第104話 一触即発の相手は誰?



 草原を歩き、見える町の門に、感動のようなものを感じる。


「町やー」

「町やな」


 南門から入って、とりあえずギルドへ向かった。

 人の多い街はなぜか安心感を覚える。決して私の味方ではないと言うのに。不思議なものだ。




 ギルド。

 カウンターに座っているクリスティーナさんの元へ、一直線でいく。


「クリスティーナさん、ただいま帰りました」

「あら、おかえりなさい。昨日ギルドに来なかったけど、コボルド方面で何かあったの?」


 なんか知ってるような言い方やねんなあぁ……。

 私はうーんと悩ましげに話し出す。


「実は、洞窟を抜けたんですけど、コボルドが出てきて帰れなくなってしまいました」


「大変。みんなが無事でよかったわ」


「それと夜に人間が襲われてるのを見つけて、駆けつけた時にはもう……」


 嘘は言っていない。夜に襲われてるのをみて、朝に戦闘がある場所まで行った。

 どう足掻いても助けることはできなかっただろう。



「……そう」


 すると、クリスティーナさんが本当に悲しそうに眉を下げていた。

 ギルドに所属している人みんなにそんな情が移っていたら、心が持たないんじゃ。それともただの演技? 偽善者? あー。留美の心が荒んで行く。


「えっと、その人たちの荷物です。二人ともポーチ貸して」


「はいはい」

「ん」


 ポーチを二人から受け取ると、私はクリスティーナさんに向き直った。クリスティーナさんも私をまっすぐ見て来る。


「これが落ちてました」


「これは……。……そう。これはもうあなた達の物よ」


 この一瞬で誰のものかわかったん?

