第105話 今日のやるべきことは3つ



 朝。


 起きた時は、朝日が部屋に差し込んでいた。私は重たい体を起こすと、柔軟を始める。


 うぅ。まだなんか頭痛い。体も寒いような暑いような………。

 だるい。風邪でもひいたかな……? 病は気からってね。大丈夫、大丈夫。


 あ。売るためのポーション作らなきゃ。

『空間』で周囲を見渡す。大丈夫。誰ものぞいてない……。


 あー。痛い! 頭がズキズキする……。



 広間に降りると雷がいた。


「おはよ」

「おはよー」


「ちょうど良いところに、ポーション三つづつ返して、夜にでもまたあげるからさ」


「ん? いいけど」


 雷から欠損ポーションとヒールポーションを三つづつ受け取る。

 ギルドに売る分がないの忘れてた。作るにしても、瓶ないし。距離的にギルド行ってアルさんところ行く方が回り道せんで良いからな。


「あとこれもっといて」


 ヒールポーションと欠損ポーションの入った大きな瓶、空の大きな瓶、死者から貰ったものを渡す。



「多い多い」


 せっかく作ったポーションと、お高い瓶を破られた日にゃ……泣くね。


「瓶割ったら怒るからな」


「俺のイベントリは絶対隔離空間なのだよちみちみ。安心したまえ」


「そりゃ安心だ」


「んで? なんか入れるために減らしてんの?」


「うん、ちょっとの間いっぱい入れたい物あんねん。前溢れたんやけど、今入ってるっていう不思議なことがあってさ。また溢れるかもって思うと面倒やから持っといて」


「おっけい。夜には取りにきてな」



 イベントリという異空間に消えていく物たちを眺める。


 最近思ったことがある、イベントリは普通のスキルじゃないかもしれないってことだ。

 武器防具を持っている強そうな人たちは、個人個人でポーチを持っている。もしもイベントリが普通に覚えられるスキルならば、そうはならないだろう。


 スキルのイベントリを持ってる人が居ない、という事はないだろうし、同じまたは似たようなこと出来る人はいる……はず。

 隠しスキル……みたいなものなんかも。留美が覚えられてないのは、何が原因なんかな?


「鑑定覚えれた?」


「いんや。うんともすんともいわん」


「留美もイベントリ開かへん」


 私は少しだるそうに身なりを整え、歩き出す。ぎゅっと縛った黒髪が揺れる。

 さて、今日のやることすませてしまおう。


「どこ行くん?」



「……ギルドと、小物屋と、スキル教官のところ」


 言うごとに伸ばしていった指を、雷に向けてゆらりと振る。


「わかった。二人にも言っとく。いつくらい帰って来る?」


「さぁ? 時間がわかりにくいこの世界ではなんとも言えんな。問題は徒歩や。歩く距離問題どうにかして。自転車が欲しい」

「むりむり。ぶつかる未来しか見えへん」


「……夜までには帰って来るつもり、時計もあるか見て来るわ」

「りょーかい。いってらー」


「いってきまー」


 パタリと扉が閉まる。




 ギルド。

 一瞬酒の匂いがしたが、ギルド内は空気の入れ替えがされているかのように爽やかだ。窓は一切開いていない。不思議。

 ハーブのような観葉植物が置いてあった。これのおかげか? もしや、鼻を麻痺させた方かと考えるも、美味しそうな食事の匂いは漂っている。


 空気が良くなっていても、この騒がしさは変わらないらしい。ちょっとだけうるさいけど、昨日の静寂と闇を味わった後では、それすらも心地よく感じる。


 ドアの入った少し前。立ち止まってる私の後ろで、ドアが開いた。

 グループは私を一瞥すると掲示板の方へ一直線だ。


 私もクリスティーナさんの座っている方へ歩き出す。



「いらっしゃい。今日は一人?」


「はい。今日はポーション売りに来ました。それとポーチは汚れとれました?」


「ポーチの汚れは取れてるわよ」


「ありがとうございます」


 昨日今日なのに、早い仕事で助かります。

 ポーチ(小)が机に置かれる。それを自分の腰につける。うーん、ちょっと荷物多い人になってしまっていた。もっさり……。


「ポーションはいくつかしら?」


「欠損三つ、ヒール三つです」


 雷が持っていたものを取り出し、机に置く。間違えないように、ちゃんと二つの間は空間を開ける。

 その隣にジャラリと金貨が音を立てた。留美の目は金貨に釘付けてある。



「金貨三十九枚よ」


 お金のタワ〜。はははっ。あれ?


