第79話 信頼は殺意を許せるかどうか
ジアさんから視線を外し、水を飲む。
「お前仲間とどんな感じ?」
問いかけられた内容に、私は困惑する。なんで個人的なことを聞いてくるんやろう、と。
「えっと、仲良いですよ」
私は家族を思い出しながら笑顔で答える。
こういうことは嘘をつきたくないんだよね。……たぶん依存? してる。
家族が死んじゃったら、その代わりを見つけない限り、私は生きていけない気がするし。動けなくなるから、代わりもたぶん見つからない。留美は衰弱死か、餓死かな。ひとりになったらどうしたらいいのか分からんし。
こんな生きていても――
「お前の仲間が、お前と同じ考えとは限らないぞ? ただ騙してるだけかもしれないし、利用するだけしたら、捨てられるかもしれない。囮にされるかもしれないし、嫌な事ばかり押し付けてくるようになるかもしれないぞ」
何それ、絶対無理。
てかそんな人たち仲間になれないって。そもそも留美の仲間は家族だけ。
「その時は反論しますし、私の仲間に限って、そんな事はあり得ません。あったとしても、私は仲間を恨んだりはしませんよ。囮になって確実に死ぬとしても、笑顔で生きろって言ってやれる自信あります」
「よくそこまで信用できるな?」
「まぁ、仲間ですし」
「その辺のやつ仲間にしたら信用するのか?」
「いいえ? 仲間になんてなりませんよ」
留美は不思議そうにする。
仲間と他人をどうしたら混合できるのか、意味がわからない。
「じゃぁ今の仲間を信用できる根拠理由は?」
「何でジアさんにそんなこと話さなきゃいけないんです? この話しは終わりです」
「もし引いたら料金返してやるよ」
なんなんその頑なに聞きたい感じ。興味本位で突くな。
お金じゃ、関係の修復はできないんですよ?
ジアさんを睨みつけるも、なぜか言わなければならない気になってくる。
仲間を信用できる根拠、理由。
「えっと……。とりあえず、……その、私って、何をやってもダメで、この世界に来るまでは、後悔ばかりしてきたんです。役立たすで、穀潰しみたいな……。そんな私でも役に立てるのなら、仲間のためになるのなら、私は死ぬことすらどうでもいいんです。もちろん。出来るだけ危険は避けますし、死にたくないですよ。でも、いざと言う時に囮になって、死ぬ覚悟はあるかなーって。もう二度とやりたくないですけど。今は私がいる方がみんなにとっていいと思うから、まだ死ねない。未来で騙されたり、利用されて捨てられるのは辛いけど、それならそれでもいいです。私が必要なくなったってだけですし。と思っていることを前提条件とします」
「続けろ」
「理由は単純に、恩返しなんです。でもこれは自己満足だってこともわかってて。産んでくれてありがとう。こんな自分を育ててくれてありがとう。あとは産んでよかってった思って欲しい。それ以外に生きる意味が見いだせない。分からない。何なら今すぐ終わって欲しい、死んだ後なんてどうでもいい。魂すら消滅してほしい。……信用し信頼できる根拠はありません。いりません。無条件の信頼ってやつです」
「お前の仲間ってお前の親なのか?」
「はい。父と母と弟と一緒に来ました」
「珍しいな」
そんなしみじみ言われても分からんよ。
ジアさんは家族だと聞いても納得できない表情をしている。引かれてはいないけど、納得もできていないと感じた。留美は伝え方が悪かったかと振り返る。
「先に言ってますけど、私は私のために生きてます。たぶん、きっと。そのはずなんです。わがままだし……私なんかが生きて……」
なぜか涙がポロポロと流れる。
「スキルは役に立つための延長線。自分たちが生きるため。私自身が死なないためッ」
前衛がもう一人必要だと思ったから、剣を持った。ロングソードが持てなかったから、ナイフを持った。
消去法で、ローグになった。これは、自分の意思?
