第118話 脅された挙句の強制参加とかやる気出ない
朝。
今日のことが不安すぎて全然寝付けなかった。
いつまでも、うだうだしているわけにはいかないから、柔軟をして広間へ。時計は八時を指している。
「おはよー、起きて大丈夫なん?」
広間には雷とパパがいた。時期にママも井戸から戻ってくる。
「大丈夫」
「てことで、お金集め行くぞー」
雷がしんどそうな顔で言う。どう見てもまだ熱を拗らせている。
これはあれか。パパがみんなに昨日のことを相談した感じか。留美のことより、みんなの安全を考えて欲しい。
「熱下がったとしても病み上がりやろ。やめとき」
「留美、ごめんな」
パパからのいきなりの謝罪を聞いて戸惑う。
「いいよ。強制やけどお金はもらえるらしいし、村人が賊になっただけやって。素人に毛が生えた相手しかおらんし大丈夫。騎士団とか言う奴らが二百人くらいは参加するらしいし留美の他にもいっぱいいるやろうしな」
知らんけど。
「そんな大規模な作戦なん?」
「いま逃げちゃえばいいやん」
昨日忠告されたからなぁ。家族に迷惑はかけたくないし、危険な目にもあってほしくない。
推薦とかいうよくわからんのされてなかったら、留美だって逃げてたよ。
「んー。逃げんのは無理かな」
「なんで?」
「約束しちゃったから」
「一方的なんやし破ればいいやん」
「この十字の印。契約の印のせいでな」
もちろん実際は契約の印などではない。ただナイフで肌を十字に切り、ヒールポーションをひと舐めしたら治りきらない傷ができると言うわけだ。
それを印と言い張れば、三人には少なくとも今は本当のことはわからない。
こんな小細工した理由は、逃げられないのが、三人のせいでもあるって分かったら、また落ち込みそうだから。
自分たちが人質にされてるってわかったら、無理してでも一緒に来ようとしそう……。家族に危ないことに関わってほしくない。
「ご飯でも食べに行く?」
留美の後ろで聞いていたママがそう言った。
「そうしよか」
朝食。
うーん。不味い。めちゃくちゃ失礼だけど。なんでこれでお店続けられてるのか疑問でしかない。
昨日美味しい焼き鳥を食べただけに、戻った時の不味さがまた最悪だ。
砂砂してるし、硬いし、味気ないし……そもそもこの食べ物が謎。なにこれ。これを病人が食べるのはしんどいのでは? と思って顔を上げると、案の定三人ともあまり進んでいなかった。
でも食べないと治らんしなぁ。お昼は焼き鳥でも買ってこよう。
うん、いい考え。いや、消化的には良くない? いや肉は元気の源や。魚の方がいいんかな? お野菜……料理する道具がねぇ……。
私は家族と別れて、ギルドへ向かった。
行くと決まれば大まかな道筋なども知っておきたい。
クリスティーナさんによれば、賊のアジトまでは片道三日をみているらしい。遠いな。これは先に知っていてよかった。日数かかれば家族に心配かけてしまうし。食料の問題が特にやばかった。
防水袋Sを五枚買う。銀貨五十枚。防水袋という存在そのものが割高だ。しかし、ただの布袋に食べ物入れるのは気が引ける。ましてや、そのままポーチに入れるのはちょっとね。
食べ物を買っておく。
ハンバーグ五つ。銀貨二枚
硬い食パン十枚入り。三つ。銀貨六枚
カラ干し肉十個。銀貨六枚
ソーセージ十本。銀貨四枚
蒸かし芋十個。銀貨二枚
ウズス肉六つ。 銀貨三枚。
肉はひとまとめでいいや。早速防水袋Sを使う。
時間が止まるポーチで本当によかった。一応六日分と思って買ったけど。毎日パンとか飽きそう。待って? 片道三日ってことは、向こうで止まったりする予定あったり? その場合食料が足りないんじゃ……。
いやまさか、考えすぎやな。
「…………」
一応買っとく? いやなんかフラグ立てるみたいで嫌や。願掛けの意味を込めて、買わない!