「クリスティーナさん一枚多いですよ。四十枚あります」


「あらほんと。言わなければ貴方の物になったのに」

「お金のことはきっちりしたいですから、そんなことしません」


 言わなければ留美のものやったんか……、頭によぎりすらせんかった。でもしたらあかん事やろそれ。

 ジャラジャラと自分のお金袋へ入れていく。


「なんて清らかな子なの〜」


「えっと、もう行きますね」


 清らかとか、ないわー。

 どう反応したらいいのかわからなくて、ぎこちない笑顔になってしまった。


「またいらっしゃい」


 クリスティーナさんはにこやかに手を振ってくれる。それにちゃんとした笑顔で答えてから、ギルドを出た。


 タタタと走り出し、適当な場所で止まる。



 お金がいっぱい手に入った! あぁ、お金があるって素晴らしいっ!

 人がいないことを確認してから、お金袋を取り出して、金貨を眺める。その表情は欲しかったものが手に入った子供のようだ。


 少し眺めていると、これは使うものだと言う当たり前のことに気づく。でもどうやって使ったらいいのか、ちょっとよくわからない。


 ご飯食べるのと、日用品と、武器と防具。あとの使い道は?


 お菓子を買う、とか? 五百円くらいのお高いお菓子買っちゃう?? それともケーキか?! 誕生日でもなんでもないのに買っちゃう!?

 食ばっかかよ留美。食は大事。かっこ確信。


 あとは……うーん。紙とペンが欲しい。お絵描きしたい……とか。思ったり……。


 留美は嬉しそうに笑った。


 この人生で、自分がやりたいことを初めて思いついたからだ。

 思えば、小学生低学年の時に、二回くらいなんか絵の賞を取ったのが嬉しかったんだよな。自分は全然いいとは思わなかったけど。

 あれがいいと思う人もいるんやって……。絶対ルーツここや。


 でも…………。



 嫌なこと思い出すのはやめやめっ。犯罪やから攻撃するのもダメダメ。


 でも。この世界なら……、この世界じゃなくても許さない。

 お金の袋をポーチにしまって留美は歩き出す。


 優しくない。楽しいことだけ考えたい。ポジティブにいかなきゃ。ポジティブってなんだよ。ムカつくッ。



 じゃなくて。今やること。


 スキル覚えることが必須や。三十分で金貨飛んでいくようなものもあるし、それ考えたらまだまだ足りひん。

 生きるために必要なことを、十二分に準備しておかないと。

 踏み躙られないように、見下されないように、奪われないように。


 思えば家具とか、毛布とか、服とかも全然充実できてない。

 水回りもちゃんとしたいよな。蛇口ひねって出て来るエリアに引っ越すのもあり。でもお金がかかるから、やっぱりお金が足りんくて……。


 やめた。

 これは留美が勝手に考えて行動していい問題じゃない。


 ドンと留美は思い切り壁を殴った。

 手からジーンと痛みが伝わって来る。少し痛みで停止してから、また歩き出す。



 今日のタスク。

 ギルドでポーション売って、ポーチ受け取った。

 次はキラさんにポーションを渡すこと。

 いや、先にご飯食べに行こう。食べないと人は死ぬ。


 あぁ、感情ジェットコースター辛い……。落ち込んでるの見られたら標的にされるから、気にしない気にしない。



「蒸かし芋三つください」

「焼いたウズス肉二つください」

「パンをください」


 チャリン。銀貨が三枚落ちていった。


 今日はいつもより、美味しいもの食べちゃおっ。

 うん。美味しいっ。やっぱいつもの六倍の値段するだけあるな。やばそうじゃなくて、新鮮な味がするっ!


「んふふっ♪」



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