第96話 洞窟を抜けた先の森で、痕跡発見



「森やな」


 雷が呟く。


 弟の言った通り、洞窟から抜けた先は森があった。ゴブリンの森よりは木々の幅が広く、倒れた木や岩が多い印象だ。

 それだけ大きい種族がいるということだろう。

 体感だが少し湿気が高く、水捌けの悪そうな土地だと感じる。



「帰る?」

「行きたい!」


 即ガンガン行こうぜを押してきた雷を呆れた目で見る。よく元気にいえるよな……。恐怖とかないんかこいつ。

 両親へ視線を向けると、二人は苦笑いした。


「俺は従うよ」

「まぁ、行ってもいいかな」


「マジで? 今んとこ、こういう時の雷の提案に乗ると二百200パーセント事故ってんで」


1000パーセント中二百200パーセントなら大したことないな。れっつごー」

「マジかよお前、ポジティブすぎん? えー。うーん……」



 留美は空を見上げた。太陽はまだ上にある。


「……まぁ、じゃぁちょっと探検して帰ろっか」


 留美としては、恐怖と好奇心だと、恐怖の方が上手だ。外に関わるとロクなことがない。


 それに、帰り道を考えると、帰りたい。絶対闇の中帰ることになるし。……まぁどうなるか試してみるのも一興か。

 何事も経験が大事だ。死んだらしゃーない。


 留美は自分が動き出すのを待っていた三人を見回す。



「ちょっとお腹になんか入れとかへん?」


 留美お腹すいた。


「わかる。緊張で吐きそう」

「それ食わんほうがいいやつやん」


 すると雷がふざけたように敬礼した。


「隊長、スタミナ切れですっ」


「では、火の準備をせよ」

「だが断る」

「なんでやねん!」


 叩こうとした手を雷にすり抜けられる。


「留美、雷、とりあえず移動しよう」


「おけ」

「早よ行け留美」



 *


 隠れるところもあって、若干拓けている場所。

 良さそうな場所を見つけたので、乾いた木々や草を重ねて、魔法で火をつけた。

 もしかしたら誰かがキャンプしたことがあるのかもしれない。


 留美はコボルドがどんなお味なのか気になってしまった。

 だから買ってきたものは置いておいて、奴らを食うことにする。木で血まみれの肉を刺して、肉を焼く。とりあえず焼いとけば食べれる感あるからな……。


 くぅ……。食に対する探究心を満たそうとできるほど、留美らに心と金銭的余裕がないばかりにっ。


 調味料がないのが痛すぎる。塩だけでも欲しい。でもこーんな瓶一つで金貨一枚から八枚くらい飛んでいくって……ほんま意味わからん。


 無い物ねだりしても仕方がない。あるものでやりくりしましょ。

 どんな味かなぁ〜。



「あぁ、ゴブ肉とコボルド肉が焼きあがって行く……」


 雷は見るからにイヤだなぁ。と顔に書いてある。私はゴブリンの森で取った、ハズの実を四つ取り出した。


「ほれ」


「これなに?」


「ハズの実っていう、果物。美味しいから、口直しにでもって」


「やった」


 肉が焼けるまで、まだ時間がかかりそうだ。

 今のところ、なにか来る気配はないけれど、焼く匂いにコボルドが寄って来る可能性を見落としていた。夜行性だから大丈夫かなー、なんて思ったり。


 コボルド以外のものが寄ってくる可能性もあって、一瞬も気が休まらない。早く焼けろ。早く食べるからっ!



「留美ちょっと散策行って来ていい?」


「やめとき」

「あたしも反対や」

「じゃ俺もー」


 不満そうに頬を膨らますも、三人の心配もわかってしまう。


 パチパチ。火の燃える音に、ぼーっとしてくる。



 肉が焼けたぞ。

 結論から言うと、不味かった。


 誰もが思いながら食べたことだろう。

 ゴブリンより強いコボルドならと期待していたのに。コボルドの肉は、思っていたより破壊的にまずかった。

 硬くて、血生臭くて、何食ってんのかわからない感覚。まぁ、食えたもんじゃない。


 これを食べてもお腹を壊さないのが不思議だ。


 あれは、この世の食べのもであっていいのか。食べ物と思ってもいいのか。

 そういえば、クリスティーナさんにゴブリンは食べれるって聞いたけど、コボルドは食べれるかどうかってのは、聞いてなかったな……。


 戦う前に、小腹満たしでダメージを喰らった留美たちは、少しダウン中である。


 ハズの実は美味しかった。




 休息を終えて、その場を立ち去る準備は終えた。立ち上がる。留美は私たちを照らす日の色の変化に気づき、上を見た。太陽がだいぶ傾いている。


「さて、食べたし、帰ろか」


「散策してねぇーw」


 雷の言葉を聞いて、留美は上を指さした。

 動きが少しふざけていたせいか、真似をした雷がふざけるように上を指さす。そんな弟ををぶっ叩く。



「ぃってぇ……」

「留美、どうすんの?」


「散策開始や。行くで〜」


「行くんかい」


 行くのだ。

 私が先頭で森の中へ歩き出す。


 この地味に視界が悪いのがめちゃくちゃ怖い。私はまだスキルで周囲の状況を確認できているからマシだろうけど、三人はこの視界が悪い中で、奇襲に備えつつ歩くって……。どれだけしんどいことだろう。

 留美にはわからないが、恐怖との戦いであることは間違いない。


「おっ」


「なんかいた?」


「いや、薬草見つけただけ」


 私は薬草を摘むと、ポーチに入れる。

 紛らわしいねんとでもいうように、雷がバシンと背中を叩いてきた。ちゃんと周りは見てるし、いいやないか……。

 外見でスキル使ってるかどうかなんか分からんし、不安になるよな。ごめんよ。



「進むぞ」

「うん」


 森の中を進んで行くと、人間とは異なる足音が聞こえた。


「なんかいる」


 私の静かで低い声に、足音が止まった。


「どこに?」


「このまま進んで言ったら見えると思う。相手は遠ざかってるから、背後からの奇襲できるで。殺すか」


「りょーかい」

「ああ」

「慎重にな」


 みんなの心が決まったことで後を追って行く。




「な、なにこれ」


 追いかけていると、酷い血の匂いがした。何かが動いた左を見て見ると、ガリガリのコボルドが八匹くらい死んでいた。

 私たちが戦った個体とは明らかに筋肉がなく、痩せている。それとも、何かの種族に中身を吸われたのか。

 死んだ後の痙攣で、幹から落ちたであろう一匹が、赤の色を広げていた。


「…………」


「どうする?」


「敵の姿見る」


 戦いの痕跡を見たところ、スキルでもわかっていたが、だいぶ大きい種族のようだ。

 音を聞いたときから思ってたけど、足跡に、おそらく鈍器の跡。でかいな……。しかも、痩せてるとはいえ、あの数を殺せるってすごい。

 一撃でミンチ決定かな?


 流れる血が追いかける敵までの道を作っていた。仲間と合流する前に仕留めてしまおう。

 瀕死やったらいいなぁ。


「いくで」

「え?」


「何?」


「いやなんでもない」


 雷が不審な行動をとるが、留美は気にせず歩き出す。



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