第117話 カナさんとキャラ被りの人が来た。嫌い



 家の前の道。

 誰かいる……。父と、騎士が話している。家特定されてる……っていうか、ギルドから貸してもらってる訳やもんな。ジアさんに言うこときかせれんのやったら、クリスティーナさんも答えてそう。


「そうですか。では明日の朝また訪ねます。体は大切にしてくださいね」


「はい、ありがとうございます」


 うわ。留美の部屋から誰か出て来たし。何も盗まれてへんよな?

 不法侵入もそうやけど、強制とか。偉かったら何してもいいのかよ! って言いたくなっちゃうよ。


 家から離れていく二人と一人。グループ行動をしているらしい。


 私は警戒しながら、家に入った。



「ただいま」

「おかえり。いれ違いか、運の悪い」


 わざとやけど、留美は知らないふりをしておく。


「誰かといれ違った?」


「留美の知り合いっていう人が来てな。それで『空間』を使える人はここにいるか? って聞かれたから、いるよって答えておいたよ」


 何も知らないパパの言葉を聞いて、留美は頭を抱えてしゃがみ込む。

 これは伝えるべきか迷うな……。

 マジで一人でゴブリンの森にでも逃げといたろか。本人がおらんかったら、どうしようもないやろうし。



「どうしたん? なんかマズかったか?」


「んー。ちょっと何してくれてんの? って言いたいくらいまずい」


「知り合いやろ?」


「知らん人。知り合いが『空間』使える人。なんて言い方するわけないやん」


 アイスに惑わされた留美が言うのもなんやけど、知り合いやでって言われてニコニコしてるパパもパパや。


「でも留美の名前知っとったで」


 名前割り出すくらい、留美でもできるわ。

 人に聞く、呼ばれてるの聞く、どっかに名前書いてあるかもしれんし、話してるうちに名前を言うように誘導した可能性だってある。そもそも名前リストが渡ってしまってるし。

 ため息つきたくなるのを堪えて、私はもう言ってしまう。


「名前はリストに載ってたから知ってるだけ。あいつら、留美が『空間』を持ってるからって、強制的に賊退治に参加させようとして来てんねん」


「なんやそれ。聞いてないぞ」



 今更遅い。誰がなんのスキルを持ってるか言われた時点で、怪しんでほしかった。


 熱のせいで判断が鈍ってるせいか!

 私はイライラしながら、今日頭に入ってきた情報を開示する。


「今日、ギルドに行った時そういう話を聞いた。あいつら逃げられんように、一人一人に話しかけてるみたい。さっき教官のところ行ったら隠れとけって忠告されてん。帰って来る途中に偶然会ってしもうてな、撒いたんやけど、家の位置が特定されてるとは思わんかった」


