第88話 教官達とかくれんぼっ!



「おい留美。鬼ごっこか、かくれんぼ、どっちがいい?」


 そう言ったジアさんを私はぽかんと見上げる。



「……え? なんの話ですか?」


「えー。聞いてなかったの? まぁいいや。今からそのどちらかで遊ぼうと思って、どっちか選んでよ」


「え。じゃぁかくれんぼ」


「かくれんぼ! 決まり!」


 セレンくんが嬉しそうに両手を広げた。

 留美はハテナを大量増産させながら、視線が自分に向いていることに気がつく。



「………もしかして、私も参加することになってます?」


「当たり前よ〜。人数は多いほうが楽しいわ〜。うふふっ」


 もしかして全員参加? この人たち教官なんよな? 暇なのか? 暇なんやろうな。…………せめて他の生徒とか集めへん? きっと留美以外にもいると思うねん。


「あの、他にメンバーとか」


「何言ってんだ? 五人だけだ」


 ジアさん以外の人たちも見渡すが、人数は決定事項のようだ。留美はできない人あと五人くらい欲しいなぁ、って思ったり……。

 うぅ、みんな揃いも揃って……。いや、子供の気持ち忘れないのはいいことやと思う。

 純粋さ忘れるべからず。


「ちなみにお前が鬼な」


「え゙!?」


 留美が鬼かい! おかしいおかしい。

 こんな知らん場所で、隠れた教官らを見つけれるとは思えんのやけどっ。


「話を聞いてなかったお前が悪い」

「大丈夫大丈夫。一回終わったら、鬼交代するから」


「範囲はこの敷地内……、あの森の中。建物に入るのは禁止だ」


「終了の合図はカナさんが呼ぶ声よ〜」



 一回終わったら交代……。一回終わるかな?

 これって、本気で遊ぶ気よな? 留美みたいなひよっこが、教官達を見つけ出す?


 ハハッ、無理言わないでよ……。でも隠れる方もすぐ見つかるやろうし……そもそも参加するのが間違ってる。



「十秒……やっぱり五秒数えたら、動き出していいよ」



 セレンくんの言葉に三人が頷いた。


 やる気満々やん……。

 でも五秒で隠れるの? 素直にすごい。瞬間移動でもすんのかな?

 もーいーかい? まーだだよーっての、やらんってことやろ。ちぇっ、方向すらわからんやん。


「あの。かくれんぼですよね?」


「え? うん。かくれんぼだよ。僕らを見つけた時点で名前を言って、はっきり姿を見なきゃダメだからね」


「分かりました」


 魔法で姿を消されると見えないのは、どうしたらいいやろうか。触れれば姿見せるよな。みんな手強そうでやっぱり見つけれる気がせん。



「言っとくが、手ごわいのは俺だけじゃないからな。意外とロックとか、素早いから難しいぞ」


 ロックさん? なんで? 身じろぎしたら音立てそうな人ナンバーワンなのに。

 え、もしかして、動く気?


「あの。もしかして隠れてる人って、動いたりします?」


「うん。するよ」


 それもうかくれんぼじゃなくて別の遊びや。鬼ごっこと変わらんやん。不満を述べたところで、改善されるとは思えない。何も言わずこのまま行くことにする。

 そうや、訓練のうちと思えばありがたいこと。こんな経験あんまりできんぞっ。


 ドロタンとか、缶蹴りよりは良心的? な気もするし。

 一人、二人は捕まえる。捕まえるぞッ。


 自らを洗脳するようにやる気を出す。

 そして。



「……数えます」


 その言葉で四人はやる気満々で構えた。もちろん戦闘準備ではなく、走る準備だ。


「いーち、にーい………」



 屈んで目を塞ぐ。

 数え始めた途端、ジアさんとエルさんが消えて、セレンくんはロックさんに掴まれて、ものすごい勢いで走っていく。


 協力プレイってありなん? …………まぁ、ダメなんて誰も言ってないけどさ。


「ごーう。いきまーす」


 やっぱこれ鬼ごっこよな。

 釈然としないまま、留美は木々の生える森へ走り出す。


 とりあえず、周りを調べることにする。

 ロックさんとセレンくんが、まだそこまで遠くに行っていないと思いたい。



『音聞き』に集中――――――足音を聞け。少しも逃すな。――――――――――――うん?


『空間』に集中――――――お。二人見つけた。でも、反応が濃い方に行こう。

 ――――――動きはなし。『シャドウステップ』音を立てないように、慎重に近づいていく。



 木の上に飛び乗って、私はあたりを見回した。カサッとも音がしない。近づいたのがバレたらしい。

 あれ? この辺にいるはずなんやけどなぁ?


