第120話 同志がいた
連れてこられた場所は、なんとか
鎧の色が赤や青、黒に白がいるのは、騎士団の違いって事だろう。この場所に騎士団員が二百人。集まった適性持ちが百人以上ってこと?
にしても広いなぁ。あ。ご飯発見! でも誰も食べてないし……。
「ありがとうございました」
「ああ。またね」
チンピラ風は何も言わず、おっさんに着いて行った。
あのメイドさんはここにはおらんのか? どうせ主人様の近くにでもいるんやろ。戦えるんなら、参加しろよな。
あ。細目野郎のパーティー発見。美味しそうな物に近づいたら細目野郎が近くにいた。見つかりたくない私は背を向けて歩く。
行けないじゃないか、ハァ……お昼ご飯。
出入り口や窓際には騎士が屯していて、出れそうにない。
「樽にでも座っとくか」
強制的に連れてこられたのか、一人の人も結構いるみたいだった。仲間と一緒に来る人はよっぽど仲がいいとか?
うわっ、なんか睨まれた……。こんな機嫌が悪そうな人いっぱいで大丈夫なんかな? ハハハ、勿論留美も不機嫌さ。
連携なんかあったもんじゃない。
マジで、騎士団だけで行けよ。騎士団も俺たちだけで行きたいって思ってそうやけど……。
「てめぇら、覚えてやがれ! 妹に指一本でも触れたら、色々切り落としてやるからな!!」
「俺らに当られてもな……」
「早く行こうぜ」
また一人強制の人が入って来た。
やっぱり一人みたい。家族を人質に取るやり方間違ってるよね。いやぁーこっち来ないでー。
「くそっ」
今入って来た男は、人の少ない私の方へ来ると、机やら樽やらを蹴り始めた。
その揺れは私の座っている樽まで及び、留美はさらに不機嫌になる。
本当に、強制なんて考えた人誰だよ。余計に危険になるんじゃないの?
蹴るな蹴るな。うざい、見た目は二十代くらいかな? 現役バリバリって感じ? ……知らんけど。
「あの! 蹴るの止めてもらっていいですか」
私が冷めた目で男に苦情を言うと、男は眉を吊り上げる。メンチをきる彼に負けじと睨み返す。
機嫌が悪いのはお前だけちゃうっての。
赤茶色の目で、上から見下ろしてくる。その髪も同じ色だ。
「なんか言ったかお前。俺は機嫌が悪いんだよ」
「奇遇ですね。私もすこぶる悪いです」
私が自然に返したことに驚いたのか、少し言葉に詰まったようだった。
この空間で機嫌がいい人って、限られてるんじゃないかって思うんだ。
「お前に強制的に連れて来られた奴の気持ちが分かるか?」
「わかります。私もそうですから」
「……チッ、本当に胸糞悪い奴らだ」
「そう言うこと、あんまり声に出さない方がいいと思いますよ」
「知るか」
留美にガンを飛ばすことをやめ、樽に腰掛けた。
どうやら一旦頭を冷やせたらしい。
私も、息を吐いて、落ち着いた仮面を被る。不機嫌な顔してても、伝染して空気が悪くなるだけだし。表面上くらいは取り繕わんとな。
「ご家族は妹さんだけなんですか?」
「なんでお前に話さなくちゃならない」
「別に。叫んでいたようなので、そうなのかなって。暇なので、何か話してください」
イライラしてるより、気が紛れそうやん。なんか話そうよ。
あぁやばい、なんか言ってとか一番難しい話題やん。
一見ただ周囲を眺めているように見えて、留美の内心は冷や汗と、もう一回何か話せる話題はないかと、いろんな箱を探している状態だったりする。
そんな時、隣の男が口を開く。
「………妹は、腕と足が一本づつ無いんだ」
「生まれつきですか?」
「いや、ウルフを狩りに行った時に囲まれて、仲間に囮にされた……らしい。生きていたのが奇跡だったがその代償に、妹は……」
止まった。なんか言ってほしいんかな?
「大変ですね」
あっけらからんと言う私に、男が不愉快なのを前面に出す。
いやいや、勝手に話して来たのそっちでしょうに。いや聞いたん留美やった、ごめん!
「えっと、もっと同情して欲しかったですか?」
私が困ったように言うと、男はため息をつく。彼は否定するように首を振った後、不機嫌な表情で自分に言い聞かせるような声で言う。
「いいや、必要ない。お前にとっては他人事だもんな」
「まぁ、いま会ったばかりの他人ですしね」
家族を囮にした奴ら、今も生きてるんやろうか。留美やったら絶対許せんわ。それこそ、一人も残さず殺すくらい。
だから留美はこんなところで死ねない。あの害虫を殺さなきゃダメだから。
私は興味津々と言うふうに聞く。
「その妹さんの仲間、殺したんですか?」
「殺したと言うより、ウルフに殺された。妹を囮にして逃げた奴が、ウルフの作戦にハマって死んでやんの。笑えるだろ?」
「うふふっ、そうですね。ざまぁみろって思います」
「お前とは気が合いそうだ」
自傷的な笑みだと思った。
死んで嬉しいと思う自分が嫌なのだろう。
「気が合う……そうですかね? まだ会ったばかりですし、気が合うかなんて分かりませんよ」
なぜか少し呆れるように見られてしまった。
「俺の名前はガエンって言うんだ。よろしくな」
「私は留美っていいます。よろしくお願いします」
わーいっ。知り合いができた! 自己紹介し合ったってことは、知り合いでいいよな!?
留美は嬉しそうに足をぶらつかせる。
「ここで一つ、私の気まぐれです」
「はぁ?」
何言ってんだコイツ、とまさに顔に書いてあるが、嬉しい気分な私は気にしない。
なんとなく私も、この人とは気が合いそうだと思った。その感覚を信じて、恩でも売っておくことにする。
何より、一人で行動するより、情報が回ってきそう。
欠損ポーション。これがあれば、妹さんの手足は治る。
妹さんのためになればいいなんて、これっぽっちも思っていいないが。手足が治ればきっと、この人は恩を感じて、私を裏切りにくくなるはずだ。
あぁでも今渡しても意味がないのか。ふむ……。この人も留美も生きて帰れるって保証ないしな。
「ふふっ、この戦いが終わったら、また会いませんか? その時にいい物をガエンさんにあげます」
「お前にいいものでも、俺にとってはそうじゃないかもしれないぞ」
「え、……いや。ガエンさんにとっても良いものです。いい物のはず……」
ぐぬぬと留美が気を揉み始め、彼はそれを見下ろして初めて笑った。
「くれるってんなら、ありがたく貰おう。お互い生き残ろうぜ」
あ。ちょっとまって、これは死亡フラグではなかろうか? いや違うか。うん、違う。違うんだよーー!
なにもないが、棒を思い浮かべて、手元で折るような動きをする。
「お腹すいた」
「腹減ったんなら、あそこに料理があるぞ」
指さした方は細目のいるパーティーが雑談している。仲間がいるからかそこまで空気は悪くないようだ。
「そうなんですけど、あまり近づきたくないパーティーがいて、どうにも気まずいんです」
「そうか? なら、俺がとって来てやるよ」
「本当ですかっ!?」
絶対いまの私は笑顔だ。
美味しいものに飢えてるんだよー。
「なんでもいいな?」
「はい。あ、やっぱりお肉多めで!」
「わかってるよ」
え!? なんでわかってるん!? まさか心が読めるのか!? こ、こわっ。……なんてね。
きっと妹さんを重ねてるんやろう。何歳なんか知らんけど、そういうの止めてほしい。とっても不愉快だ。気持ち悪い。
それにしても結構集まったな。
最初に二百人って聞いた時から、結構大規模な作戦になるのはわかってたけど。留美たちってどういう立ち回りを求められてんのやろ。
そういえば、賊の数とか聞いてない。
どんな作戦でやるのかは今から伝えられるんやろうけど。……不安。あぁ不安になってきた……。
あーあ。留美も人殺しの仲間入りしちゃうのかぁ? って前にも殺したことあったんやった。でもあれノーカンじゃあかん? 意識朦朧としてたし……。
うぅ、もう殺すことに躊躇がなくなってる。たぶん、敵が人間でも、敵なら殺せるわこれ。……驚き桃の木山椒の木ってね。
人間だろうがゴブリンだろうか一緒。慣れって怖い。
留美らの出番なくて、騎士団の人らがやってくれたら一番良いんやけどなぁ。
ガエンさんが皿を持って戻ってきた。
「お待たせ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「っ!? なにを――」
「え? だって私に妹さんを重ねていたでしょう?」
どう言う反応なのかわからない。とりあえず持ってきてくれた食事を受け取った。
「すまない」
「ん? いえ、食事ありがとうございます。ガエンさん」
美味い!! なんだよもぅー。美味しいじゃないかこのやろー。毎日これを食べたい。あのまずいご飯から、おさらばしてやるっ。
先程のことを思い浮かべると、自分がだいぶ嫌なやつになってた気がして、モヤモヤする。
でも、目の前にある食事が美味しくて、そっちの方に顔が緩んでしまう。
「美味そうに食うな」
「だって美味しいですもの。毎日食べたいです」
「そうか? こんなもん食ってたら、すぐ太るぞ」
「……太りませんよ、何言ってんですか」
ジト目で見ると、ガエンさんは含み笑いを浮かべて、自分の分を食べ始める。
私も視線を手元に下ろして、もぐもぐと食べていく。
美味しいもの食べて、太るかどうかは運動するかせえへんかによってくると思うねんなぁ。それに、ちょっとくらい、ふくよかな方がいいに決まってる。
不健康は、最悪や。太ってても楽しい思いはできるけど、不健康になったらベットから出られんくなるからな! 嫌だ嫌だ。
美味い美味い。これ持って帰ったらあかんやろうか……?
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