「そうか。……ごめんな」


「うんん。隠れとけばいい話やから大丈夫やで。まだ熱あるやろ? 寝といたら?」


「気をつけや」


 階段を上がっていく父を見届けて、留美は一旦落ち着くように水を飲む。

 そうや。留美のもの何か盗まれてへんか、見なあかんのやった。なんかって留美の物は一つしかないけど。



 留美の部屋。

 枕の下に置いていたポーチ(小)の中を探る。おそらく何も盗まれてはいないと思う。

 一安心やけど、賊退治が終わるまでは安心できない。

 今日ずっとゴブリンの森にでも逃げとこうかな。そこまで追ってくるんなら、仕方ないって思えるかもしれん。



「明日の朝? 絶対嘘や」


「そうですね、その通りです」


 なんのスキルも使っていなかったせいで、全く気づく事ができなかった。

 不法侵入やぞ。


 振り返った先にいたのはメイドさんだった。綺麗な黒髪を後ろに流してメイド服を着こなしている。

 コスプレ? カナさんとキャラ被りしてんで。いやマジで髪の色とか目の色とかめっちゃ似てる。髪の毛くくってないとか、顔立ちはちゃうけど。

 留美は冷え冷えとしている、深く赤い瞳から冷酷さを悟った。


「あなたは推薦されているので、逃しませんよ」


「不法侵入ですよ」


「落ち着いていますね」


 暗殺もこなす戦闘メイド。こーっわ。やっぱカナさんとキャラ被りしてる。


「えっと……迷い人、ですよね?」


 なんの根拠もない言葉。ただの心の準備をするための時間稼ぎ。

 会話に応じるようで、メイドさんは服を摘んで礼をする。それが様になってるのがなんか悔しい。


「はい。ですが、どうぞ助けなど求めないでください。私は主人に仕えるメイドですので」


 なりきりってわけでもなさそう。

 留美にとっては敵やな。


「いやいや、別に助けなんて求めませんよ。会っちゃった時点て、終わったーって思いましたし」


「あなたは変わっていますね」

「あなたには言われたくないです」


「……あなたは変わっていますね」

「あなたには言われたくないです」


「…………」


「…………」


 なんで二度も言ってくるん。

 留美のどこが変わってるんさ。メイドしてる貴方の方が絶対変わってるって。


「うん? 推薦されているって言いました? 誰に?」


「申し上げられません。では、明日の昼にお迎えにあがります」

「結構です」

「もし、逃げるのであれば、熱を出している仲間がどうなっても知りませんよ」


「仲間に手を出す気?」


 冷たい視線を向けると、メイドの女はナイフを構える。


 こわっ。言うこと聞かん奴は排除する的な過激派の人みたいになってんでっ。

 それに反抗して留美もナイフを持とうかと思ったけれど、やめた。不毛や。



「逃げる気はありません。ただ……、仲間に何かあったら、あなたの主人とやらの敵になってやるから」


「貴様……」

「なに? お前と同じこと言っただけじゃ」


 今にも飛びかかってきそうな彼女から視線を外す。

 どうせ、今は留美を殺せない。強制に例外を出したくないとしても、殺す。とまで罰をつければ、反発が来ることは想像がつくだろう。

 死んだら死んだで……と言うのもあったりする。


「こんな来たばかりの初心者に威嚇して。笑っちゃいます」


「……チッ」


「本人目の前で、舌打ちしないでくださいよ……」


 窓が陰った。男性が部屋の中に入ってくる。


「キョウカ」

「わかってますクサナギ。では、昼にお迎えを向かわせます。……私、あなたのこと嫌いです」


「安心してください。私もあなたのこと嫌いですから」


 お互いに笑顔で嫌い宣言をする。

 メイドさんはナイフをしまうと、窓から飛び降りて行った。


 警戒しなきゃって思ってる最初にやられるとか……あほ〜。でもマジで誰が推薦したんやろう?

 ジアさんってことはないやろうし…………あの紫の人? アルさん……はないにしても、キラさんたちって線もあるのか。クリスティーナさんかも。あとあるとすれば、門番さん? 留美の知り合いってそんなおらんからなぁ。


 全く知らん人からの推薦ってことはないやろうし……。留美が認知してないだけの可能性も……。うーん……。


 留美は窓を閉めてベットに座る。そのまま仰向けに倒れ込んだ。



 はぁー。あのキャラ被りのメイドさん、ムカつく。…………人それぞれってことやろうけど……。やっぱり人間と関わるのは大変。

 留美ってかなりの巻き込まれ体質やな。自分から起こしてることも多々あるけど。


 雷とか、ママとかパパとかも、なんかに巻き込まれてたりすんのかな? んー、後で一応詮索せんさくしてみよう。


 ベットから起き上がる。


「ナイフ拭いておこう。あとポーション作って……薬草取りに行って。その前に、三人の様子でも見に行くか」




 夜。

 準備はそこそこ完了。絶対にこれをしなければ、なんてこともなく。今知っていてできる範囲での準備をする。


 ポーションは欠損八個、麻痺二個、火傷二個、眠り四個の合計十六個追加。

 薬草は二本取ってきてすり潰した。

 毒草を四本使って、毒薬(麻痺)と、毒薬(火傷)毒薬(眠り)ができた。


『鑑定』


『毒薬(火傷)』

 なんらかの毒。

 触ると火傷するっぽい。



『鑑定』


『毒薬(睡眠)』

 なんらかの毒。

 人間なら一口で五時間は眠るっぽい。



「よし。あとは寝るだけ……あ、夜ご飯食べてないけど……まぁいっか」


 面倒臭い。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る