第112話 ギルドでの不穏な情報



 空を見上げていると雷はやってくる。



「あ。留美いた」


「ん、おう、何かよう?」


 さて、切り替えて行こうかな。

 ポーションを瓶(小)に移さないと。


 雷が井戸の方へ行った。水を飲んで顔を洗い。ぽたぽた水滴が落ちているのに、私の方へ歩いてくる。

 留美のそばにきて突然、犬のように頭を振るから、しばいておいた。



「風邪はもう大丈夫なん?」


「熱は下がったと思うけど、ちょっとだるいかな……」


「じゃぁ、明日も休みにする?」


「万全を期すなら、休んだ方がいいやろうけど……身体が鈍らんかちょっと心配」


「あー、なるほど」


 どっちを優先するかって言ったら、体調を戻すほうが先か。お金も稼ぎたいけど、万全じゃない状態で怪我でもしたら嫌やし。

 一人死んで、そのまま全滅。……なくはない。



「ところでさ、ママとパパ知らん?」


「え? 雷、一緒にいたんちゃうの?」

「うん。俺が起きた時にはもう居らんくてさ」

「探す?」

「いや、俺一人で行って来るわ。留美は休んどけ」


「じゃ、任せた」


 それだけ言うと、雷はまた出かけて行った。



 私は部屋に戻って、空の瓶(小)に、瓶(大)に入ってるポーションを入れて行く。

 ヒールポーション二十個。

 欠損ポーション二十個。

 毒草を一つガリガリ、ゴリゴリ削る。


『鑑定』


『毒薬』

 何らかの毒。

 麻痺毒になったっぽい。



 毒薬(麻痺(強))が二つ完成。

 鑑定さんがなんらかの毒っていうけど、麻痺毒以外のまだ出来てないよな。


 もしかして草の時点で毒は別れてて、同じような場所で取った草は同じような効果しか出ないとか?


 ……いや。


『鑑定』


『毒草』

 食べるとランダムに毒に侵される。

 すり潰して水に混ぜると、毒薬が作れるっぽい。



 ランダムってことは、毒薬にしたあとも麻痺以外が出る可能性も大いにある。

 ガチャで同じキャラが当たった的な感じたと思っとこ。もっと面白いもん作れたらいいな。

 色々混ぜ混ぜしたり。固体にできないかとか。気体にできないかとか。食べ物に入れてもちゃんと聞いてくれるのか、とか。


 次は『マナ草』を削っていく。


『鑑定』


『マナ草』

 食べるとマナが回復する。

 すり潰して水と混ぜると、薬になるっぽい。



 ガリガリ ゴリゴリ……。

 ひとつまみっと。


『鑑定』


『マナポーション』

 マナが回復する。

 回復するのに十二分っぽい。



 完成ー♪

 留美は嬉しそうに手を叩く。


 ヒールポーションは薬草一本で十二個分出来るのに、マナポーションは一本で瓶一つ分か。少っ。

 回復するのに十二分……。これは留美に対してっていう認識でいいんかな?

 多分そう。ゴブリンの時も互角っぽいとか言われたし。


 そもそも魔力、MPという概念が留美にはわからん。使ってんのか、減ってんのか。あるのか、ないのか。

 ない場所に回復促しても、ゼロはゼロや。


 小さな瓶に入った液体を光にかざす。


 透明な青色の水はキラキラと太陽を反射し、とても綺麗だ。



 あ、ポーチ買いに行こうと思ってたんやった。

 木刀も削らないと。

 することを思い浮かべたあと、伸びをして身体をほぐしていく。


「んー、肩こるっ」




 ギルド。


 珍しくクリスティーナさんの所に人がいた。相手してもらってる身としては、珍しいと言ったら失礼か。


 机に向かい、食べ物を注文する。

 白い鎧に身を包んだ体格のいい男性だ。白一色のマントとか、装飾の入った剣をぶら下げているのを見ると、騎士を連想してしまう。

 戦士に品格が備わると騎士になる……。あはっ、かっこいぃ〜。


 なに話してんだろ?

『音聞き』で、二人の会話の内容を盗み聞くように集中する。



ぞくの中にまどわすものがいるのは確定なのね……」

「ああ。直接手を出してくる可能性は低いが、いるのは確実だと聞いた。おそらく一筋縄ではいかないだろうな」

「面倒なことしてくれるわよねぇ。女、子供いるんでしょう? 本当に皆殺しにする気?」

「王家は、そう言ってる。王族様は、惑わす者のことが大層怖いらしい。それにくみする者も生かしておけないっていう考えだろう。まぁ、王家の言葉を聞かない人間が怖いってのは、分らなくもないが」

「悲しいことね。同じ種族なのに」

「そうも言ってられない。奴ら西に拠点を構えているはずなのに、北から来る物資を襲っている。せっかく作ったこの町も、食べ物の支給がなくなれば、放棄する可能性もあるだろう」

「でもなんであんな場所に拠点を置いたのかしらね? 来いと言っているようなものじゃない」

「惑わす者と関われば、不可解なことが多い。これはいつものことだろ。即刻対処すべきだと王家は仰せだ。なんでか俺たちの方に仕事が回ってきたけどな」


「それで報酬は?」

「参加したグループに金貨十枚」

「少なくないかしら?」

「こちらもこれが精一杯だ。そもそも俺は王家の考えは理解できていない。迷い人を含むそこらのパーティーに募集をかけるなんて亀裂きれつを生むだけだろうに」

「そちらの数は?」

「白、赤、青、黒、忠犬以外の騎士団が向かう。人数は二百人程度。我々だけでも殲滅できるが、王家からの指示だ。ご協力願う」

「はぁ。相手は村人に剣をもたせたような素人と、それに加勢する正体不明の惑わす者ね。そのまま伝えるけどいいかしら?」

「そこは任せます」



 王家。惑わす者。賊。イヤな会話聞いてもうたな……。


 教官のジアさんたちってもう帰ってきてんのかな?


 それにしても人殺しに行くぞーで、金貨十枚か。勝ち戦やとしても、留美は行きたいとは思わんなぁ。

 惑わす者ってのが何か知らんけど、教官のジアさんたちが様子見に行くくらいやもんな。絶対関わったらあかんやつや。



 私はご飯をモグモグしながら、聞いていた。

 今日のご飯は美味しいですっ!


 男が去って行くと、クリスティーナさんは口を開く。


「だそうよ。参加する人はいるかしら?」


 やっぱり聴ける人は、聞いてるよな。いやあの音量なら聞かせてる、って言った方が正しいかも。

 クリティーナさんってば聞くの早ない? 普通熟考するやろ。


 もぐもぐ……。

 食料事情も深刻かもしれないけど、正体不明の相手がいる中で、人間と殺し合いしに行くって。いや無理無理。

 留美達は初心者やから不参加でも文句ないやろう。


 文句言われたら逆にびっくりするわ。そんなに戦力不足なん? って。煽ってやる……。でもあの騎士さんも、上の人に言われただけっぽいしなぁ。



 少し時間が経つと、ギルドにいる三グループが手を挙げていた。


 勇気あるな〜。無謀やで。チャレンジャーやなぁ。

 誰かがやらなアカン事なんかもしれないけど。騎士団が行くいうてんねんから任せりゃいいやん。


 金貨十枚で未知に挑む彼らが不思議でならない。

 チャレンジ出来んこういうのが、慎重派の悪いところなんやろうけど。やっぱり何回考えても、好奇心とか興味より、恐怖とデメリットの方が勝つな。



「ごちそうさまでした」



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