第78話 ちょっとチートじみてきたような気がする



 家。

 人がいるようだ。少し警戒しながら中に入ると、雷とパパがいた。


「おかえり」

「ん、留美が帰って来た」


「いや、ちょっと報告があったから帰って来ただけ」


「留美も?」

「雷も?」

「パパも」


 まじ?


 パパの方を見ると、ハハと苦笑い気味に笑みを浮かべた。いったい何があったんやろう、気になりつつも……。とりあえず、自分の事情から話すことにする。


「留美はなんか三日くらい訓練するから、寝泊りもここでしろって言われた。もしかしたら、もうちょっとかかるかもしれん……」


「どんなスキルを習ってんの?」


「潜むやつ。なんか、潜ってると方向感覚無くなるし、戻れへんくなる事もあるから、ちゃんと習得できるまで、教官がいる場所以外で使うなって」


 これが一番難易度高そうに聞こえるよな。実際にむずそうやけど。


「お金は?」


「なんか、最初の一回で良いって」


「あー。その人も、ちょっと性格に問題ありな人?」


「…………」


 あれは、問題あるのか?

 教える立場と考えたら、愛想のかけらもないし、教えようという意欲もあまり感じられない。今日ずっとあの人寝てたし、どっか行ってたし、食べてた。…………。それでいいのか教官。


 留美が眉を顰めると、雷が嬉しそうに言った。


「やっぱそっちもかー!」


 そっち『も』。ということは、雷の方も性格に難ありなんか。大変そー。

 自分もあんまり人のこと言えないから、人には言わない。


「雷とパパは?」


「察して」

「察し」


 適当言ってるだけである。何も察してなどいない。


「……ママは?」

「感じて」

「じゃぁ念送って」


 両手でカモンと手を動かすと、雷がぐぬぬとなんか頑張りだした。

 私は空間に触れるようにさわさわする。


「……………………いった?」


「何もきてない」


 以心伝心なんて出来ないし、考えてることも分からんわ。仕方ない、戻ろう。


「じゃ、言いに来ただけやから戻るわ」

「行ってらっしゃーい」

「いってらっしゃい」


「いってきまーす」


 家から出る。




 ローグ教官の勤務地に戻ると、ここだったかと不安になる。

 昼くる時と、夜くる時って、雰囲気違いすぎで怖いんだよ……。

 昼間は当たり前に行かなあかん場所やから慣れてるはずやのに、夜の学校とか恐怖でしかないよな。それとおんなじ感じ。


 明かりのついていない入り口の前をうろうろして、いやこれは入るべきだろうとドアノブに手をかけた。


 二人は私が外へ行く前の状態のまま。

 カナさんはお茶を飲んでいて、ジアさんは食べている。


 足音を立てながら近づく私に気づいて、カナさんが音もなく立ち上がった。所作が綺麗だ。


「ただいま戻りました」

「おかえりなさいませ。ご覧ください、ジア様はまだ食べていらっしゃいます」


 ジャジャーンとカナさんは笑う。

 まだ食べてるのかと、私も苦笑を浮かべるしかない。


「そのまま夕ご飯に突入する気なんですか?」



 返事はない。


 ほんと……どんだけ食べるんですか。


 一人黙々と食べ続けているジアの周りには、皿が大量に積まれていた。

 胃の中にブラックホールがあるって、食費やばそう……。でもその分いっぱい食べれると思うと、ちょっとだけ羨ましいなぁって。


「私は続きしときますね」



 了承なんてなくても勝手にやるよ。まずは針集めだ。

 針を箱に入れるたびに、何だかお金が溜まっていくような音がする。金属音が溜まっていく音って、いいね……。


 さて。

 針を持って構える。



 ——————あれ? なんか、さっきと違う。……同じはずなのに。何か違う。



 ストンッ! 命中……。ストンッ! 命中……。ストンッ! 命中……?


 え、怖っ。どうなってんの? さっきは全然やったのに、急に当たるようになった。

 これはこれで恐怖。スキルやしこういうこともある……のか? リフレッシュ効果がでたとか? いやぁ、リフレッシュに、そこまでのバフ効果はない。


 投げる。


 ストンッ! ギリ的外。


「留美」


 呼ばれたから、目を丸くして振り返ると、手を止めていたジアさんが私を見ていた。

 ジロリと鋭さを増したような視線が、なんか怖い。


「お前、家族に会って来ただけだよな? 何も食べてないよな?」

「食べてないですよ?」


 胃袋ブラックホールのジアさんと一緒にしないで。


 あ。もしかして、命中力アップのアイテムとかあったりするんかな!? ポーションがあるんやから、あってもおかしくない!

 お金減るからバフアイテムやだー。



「そう。だよな……」


 歯切れの悪いジアさんが目を細めた。留美はグッと拳を握って笑う。


「それより見ましたか! やっと当たりましたよ!」


 一瞬釣られ笑いをしかけたジアさんが、留美から視線を外した。そしてまた食べ始める。

 え、無視? ……スキル使えたって思ったけど、間違ってる? 出来てないってこと?


 ジアさん行動に、私は怒ったらいいのか、悲しんだらいいのか、呼びかけたらいいのか分からなかった。反応するには時間が経ってしまったし……。

 留美はぎこちない動きで、地面に置いている針を取った。



 ストン。命中。


 なにも言われないと心配になってくる。

 はしゃいだのがマズかった?

 なにやっても出来ないし、目標達成出来てないから、もう見放されたんじゃないかとか。勝手に妄想して卑屈になって、やっぱり留美ってダメな子。



「これ、スキル使えてる……よね?」


「ちゃんと使われておりますよ。無自覚ですか? それはそれで恐ろしいですね」


 よかった。


「ですねー、本当に怖いくらいスキルって凄いです」


「恐ろしいのは貴方ですよ」


「はい?」


「何でもありません。夕食までもうすぐなので、休憩なさってください」



 コツンと机に水が置かれた。

 椅子に座って一息入れると、皿を積み上げようとしたジアさんと目があった。


 灰色の目。人の目ってなんでこんなに綺麗に見えるんやろう。くり抜いて保存しときたい衝動に駆られるって言うか。もっと近くで見たい。手に取りたい。……でもそれはダメで、しちゃいけないことで、やってはダメなこと。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る