第95話 いざコボルドと合間見えん!
進むぞって気合を入れた私たちは洞窟の中に足を踏み入れた。
確かに『音聞き』使うと混乱するけど、『空間』があれば、なんとなくでも分かる。
スキルを使っていなくとも、唸り声や、何かを引きずる音が聞こえる。
やばい。引きずる音で一番に思い浮かぶのが、死体やねんけど。留美どうかしてるよな……。
コツコツ。
ランプを持っていた留美はパパに声をかけられてランプを消す。
「おぉ……」
洞窟の中は明るかった。土に混じった鉱石が自らキラキラと光っているのがよくわかる。夕暮れのような、暗くてまだ少し明るい光。
目が慣れてくれば、上下左右から放たれる淡い輝きだけでも、ランプなしで洞窟内を十分に歩くことができるだろう。
躓いてコケないことを祈る。
振り返れば、すでに入り口は見えない。
向こう側まで一本道とは言え、洞窟内は曲がりくねっているのだ。見通しが悪くて、ゴブリンの森とはまた違った緊張感がある。
「とりあえず、暗闇で戦闘ってのはならなそうやな」
「わかる、留美もちょっと不安やった。ランプが急に消えたら、戦える気がせえへん」
「ほんまやな」
パパが言ってくれたおかげや。
鉱石の欠片を手に取ろうとしたら、うまく取れなかった。
取れてもその瞬間に光を失うってなんなんだよ……。
私たちは進み始める。
近くに敵がいることを知っている留美は、どのタイミングで知らせるべきかと悩む。
真っ直ぐ行った道を、カーブした場所の前。
岩に手をつくと、留美は後ろに手で制するような行動と取った。三人はピタッと止まり、音を立てずに武器に手を握る。
私はそーっと覗くと、茶色い見た目に光る緑の目が四つ。
コボルドが二匹もいる。
体も痩せ細って入るわけでも、脂肪ががっつりついて入るわけでもなく、筋肉がしっかりとついている。
え、恐っ。ムキムキが立ってる。犬派とか言ってたけど、思ってたんとちゃうっ!
思ってたのと違うコボルドの姿に、少ししょんぼり。
いやでも可愛いやつ殺すより罪悪感がないのか?? わっからん!
もう一度覗く。
ん、見えづらかったもう一匹はモフモフや。
あれが鎧の毛やったら辛いな……。
後ろを振り返った留美は、ジェスチャーで伝える。
前、二、敵、いる。雷とパパ、一、留美とママ、一。パパ最初。OK?
雷が親指を立てた。パパとママも頷く。
ちゃんと伝わったかちょっとだけ不安。以心伝心できたらいいのに。
相手を確認するように、三人がそっと覗きに行く。もしもそのままツッコんでいったら、それはそれでもいいけど。ちょっとビビる。
行かないらしい。
戻ってきた三人がなんか頷いていた。
行くぞと手招き、剣を担いだ雷が、パパに親指を立てた。準備おっけいという感じか。留美もパパに向かって親指を立てる。ママも親指を立てた。
パパがコクっと頷く。
ゴォっと浮かび上がった火の玉が、コボルドめがけて飛んで行く。
ボゥーン! 一匹に命中!!
「キャンィン!!」
ダッと雷が駆け出していく。よくあの剣持った状態で、あの速度を出せるものだ。
雷に続いて、留美も飛び出していく。
雷がコボルドに剣を振った。
敵は怒りで釣り上がった表情をしながら、正面から受ける。奴らも剣を使うらしく、金属音が洞窟に響いた。
あまり音でびっくりするタイプじゃないみたいだ。
コボルドが雷の攻撃を弾いて、ニヤッっと笑った。
雷は目を見開く。ゴブリン相手では力負けしなかったからだろう。危険を感じ、数歩下がる。
先ほどまでいた位置に、別のコボルドの剣が振り下ろされていた。
場所どりがムズイ。道がそんな広くないから、雷に剣振り回されると、留美が前に出られへん。まぁ、逆も然りってな。
入れ替わるように、『シャドウステップ』で移動する。留美は自分担当のコボルドの後ろへ回り、心臓あたりを背中から刺す。
首は無理。絶対斬れない。
「ガァア」
「くそっ、届かんかったか」
コボルドはブンッと腕を振って、私をふるい落とそうとする。
留美はその行為に逆らわず、ナイフから手を離した。『シャドウワープ』で雷の所まで下がる。ついでにママも合流した。
「やっぱちょっと強いな」
「場所よ場所」
「火傷の方。ママと雷でいける?」
「厳しい」
その時、コボルドが二匹とも武器を捨て、パパを見た。
「やばっ」
「右行け!」
「分かった!」
父を狙って、四足歩行で走り出したコボルドたちに駆け寄る。強靭な足の瞬発力は、思っていた以上に早い。
パパは『バインド』を二匹にかける。私が刺したコボルトは成功したが、ファイアーボールを喰らった方のコボルドは避けた。
反射速度もゴブリンとは違う。
パパも魔法の熟練度が上がってるはずやのに。
スキルで追いついたコボルドの目に、思い切りナイフを差し込む。
「ガァッァァ……」
カンッ!