「誰かいるはずなんだけどなぁー?」


 わざと声を聞こえるように呟く。

 緊張しろ、楽しそうに昂ぶれ、心臓の音を大きくならせ。



 ――――いた。


 私は木から地面にに降りる。『シャドウステップ』を使い跳び、音のした方へ走る。

 反応があった場所から音が消えた。

 一応その場へ行ってみるも、誰もいない。


 ――――――――ん。消えた。――――ずっと、集中してたはずなのに。見失った?


 なんで? ……。


「チッ、マジかよ……」


 せっかく油断してるっぽかったのに。



 *


(クレリック)セレン


 いやー焦った。まさか一直線にこっちくるとは思わなかったよ。気配消してるつもりだったんだけどなぁ。なんでバレたんだろう。

 初っ端からヒヤッとさせられちゃった。


 僕ってば天才だから、そのオーラが出ちゃったのかなー?


 思ってたよりも面白い暇つぶしになりそう♪




(ローグ)ジア


 俺のこと完全に無視して行ったな。捕まえやすそうな奴から捕まえる気なんだろう。


 セレンの奴見つかったか?

 あいつの探知能力舐めんなって言ったのに。


 動いてるってことは無事に逃げれたのか。

 捕まえるチャンス逃すなんて、あいつもまだまだ詰めが甘い。まぁまだ初心者だもんな。




(魔法教官)エル


 あらあら、私のことスルーして行ったわね〜。ちょっと本気で隠れすぎかしら?

 でも本気でやらなきゃ面白くないし〜、せいぜい頑張ってもらいましょ〜。


 うふふ。諦めずにちゃんと探してる。すぐに諦めるような子じゃなくてよかったわ〜。みんなあれくらい根性があったらいいのに。

 少しいたずらしてみましょうか。……えいっ




(戦士)ロック


 あいつら隠れるのうまいからなー。場所が制限されてると、遠くに逃げる作戦使えねぇからどうすっかな。

 一応透明化の魔法かけてもらったが、いつまで持つか。

 やっぱ、気配と距離稼いで逃げるのが性に合ってるよな。


「ガハハッ」


 おっと。仮にも相手はローグ。騒がしくすると見つかっちまう。



 *


 ちっくしょうー! また逃げられた! 誰かわからんけど、出たり消えたりしよる。もしかして同じ人じゃなかったり?

 そんなわけあるか、それやと人数が増えてることになってしまう。


 チッ。……さ。次行こっと。切り替えは速くないとね。


 鼻元で押さえていた誰かの……おそらくジアさんのハンカチから、滲み出た血液が手を伝っていく。

 おっと。……服に着いちゃった。


 血塗れのハンカチで肌を拭って、再度周囲を見渡す。



 さっき通り過ぎた人行こう。


『音聞き』と『空間』を最大限使いながら探す。

 一定距離を保ってるであろう隠れてるジアさんは、とりあえず諦めたふりしといてと。他の三人の中二人は捕まえてやる。


 …………なんでいるのに、見つけられんの?

 透明化してるわけちゃうねんな。ただ、気づくと離れて行ってたり、視線を避けるように隠れられて、いつの間にか逃げられてたり……。

 これのどこがかくれんぼやねんっ。


「あたっ」


 何か軽い石のようなものが頭に当たっていた。


 うなぁあ〜!!


 ムカつくっ。

 思い切り『針投げ』で軽い石のようなものを投げ返し、留美はいきり立って走り始める。


 後一歩が足らんのか、もっと足らんのか。まだまだ足らんのか。手からスルって抜けて行く、うなぎみたいや。

 うなぎ触ったことないけどっ。




「皆様、お食事の用意ができましたよ」


「はぁはぁはぁ……くそが。……留美、口悪くなってる……」


 結局、私は誰一人として捕まえる事は出来なかった。体力も限界だけど、悪態をつくほど悔しい。

 一人二人見つけれんで、何か探知できるローグじゃ。こんなんじゃ、あんまり役に立てへん。ミスしたら奇襲受けて死ぬかも……?


 流れる汗を拭って座る。

 パタパタと服を動かして、体に空気を入れた。あっつーー。



 ジアさんが全員に声をかけて、カナさんのいる場所まで移動するように言っている声が聞こえる。あのレベルになったら三人なんて簡単に見つけられるらしい。


 悔しいっ! 留美ももっと頑張ろっ。そのうち全員見つけれるくらいになったんねんっ。



 少しムクれながら、私もカナさんのいる場所へ歩き出す。



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