 どこかに番号でも書いてあるのかと思ったが、特になさげ。私はクリスティーナさんがギルドに来る人をよく把握しているのだと知る。


「もらっちゃっていいんですか?」


「死んだ者の荷物は、最初に取った人の物になるって決まってるの。寄付してくれるって言うなら、ありがたく受け取るわよ」


 寄付……。


「じゃぁこれ、いただきます。……この汚れ、……とれますかね?」


「もし良ければ、銀貨五枚で洗うわよ?」


 私がつけるものじゃないからと、後ろを振り返った。


「汚れてんの嫌や」


「……えっとお願いします」


「わかったわ。サービスで紐も直してあげるわね」


「ありがとうございます。……それと、六人パーティーの人たちがコボルド方面に行ったの知りませんか?」


 後ろで誰かが、ゴクリと固唾を飲んだ音が聞こえた。

 クリスティーナさんは、なんでそんなことを聞くのかと不思議そうな表情をしたが、言い淀むことなく答えてくれる。


「今日依頼を受けて行ったのは、何組かいるけど……」


「男の戦士二、ちっちゃい女の魔術師一、女のクレリック一、細めの目をした男のローグ一、スタイルいい女の弓使い一。計六人のパーティーでした」


 補足をするとクリスティーナさんが目を丸めた。どうやら、私の探し人が記憶にあったらしい。


「それならきっとセルジオちゃんのパーティーね」



「セルジオ……」


 どの人やろう……ちゃん付けやけど、男の人の名前……よな? たぶん。

 敵じゃないだろうけど、あの戦士の男は許さない。雷に斬りかかったこと許してない。絶対殴る。


 一人で悶々としていると、クリスティーナさんがカウンターから乗り出してきた。


「あの子達は揉めるような性格じゃないと思うんだけど、どうかした?」


「どこに住んでてどういう人たちかってことは、教えてもらうことは出来ますか?」


「それはちょっと無理ね。個人情報は漏らさないようにしているの。そういうのは本人に聞けばいいんじゃないかしら? 気のいい子達よ」


「そうなんですね。その人達と戦闘になりかけまして。どんな人たちか気になっただけです」


 留美は真っ向から否定したわけではないが、信じていない様子。彼は苦笑いする。


「……人間同士、仲良くね」


「出来るだけそうします。……えっと、コレ、お金に変えて欲しいです」


 そう言って、私はポーチからコボルドの耳二個と、オークの耳一個出す。

 受け取ったクリスティーナさんは、その耳の状態を見るように向こう側へ下ろすと、金額の詳細を言ってくれる。



「コボルドの耳二個で銀貨三十七枚、オーク耳一つで銀貨十七枚。プラス銀貨十枚で、合計銀貨六十四枚よ」


 なるほど、一匹銀貨二十枚にまで跳ね上がんのか……。

 もしかしたらオークは三十枚なんかもしれんな。留美らが倒したのって傷ついていたから、だいぶ減点されてる。

 十枚タワーを六つ作って、残り四枚。


「はい。六十四枚確かに」


 ジャラジャラと家族の袋へ入れていく。


「あ。洗浄代の銀貨五枚です」


「受け取ったわ。今日はゆっくり休みなさいね」


「はい」



 私たちはギルドの隅で、食事を取る。不味いとか言ってられないくらいお腹が空いた。もう腹ペコペコペコグー。

 お腹を満たすことに集中するのだ。


「留美、顔色悪いで大丈夫?」


「頭痛い」


 そういえばと、私はお金を銀貨五枚ずつ分けておく。あとは家族のお金だ。

 もぐもぐ。


 やばい。早食いしてしまった……。まぁいいや。

 足が痛い。頭が痛い。上から下まで痛い痛い……。疲れた留美寝る……。


 うつらうつらとしながら、さんさんと光る太陽の下。ゾンビのような遅い足取りで、家の方へ足をすすめた。




 家。

 水桶から水を飲んでしまって、トイレへ。

 各自自由にしたところ。全員ベットで睡眠をとるようだ。


 自分の部屋に戻った留美は、風呂にも入らず。靴を脱いでベットに倒れ込む。


 あっかぁん。


 目が閉じていくのに逆らえたのは、三秒もなかっただろう。




 パチリ。

 瞼が開いて一番に見たものは闇だった。痺れるような体を起こし、窓の外を見る。すでに太陽は沈み、真夜中だった。

 寝る時間が昼を過ぎていたような気がするし、まぁこんなものだろう。


 まだ眠い。ゴロンと起き上がった体を前に倒した。

 頭痛い。頭痛がまだ続いている。頭重い。体もだるい。眠い。…………起きよう。



 私が起きた時、ちょうどママが起きて来た。

 パパは外で風に当たっているようだ。雷はまだベットの中にいるが、ゴロゴロしているから起きているのだろう。


 少しスッキリした気分で、階段を降りる。


「おはよー」

「おはよう」


「お腹すいたー」


「ごはん作らな……って、違うわ。なんか買いに行かなな」


「オークでいいんちゃう」


 私達はパパがいる庭へ行く。

 パパは空を見上げながら、星を眺めているようだった。この世界の月星は綺麗だ。現実味を遠ざけるくらい綺麗。


「パパ、おはよう」


「おはようってもう夜やけどな」


「留美、薪持って来るな」

「あたしも手伝おうか?」


「うんん。大丈夫」



 私は薪を持って庭へ戻る。

 ママに起こされてきた雷が、パパと同じように寝転んでいた。留美の足音が聞こえると、二人して起き上がる。


「ご飯にしよっか」

「うん」



 薪を燃やして、焚き火をする。

 焼いているのはウズスという飛べない鳥の肉だ。私たちが寝ている間に、パパが二匹銀貨六枚で買ってきていた。

 お腹がいっぱいになることはなさそうだが、今はそのくらいでちょうど良いのかもしれない。

 オーク肉を食べようかと思ったが、楽しみはとっておこうという事で、焼くのをやめた。


 そして風呂だ。


 砂土まみれを一刻も早く洗い流したい。


 ということでお風呂を沸かした。そして一人づつ入る。またというべきか。


 いっつも最後なんやけど。三人の順番は変わるのにー。留美なんか無意識にしてんのかな? それとも留美の心が三人に読まれてる!? まっさかぁ。

 そんな超能力みたいな……超能力みたいなんはいっぱいあったわ。でも流石に心までは読めへんやろ。



 あがったでという言葉に反応して、風呂場へ。


 お風呂は気持ちいい。そう再認識する。


 いいお湯だった。

 やっぱり毎日お風呂入りたい。あったかいお湯は心が休まるっていうか、溶けるっていうか……。疲れが取れる。




 留美の部屋。

 私は部屋に戻ると、キラさんから渡された薬草の入った瓶を取り出す。


 作りますか。明日くらいには持っていかんとあかんからなぁ。


 周囲の確認を怠っていたと、窓から覗く。

 ダメ押しの『空間』で外を確認する。……よし、いない。別に見られて困ることはしないけど、いや困るか。なんにせよ、警戒していて損はない。



 ガリガリ、ゴリゴリ。


 いつもより削りにくい。それに妙に体が重い気がする。まだ疲れが取れてないのかな。

 何かに吸い取られて行くような……。


 私は粉になった薬草を、三滴という少量の水と混ぜる。

 さすがに怒られるかも。


『鑑定』


『ヒールポーション』

 傷が回復する。

 効果が弱いっぽい。



 やっぱ弱いかー。傷のせいかな? 傷のせいで効果が弱いとか。

 もっと薄めたらどうなるんやろう。好奇心に勝てず、水を注ぎ足していく。どうせ自分のものじゃないし、と。


『鑑定』


『回復ポーション』

 傷が回復する。

 ぽい感じっぽい。



 ……ぽい感じ? ……ぽい感じ?? ……ぽい感じって何?

 鑑定さん、さぼらないで。


『鑑定』


『回復ポーション』

 傷が回復する。

 ぽい感じっぽい。



 変わらんか。

 まぁ鑑定さんもサボりたい時あるよな。うん。


 瓶(中)は半分ほど回復薬として入っている。瓶をポーチに入れた。


 明日ポーチ(中)買いに行こう。

 この前あぶれたのに、よく入ったな。なんで入ったんやろう。っていう方が正しいか。

 相変わらず、制限の法則が謎すぎる。


 ポーチ(小)は薬草入れかな。もし同じものに対する数の制限があっても、全然使えるし。

 あとは、ポーションを売りに行かないと。

 でも今はポーションないから、アルさんに働く店に行って瓶買って作らないと。ついでにキラさんに、あの出来損ないのポーションを渡すっと。


 明日の予定メモしたい。忘れちゃう……。


 私はベットに転がって、ぎゅっと毛布を抱くようにして目を閉じた。

 眠気が……。



 おやすみなさい。



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