第77話 針投げの練習
部屋を移動した。
広い部屋だ。いうなれば、体育館のような場所。天井が高く、安全を考慮してか、設置型の壁が並べられている。
色々な道具が橋に寄せられてるのを見るに、トレーニング道具は豊富に揃っていそうだ。
一つ言いたいことは、外と中の大きさがあっていないと言うこと。
さっきは不思議に思わなかったけれど、改めて見たらやばい。どう考えても空間がねじ曲がってらっしゃる。
待つように指示を受けた場所で、一歩も動かず棒立ちしていると、ジアさんが戻ってきた。
何か箱を持ってきたらしい。
針投げって言ってたから、中身は針だと予想できる。
「ほら」
ずっしりとした重みのある箱だ。
投げられてたら、私は受け止められず、きっと落としていた。
蓋を取ると思った通り針がみっちり詰まっている。七センチくらいかな? 私の中指より一センチくらい長い。
「あの的に投げろ。中に百本ある、無くなったら取りに行ってまた投げろ。連続で十本だ。当てれるようになったら起こしてくれ、俺は寝る」
「えっ、ジアさん寝るんです?」
「折った分はちゃんと報告しろよ」
ジアさんって勝手やなぁ。言いたいことだけ言って寝るって……。
これでお金取るとか、詐欺だよ詐欺。
でも、他人にああだこうだって言われるより、黙々とやる方がいいかも。人の目があるより、ない方が集中できる。
一番手前の的の前に立って、箱を地面に置いた。
なんか、弓道の精神統一っぽいなんかに似てる。
静かで、風は吹いてないけど、自分に集中するところとか。張り詰めた感覚はないけど、狙うは的。距離は全然違うけど………半分くらいしか似てなかったわ。
私は針を持つ。
「あ。いい忘れてたけど、狙うのは一番奥の奴だぞ」
「え? えぇー…………ちょっと遠すぎませんか?」
「何のためのスキルだと思ってんだ。まぁがんばれ」
だいぶ遠いけどダーツ感覚で。まずは五メートルくらいの一番近い的を狙っていたのに。
ジアさんから百メートルはあるだろう的を狙えと言われて、渋々移動する。人がいないのが幸いだ。どんだけミスしても笑われる心配はない。
でもさ。でもさー! いやー。普通さ、近い所からじゃない? 遠いって! 的が豆粒やて! あんなに離れてたら、届かんて! 留美、力はないんよな……。
「まぁ、物は試しか」
スキル。やもんな。
豆粒のような的に向かって、針を投げた。
ぺいっ。
ズサッ
はははは……。やっぱりね。届かん! あれ、十メートルも飛んでないんちゃう。今こそ空間で距離を測る時ッ! ………………十メートルすらいってなさそう。
あ。床に穴が……。細いとはいえ、何度も落ちたら流石に穴だらけになっちゃうそう。
ひぃ……弁償しろとか言われたらどうしようっ。
「留美様。力で投げるのではなく、スキルで投げるのです」
ビクッ。
振り返ると戦闘メイドさんに扮した、見習いローグ教官であるカナさんがいた。何時からそこにいたのか、分からない。
「カナさん」
びっくりした……。
あ。これ、空間の弱点かもしれん。前見てたら、後ろ見えへんって。そりゃスキルとしてあかんやろ。スキルなんやから、意識してなくても分かるくらいにならんと! 留美の熟練度不足やな……。
スキルさんに向けての、文句を心の中だけで呟く。
「カナさん、スキルって具体的に何ですか?」
「スキルは…………スキルはスキルです。それ以上でも、それ以下でもありません」
「そうですか」
今なんか考えたぞ?