家。
まだお迎えの人は来ていないらしい。もう朝終わっちゃうよ?
手に入れた情報をそのまま話しておく。
「水汲んでくるけど、誰かいる?」
「頼むわ」
「俺もー」
「あたしも」
「りょーかい」
井戸水を引き上げ、水袋へ。
よし。そういえば、お風呂はいってないなぁ。
「はい」
「ありがと」
「おぉ、ありがとう」
「あ、どもども」
「留美ちょっと、体流してくるわ」
「あたしはもうちょっと寝とくわ」
「んじゃ、俺も〜」
三人は寝るみたいだ。
危険が少ないように言ったのが、まだ安心させたんかな。それとも一緒に来るために、早く治すぞーってなってんのかな?
あ、早く水浴びしよっと。
「冷たっ」
こういう時に魔法が使えたらなぁ〜。って思うわ。
水をお湯に変えたり、温風を出して乾せる。そうしたらこの長い髪も、早く乾くやろし。
水袋を満タンにする。
水浴びが終わった私は広間に行く。
すると、ちょうどいいタイミングでノックが入った。まだ髪の毛は濡れているが、そのうち乾くだろう。
「お迎えの人かな?」
カチャッ。
「……誰ですか?」
ドアを開けた先には、白い鎧を身につけた騎士っぽい人が二人いた。
一瞬ポカンとなってしまったのは仕方ないと思う。
「迎えに来ました」
「あ、はい。少し待っててください」
私はドアを閉めて上に上がっていく。
「なんで用意してないんだ。昼に来るって聞いてんだろ」
「まだ十一時だ。それに、髪が濡れていただろう」
「濡れてるから、なんだってんですか?」
「風呂にでも入っていたんだろう」
階段を上がった留美は、自分の部屋へ向かう。
騎士というか傭兵のような顔してたなぁ。
留美はベットを整えて、窓とドアに葉っぱを挟んでおく。起きていたパパに行ってくることを伝えると、入り口へ戻った。
「お待たせしました」
「遅ぇーぞ」
「三分も経ってないです」
「うるせー、俺に意見するな」
「うわ質悪い方のチンピラ……」
喧嘩し始めた私と部下の間に、三十代前半の男性が入って来る。
「はいはい、そこまで。二人とも行くぞ」
「はい」
「チッ、わかったよ」
なんや、このチンピラ。弱い……よね? 虎の威を借りた狐。そう、この言葉がしっくり来る。……実際戦ったらめっちゃ強かったりしてな。
騎士団っていうからどんな人たちかと思ったら、こんなチンピラ風でもなれるくらいの組織かよ。
白い鎧着てるし。剣持ってるし。本物の騎士っぽいけど。留美二次元の幻想に当てられすぎや……。あ、見習いっていう可能性もあるんかな。
礼儀はまだですかぁ?
この前歩いてる人。この人は、そこそこ強い……かも?
留美に相手の強さをはかる目なんかないけど、キラさんたちみたいに、勝てへん無理。とは思わないくらい。
留美と同等かちょっと上か、以下。同等ということは留美は経験で負ける。正面からならポーションゾンビアタックで六割くらいやろうか、奇襲で八割かな。
戦士と真っ向勝負はやばい。留美は雷で悟ったよ。
ヤダ留美ったら、近寄って来る全員が敵に見えちゃってる。……おふざけは置いといてと。
常に戦いに身を置いてる人たちじゃないことは確かや。鎧も剣もピカピカでお飾りかっての。
実は経験もあんまり積んでなかったりして。
だから戦う相手違うってば……。
こんな街にいる時から気を張ってたら持たんて。
あぁ〜、誰か人の良さそうな人おったら良いなぁ。友達ほしい。
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