すぐ横で火花が散った。
ダッシュで加速した雷の剣を、コボルドの爪が弾いたのだ。
留美はコボルドと共に傾いていく身体を『シャドウワープ』で着地させた。
雷の剣を弾いたコボルドは、パパにご執心のようだ。
距離がない。手が届かない。あのスピードやと、斬っても刺しても、爪がパパに届く可能性がある。一瞬でそう巡らすと『シャドウステップ』を使い、パパを引っ張って避けさせる。
カランッ! 杖が転がった。ドカンッ! と地面が揺れる音もする。
「無事やな!?」
「ああ」
すぐに起き上がった留美と違って、動くことに慣れていないパパがもたつく。そこへコボルドが飛びかかってきていた。噛み付く気だ。
ズシュ!
「しゃーぃ!」
まるで野球ボールでも撃つかのように、コボルドが真っ二つになった。
流石に息の根は止まっただろう。
コボルドは剣などなくとも、その鋭い牙と鋭い爪が武器になる。なんて奴らだ。でもなんで剣を捨てたのかは謎のまま。
イライラしてもうたんかな?
「きゃぁっ!?」
雷が悲鳴をあげたママの方へ立ち塞がる。
結構な負傷をしているコボルドを見て、どうしたら殺せるのかと思考した。
カンッ! 金属音がなった時、ゴリ押しの字が留美の脳裏に浮かぶ。
「パパ、一緒に殴りに行こっか」
「はぁ!?」
留美が軽い感じに言うので、パパは冗談じゃないと杖を拾いにいく。
「行くぞー」
「無理やって」
留美がナイフを構える横で、拾ってきた杖を構えた。コボルドは雷に弾かれふらついている。
「魔法で援護する」
「魔力は温存しときたい。三人でやる」
「……わかった」
「留美やっていいよ」
「おけ」
『シャドウステップ』コボルドの前に行くと、ナイフを突きあげる。
コボルドは仰け反って、回避すると。死の恐怖からか、傷のせいで目眩がしたのか、何によよろけながら下がった。
敵にも感情はあることは、ゴブリンの時から承知している。
留美のことを警戒していたコボルドは、後ろに迫る雷に気づけない。
そんな動かないコボルドを、弟が後ろから『スラッシュ』で頭を刈り取った。
ゴトリと落ちたコボルドの頭。
声を出す暇さえなく、絶命した。
「はぁ。終わり。グダグダやったな」
「やばい……」
留美は不安そうにうずくまる。そんな時でも、周囲の警戒は怠っていない。
「次はもっと上手くやれるって」
「……やれるかなぁ」
不安だ。不安不安。怖い、不安。もうイヤだ。闇と狭い空間と息の詰まるような空気に殺意を向けてくる敵に死にかけてる現状。
もう無理、留美嫌、やりたくない。帰りたい。無理無理不安怖い。
しっかりしないと。しっかりするんや。留美はリーダーや、うずくまってたらあかん。
チームの指揮下げてどうすんねん。むしろ、頑張るぞーって鼓舞する方の立場やろ。
パパが背中を撫でてくる。雷とママは周囲の確認をしつつ、コボルドを見下ろしていた。
「そういやさ。こいつも部位って耳でいいの?」
「さぁ? 誰か調べてる?」
留美も知らん。
無言で頭を振る。
「俺も知らんなぁ……」
ドスッと足を殴った留美は、思考を切り替えた。よいしょと立ち上がる。
「よしっ。ゴブリンと同じ左耳でいいか」
ついた砂埃を払う。
ママが近づいてくるから、知らせておく。
「パパがちょっと擦り傷」
「ほんまや、いつ受けたんやろ?」
「『ヒール』大したことない傷やけど、一応治しとくな」
「ありがとう」
コボルドに屈んで、解体ナイフで切り裂いた。
「留美下手くそ!」
「じゃぁ雷やれよ」
「無理無理」
「肉投げんぞ」
言葉だけだ。留美は雷のことを見てすらいない。
「牙は取らんでいいと思う?」
「なんで歯? 留美はいらん」
「じゃーもらいっ」
そう言った雷が剣で、ぶつ切りにする。
「てめっ、血が飛んだやろがいッ!」
「ごめんやん。そこまで怒らんといてや」
頭蓋骨がイベントリへ消えていった。
留美は一瞬吹き出した怒りを収めて、解体に戻る。
「むしろ俺は牙が採取部位やと思うねん。それに装飾品にしたら売れそうちゃう?」
ゲームの話かな?
耳とコボルドの持っていた大きめの斧、解体して肉を回収した。
解体したコボルドを端に寄せておく。流石に骨とか入らんやろうし……ポーチにも重量いうもんがあるからなぁ。
死体ってどうなるんやろ……。
他の人が倒した死体を見たことないから、消えるんやろうけど。ちょっと消える瞬間が気にある。
「コボルドのお肉は美味しいかな?」
「いや、見た目からしてゴブとそんなに変わらなさそう」
「確かに」
「声響くから、無駄口はやめよ」
今更すぎるが、パパに諌められて私と雷は黙る。
そのまま歩いて行くと、いくつもの穴が空いている場所に来た。
「いる?」
「近くにはおらんと思う」
そのまま進むと、コボルドたちには会わず、外の光が見えて来た。
まぶしぃ……。
良かった。外や。
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