第106話 雑貨屋にアルさんがいた



 瓶を買いに、無愛想な店員さんのいる店へ向かう。

 今日はキラさん達いるかなぁ? あの店に行く必要があるのかといえば、ないけど。店長さんっぽい人に、また行くって言ってしまったからな。

 瓶を入荷してもらっておきながら、買いに行かないって酷いことだ。来なくなるときは言えよみたいなことも言われたし。


 カラン。



「いらっしゃい」


 お店に入ると青年がいた。アルさんだ。毒殺されかかってた割には元気に何もなかったかのように、そこにいる。


「アルさん。こんにちわ」


「ああ」


 相変わらず無愛想。でも返事してくれるだけいいよね。何より顔がいい。

 あっ、あんまり見たら失礼か。


「瓶(小)を八十個ください」


「はち……そんな買ってどうするんだ?」


「入れ物に使うんです」


 興味ないよね。

 アルさんが無言で奥へ入っていった。待っていると彼が顔をひょっこりのぞかせる。


「来てくれ、ノノ」


 この店に留美以外ここに居ないけ……。アルさんとバッチリ視線が合った。


「聞こえてないのか?」

「え? はい、……私ですか?」


「瓶が必要なんだろ? 来てくれ」


 いや入っていいん? 関係者以外立ち入り禁止って張り紙があるけど……。まぁ、店員さんがいいって言うならいいか。



「うん? のの? ……アルさん、私は留美るみですよ」


「悪い、間違えた」


 ノノって誰やねん。掠りすらしてないで……。

 アルさんは箱から瓶を一つづつ机に置いていく。私は数を数えるように並べていく。頭が重痛いせいで数えるのが辛い。



「最近この町のギルドで、身体が欠損していても治してくれる者がいると聞いた。それも破格の値段で。…………なにか知らないか?」


 私は驚くように目を丸めた。


「それっておいくらくらいなんです? すごいですね」


「心当たりもないか?」


「んー、ないですかね」


 そんなすごいクレリックの人いるんや。でもなんで今まで欠損してる人ほったらかしやったんやろ?

 やっぱりお金持ちだけじゃなくて、たくさんの人が笑顔になれる方がいいよね。

 留美はまだ見ぬクレリックさんを心の中で尊敬する。



「そうか。……金貨四枚だ」


 そんなに金貨を強調しなくても……。この前ふざけて『銅貨?』って聞いたからか。結構根に持つタイプなんやな。

 私は金貨四枚を机に置いた。


 すると、金貨を持ち上げた彼が、奇妙なものを見るかのように私を見る。


「お前、この金どこから持って出て来るんだ?」


「自分で稼いでます」


「一人で?」


「気になっちゃいます?」



「……はぁ」


 なんやねんそのため息。

 留美の一瞬嬉しそうにした瞳が沈んでいく。


 あ。そういえば、ママが調味料欲しいって言ってたな。高そうやなっというかあるかな?


「あの。調味料って置いてあります?」


「あったはず……。そこで少し待ってろ」


 そう言って、在庫部屋に私を置いて、彼は表の店を歩き回っている。


 留美がなんか盗むとか思わんのかな……。……そんなんしたら、上にいる人らに殴られそう。

 アルさんがウロウロしている間に、私は瓶(小)をポーチへ入れて行く。



「ほら、何を買う?」


 皿に入れて持って来たのは七種類。


 塩 胡椒 砂糖 醤油 味噌 マヨネーズ ケチャップ 酢 の八種類だ。

 なんだろ。これはやっぱり、大分前にこの世界に来た人たちのおかげだよね。ありがたやー。


 こんなに調味料があって、なんで店の料理はあんなにまずいんだ! って、叫びたくなったが、堪える。ふぅ。



「全部買いたいです。おいくらですか?」


「入れ物に入れてみないと、なんとも言えないな。……舐めてみるといい」


「ありがとうございます」


 アルさんやぁ、目安くらいわかるやろ……。

 グラムでの価格取引なら、十グラム、百グラム、千グラムくらい値段分かっときぃな。いやそもそも調味料があるかどうかでウロウロしとったくらいやし、仕方ないか。

 ……うん? じゃぁ値段どうする気なんやろ。


 久しぶりの調味料は、美味しいぃなぁ。



「あの入れ物に入れてた時の値段って、どうやっていくらだって言うんです?」



 私がそう言うとアルさんは無言で裏へ行った。何しに行ったんやろ。とりあえず、調味料ぺろぺろしながら待っていると、瓶を抱えたアルさんが戻ってきた。


 塩の詰められた瓶を下ろす。


「これで、金貨二枚」


 高っ!! えぇー。瓶(中)ってそんなに大きくないよ? ジャム瓶くらいだよ? それを日本円で二万以上!?

 そりゃお店に出せないわけだ。調味料使った料理が、すっごく高くなっちゃうもんね。

 うんん、不味いところはそれ以前の問題や。

 新鮮さと、保存方法とか、知らんけど食べちゃダメな味がするってやばいよな。


 驚きながら、じーっと瓶を見下ろす。


「買うのか?」


 買うのか買わないのか、それが問題だ。…………。



「買います」


 私は静かに言った。


 留美は美味しいもの食べたい。

 これは留美の幸せのために必要な出費や。お金があるのに出し渋るんは、ちゃうやろ。お金があるなら、欲しいもの買ってもいいやん。



「全部買います」


「全部買うのか? 金はあるんだろな?」


 買わせるために全部瓶に詰めてきたんちゃうんかい。


「ありますよ。なかったら頼みません」


 そう言って金貨十六枚をポーチから出した。

 アルさんは驚いたような表情をすると、すぐに無表情になって瓶を動かす。



「これが金貨一枚、銀貨三十枚。これとこれとこれが、金貨二枚。これとこれとこれとが金貨二枚、銀貨五十枚。これが金貨三枚だ」


 砂糖が一番高いのか。

 なんか、塩胡椒だけでもいい気がする。でもお味噌汁飲みたいし。色々あったら、美味しいのレパートリーが広がる。


「値段違うんですね」


「違うらしい。……いくらになる?」


「金貨十七枚と銀貨八十枚……です?」



「じゃぁそれでいい」


 じゃぁって……計算間違えればよかった。いやいやよくない。お金ことはキッチリしないと。

 計算機プリーズ! 留美の暗算とか不安っ。


「自分で計算しました?」


「構わない」


 いや構えよ。お金のことは大事やぞ。

 アルさんが腕を組んで私を見下ろす。



「お金、銀貨二十枚返してください」


「そうだった」


 慌てて銀貨二十枚返してくれる。

 アルさんって同じくらいの歳やんな? 貴族とかって教育厳しそうやけど、終わってんのやろか。逃げ出してきた系の人やろうか。

 さすがに、貧乏やから働きにきてるわけじゃないやろうし。


 私は頭痛がひどくなり、家に帰ろうと思った。もし風邪なら、移してしまうかもしれない。


「ありがとうございます。また来ますねアルさん」


「ああ。また来るといい留美」



 ちゃんと覚えてくれたようだ。……ノノって誰やろう? どんな人と間違われたのか、ちょっとだけ気になる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る