第100話 恐怖の野宿
人間を殺したコボルドはコミュニケーションを取るように唸っては吠える。
そして、コボルドは人間を引きずって洞窟へ帰って行った。彼らにとっては狩りの一環だったのだろうか?
やっぱ暗さで見えてるとか反則やろ。さすが夜行性。
人間の彼らが落とした物はいらないらしく、落ちたものは置いて行ったらしい。
私は緊張の糸が切れ地面に座り込んだ。
「どうした?」
「コボルドたち洞窟に帰って行った」
「はぁ」
「よかったー。俺こんな夜に戦いたくないし」
同感。いや、留美はまだ『音聞き』とか『空間』で周りを感じること出来るけど、三人はほぼ見えてない。
やっぱり夜に戦闘は絶対あかん。
ママと雷が肩の力を抜く。パパはなぜか難しい顔をしたままだ。
何を考えてんのやろ?
パパが留美を見て、口を開く。
「ちょっと待て、今。コボルドたちは行ったって言った?」
「うん」
やっぱ突っ込んじゃう? そうだよねぇ……。同じ種族やし、ちょっと気になるよな。
人間とコボルドは会わずにすれ違いましたー。って言いたい。
その言葉でママも気づいたようだ。
「ってことは」
「人とコボルドが会わなかったっていう、選択肢もあるやろに」
「どうなん?」
雷が変なことを言ったもんだから、三人とも私の顔を見る。
何を聞きたいかはわかるけど、なんで聞きたいのかはわからない。留美コボルドは人間のパーティーの方に向かってるって言ったよな?
想像できることをわざわざ聞く意味がわからない……。まぁ、聞かれたから答えるんだけど。
「五人の人間はコボルドに殺されたよ。それと、コボルドが人間の死体を持って帰ったみたい」
死んだ姿でも思い浮かべたのか、三人は顔を歪める。
何に使うんやろな? やっぱ食べるとか? 留美たちが持って帰ってる耳もやけど。謎が多い世界やからなぁ。
留美だってちゃんと可哀想だとは思っている。
同族が死んだことは嫌だし、敵に怒りが向くけど。感情のままに動くほどではない。
殺しに来てるんだから、殺されることもあるやろうし。他人が死んだところで私は悲しくないし。なんで会ったこともない人のためにこっちが命を捨てなければいけないのか。
人間誰でも自分を優先したくなるはずだ。
弱肉強食って、ほんとイヤになるよね……。
食われないように強くならなくちゃ。殺されないように。踏み躙られないように。
「うっ」
頭痛がする。
極度の緊張のせいか、心臓からもドクッと嫌な強い音がした。
「留美大丈夫か?」
「うん」
「なぁ、もうちょっと離れへん?」
ママの提案に考えるそぶりを見せる。なしやな。ここは離れん方がいい。
暗闇で動くことの危険性と、下手に音を立てて気かれでもしたら、先ほどの人間の二の舞になってしまう可能性。
留美はあのパーティーのローグ……いたか知らんけど。警戒する人みたいに探知を怠ったりせんから、同じ事にはならんやろうけど、出来るだけ危険は避けたい。
逃げたところで、追いつかれるのが関の山や。
三人は私を見る。
そっか、留美がリーダー役やってるもんな。
「いや、動かへん方がいいと思う」
「理由は?」
雷が剣をイベントリにしまいながら聞いて来る。
異空間に剣が消えていくのは、何度見ても不思議な光景だ。
「動いたら音がたつやろ? それに暗いから動きも遅くなる。それよりかは、ここで静かにしてる方がいいと思って」
「そっか。岩の如しやな」
「山の如しや」
「風を切るように走り、根を張って耐え、耐えた怒りをぶつけ、奴らの山を作る。……風林火山」
なんかそれっぽいこと言ってるけど、ちゃうからな。
「寝るか」
立ち上がったパパが先ほど寝ていた場所へ戻っていく。あくびをするような気楽さを見せて、すこし余裕を感じる。