「選択なんて大嫌い。どうせ勝手に決められる。知らないうちに勝手に決まってる。肯定も反論もできない。私はダメな空っぽの人形モドキなんです。人形の方がマシなんじゃないかって思ったりもしますし、ほんと私って役立たず。だからちょっとでも恩ある人に恩返ししないといけないんです」
「どんだけ、ネガティブ思考してんだよ」
「ポジティブになりたくても、出来ないんです。未来に希望が持てないんです……将来なんて大嫌い。時間なんて大嫌いッ」
ドンッ!
留美は威嚇するかのように机を叩いた。
自分の意思で動くようになったから、少しは成長できたと思ってたのに。内側は全く成長してない。何も変わってない。変わろうとしてるフリをしているだけ。
怠惰だ。分かってる、変わらなくちゃいけない。このままだとダメだ。それでもどうしても分からない、行動できない。そんな自分が嫌いで嫌いでたまらない。
「………………」
カクッと燃料が燃え尽きてしまったように、留美の視線がぼーっと彷徨う。
次第に頭の中はスッキリした。実は数十分経っているのだが、留美にとっては一瞬だ。
なにも考えられないし、全部全部涙と一緒に流れていった。留美は感情の抜けた表情で立ち上がる。
「ぶち撒けるように言ってしまってすみません。疑問には答えられましたかね?」
「あ、ああ」
ネガティブな思いに引っ張られるように、ジアさんの評価もどん底である。
「私、修練に戻ります」
留美は困惑しているようなジアさんから離れていく。少し睨まれた本人は考えるように、手を頭に乗せてポリポリと掻く。
お皿を台車に置いていたカナさんは、急に動き出した留美から視線を戻した。
「ジア様が変な質問するからですよ」
「…………」
「それで、……留美様のこと引いてましたよね? お金の返還はジア様のポケットマネーから――」
「引いてねぇ」
「おや、悪徳ですね」
「真実だ」
「おやおや……」
カラカラと台車をの音が遠のいていく。
ジアさんは思い切りため息を尽きたそうな顔をして、目の前の砂糖の降りかかったパンの耳へ手を伸ばす。
「流石に難しそうな……いや、面倒な****してやがる」
私は一度深呼吸をした後、投げ始める。
____五十六で一本__六十三で九本__六十五で……やったー! 十回こした!
ふふふっ、出来る事が増えるって楽しいなっ。でも命中率低いっ! もっと精度上げんと戦闘で使える気がしないって言うか。
これプラス、動かなあかんねやろ。……いや、百メートル先の相手に動きながら相手するかって言われたら……あんま想像できんけど。
あ、鳥とか? この針で倒せへんやろ。
とにかく命中力が低い要練習。百発中当たりが九十五くらいにはならんと。
ふぅと息を吐き出して、針を取りに行こうと歩き出す。
ちょうど集中が切れたところで、カナさんが留美をしばきたそうに手をあげていた。
「留美様、食事ですから休憩していてくださいと言ったでしょう」
「すみません」
とすっ。軽い手刀が落ちてきた。
「あぅ……先に片付けます」
「先に食べてください」
「……はい」
私が椅子の方へくと、カナさんが衝撃波のようなものを放って、手前に落ちた数十本を奥へやった。すると刺さっていた針もカランカランと地面へ落ちて、囲われている角の方へ押し流される。
すごい……。なんていうスキルやろう。
視線を送りながら座ると、ジアさんはまた食べていた。
「何度も言うが、お前修得速度めちゃくちゃ速いな……」
取りあえず、頑張った。
ほんまは遅いって思われてても、留美はこれ以上の速度では成長できんから仕方ない。
「明日からはシャドウワープとか……何か順番の要望はあるか?」
「特にないです」
「今日みたいにもたもたするなよ」
「さっきめちゃくちゃ早いって言ったばっかり……。時間設定、しっかりしてください」
「わかってるって」
軽い。言葉が軽いジアさん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます