俺たちのこと見下して、野良騎士とか呼びやがる」


「俺たちも、あいつらを、毛並みのいい犬と呼ぶだろ」


 この温厚な人までそう呼ぶということは、王の騎士団と色付き騎士団の亀裂は凄まじいのだろう。

 そういえば、色付きの騎士団は来るって言ってたのに、王の騎士団は今回参加せえへんのやな。こういう時くらい協力してくれたらいいのに。



 おっさんが止まった。


「さあ、着いたよ。作戦会議の場にね」



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