私はその姿に少しだけ気が楽になった。
パパって意外と精神強いよな。
言葉通り、父は寝転んで寝息を立て始める。
「ママも寝るよな?見張りは俺らに任せといていいで」
「あたしは……そうやな。寝るわ」
「「おやすみー」」
ママも横になって目を瞑る。
さて、留美らは見張りの続きや。水の入った桶を取り出して、一人だけ一口水を飲む。
弟の方を見れば、雷は岩にもたれて空を見上げていた。
そして徐に口を開く。
「なぁ」
「ん?」
留美は隣に座る。
「夜ってこんなに月も星も明るくて、こんなに怖いものやったんやな」
「そうやなぁ。安全な所で生きてたから余計にな……。平和ボケって怖いわー。この世界が特に危険で怖いんやと思うけど」
「前いた場所も、そう言う場所はそうやった気がする。遠くて俺らが見てなかっただけ」
狩るものも狩られるものも、どっちにもなりうるって嫌な気分。でもどっちがマシかって問われれば、間違いなく狩る方だと答えるだろう。
先ほどの緊張をほぐすように、立ち上がる。
「どうした?」
「ちょっと、さっきの死んだ人の残したものを取りに行こうかなって」
「留美がいなくなったら、俺らが危ないやん」
「探知の範囲に入ってるし、大丈夫やって」
「俺の精神が持たへんって」
「さっと戻って来るよ」
「……明日にしてや」
雷が見たこともないような淋しそうな顔をするので、私はそれ以上なにも言えなかった。
三人も探知のどれかを覚えられたら良いな。そうしたら、不安が少し減る。
不安そうな雷に根負けした形で、私は岩に体重をかけた。
「明日みんなで行くかぁ」
「うん」
探知に集中する。
アタマイタイ。頭割れそう。視界が揺れる。眠るなよ留美。ヤバイ、眠い。
うぅ。頭痛い。
「留美」
「ハッ、やべぇ……」
一瞬目を瞑っただけのつもりだったのに、意識が飛んでいたらしい。やばいやばい。
頭を振って頬を叩く。
そんな私に、チカッと何か眩しい光攻撃が放たれる。
「うわ゙っ。目がぁ……」
「ワロタ」
光源の正体は太陽だ。いきなりの光攻撃は私の脳を貫く……。もはや眩しい通り越して、痛い。
顔を伏せた留美は眩しそうに空を見上げる。
あぁ、夜明けだ。
そんな当たり前のことに、安心感を覚える。
「ふわぁーあ」
「日が昇ってきふぁーぁ。あくびが移ったやんけ」
本当に日が昇ってきた。森に日の光が入り始め、あたりが見えるようになってくる。それとともに、闇への恐怖が薄れていく。
眩しいー。
雷も同じことを思ったのか、目を細めている。
「周りの様子はどう?」
改めて周囲を確認する。
締め付けられるような、中から突き刺されるような、もうどう痛いのかわからない頭痛を抱えながら私は笑う。
「特に問題ないみたい。コボルドも洞窟に帰ったみたいでおらへん。今なら帰れる」
「なら帰るか」
「賛成ー。二人起こす?」
「うん」
私たちは二人を起こしだす。やはり眠りは浅かったのか、すぐに起きた。
ママがあたりを見渡して目を擦る。
「また何かあったん?」
「いや。もう帰れそうやから、帰ろうかなって」
「そうか」
二人は安堵したような表情を見せる。本当に、長い夜だった。
私はポーチから、マネミカンを十二個取り出す。
朝ごはん代わりだ。
手がベトベトするのを、父の『クリエイトウォーター』『水魔法』で洗う。
こんなことで魔法使って大丈夫か、って思ったけど。魔法を撃てる数とこのベトベトのまま戦うのでは、手がベトベトする方が危ない。という結論に達した。
それに、あと帰るだけやからなぁ。
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