別に聞かないけど。でも、全く参考にならない。しゃーない。練習あるのみやな。
「まずは、一番近い五メートルくらいで試してみるといいかと」
「でもジアさんが一番奥のをやれって言ってました。出来なかったので、距離を短くしました。なんて言って、笑われたくないので。このまま頑張ります」
「笑わないと思いますけど……。それでは、私も用事があるので失礼します。サービスで食事はお作りしますので、心配しないで下さい」
「ありがとうございます」
カナさんがドアから出て行った。
ジアさんは端っこ。いつの間に着替えたのか、黒クマの寝間着に着替えている。すでに寝てるのかもしれない。
後ろ姿だけは可愛い。何あのフォルム……可愛いな。
ほくそ笑みながら針を持つと、次々と投げていく。
スキルが発動した時は何時だって何か考えていた。そのスキルはどう言うものなのかって。だから今回も考える。
針投げとは何か。
『腕力で届かないなら、スキルを使えばいい』こんなアドバイスどうしたら……。
スキルかー。スキルねー。あ。スキルだよ。我武者羅に力で投げるんじゃなくて、最初は特に集中が必要なんだや。
『シャドウステップ』がゲームのコマンドを押すように出来たように、『針投げも』そんな感じのイメージとかだよきっと。
針投げは狙った場所に、吸い込まれるように刺さる。
三本目__四本目________九十八本目__九十九本目___百本目
「当・た・ら・んッ」
なんでかは分からんけど、一応届くようにはなった。……もう針ない、取りに行かないと。
そう思って座ってちょっと休憩するために座る。疲れた。
「留美様」
「ぴゃっ!?」
とても高い声が出た。
いつの間に帰って来たのか、カナさんが机に食べ物を並べている。砂糖をまぶした食パンのスティックだ。
それをジアさんが椅子に座って食べていた。
え、ズルい。言ってくれればよかったのに。
「そろそろ休憩でもどうですか? ……一応言っておきますが、私は何度も呼びかけましたよ。少しは周りを気にしてください」
「すみません」
お菓子だ。お菓子! 甘ぁいスティック。
集中力あるのは良い事だけど、周りが見えなくなるのは直さないとだな。……ハァ、何回も思ってる気がするわ。
「ほら、座れよ」
「あ、はい」
用意されていた椅子に座った。グラスの中は冷えたお茶に見える。
「それにしても、諦めてなかったんだな」
「え?」
「あんな遠い所、俺でも集中しなきゃ当てられねぇーっつーの」
集中したら当てられるのか。
この人を追い越したい。と、思うものの、こめかみに怒りマークを付けてるような表情をする。
「そうなんですか。無理難題を言ったんですね?」
「まぁ、食えよ」
この人留美にスキル教える気あるの? まぁでも、狙いは全然定まらんけど。若干、針が的に届くようになったからいいとするか。
「いただきます」
サクサクに焼かれたパンに、マーガリンと砂糖の降りかかったスティック棒。……どうやって作ったんやろう。
「……あ。おいしい」
んぅーー。これは……あまぁい。お砂糖。美味しい。
二人でパクパク食べる。
カナさんは時折お茶を飲むだけで食べないらしい。
「ごちそうさまでした」
お茶も美味しかった。
満足そうに椅子にもたれかかると、追加を持ってきたカナさんが机にお皿を置く。
「留美様。もういいのですか?」
「はい。もぉお腹いっぱいです」
夕食前のティータイムと思いきや、次々と出てきたサンドイッチや食パンが、そいやそいやと大皿に積まれていっていた。
机の物がなくなる前に、カナさんが食事を取りに行って。戻ってきた頃に料理がちょうど無くなっている。阿吽の呼吸に拍手を送ったら、変な顔された。
何かおかしなことしたかな?
一切れ貰ったサンドイッチは美味しかったです。
でも留美はスティックだけで満足だったよ。マーガリン砂糖スティックを食べるお腹の空間が、サンドイッチのせいで減っちゃったんだ。
でも美味しかったんだよなぁサンドイッチ。
目の前で料理がすごい勢いで消えていく。これで三時間後には夕食もあると言うから驚きである。
ジアさん曰く、朝昼と食べてないからその分の栄養補給らしい。……凄すぎん?
「ジア様をご覧ください。まだモグモグしておられます。あと二十分はかかかりそうなので、今のうちにご家族に連絡を取ってはどうでしょう?」
「……そうします」
大量に積み重なったお皿を眺めて、あの体のどこに入っているのかと不思議に思う。
これでまだ二十分は食べるのか……。
大食い選手権に出ればきっと一位をもぎ取れるね。
二十分じゃ帰ってこれないだろうなと思いつつ、留美はお茶を飲み干してから立ち上がった。
「行ってきますね」
「お出口は左へ行き、突き当りの右へ行くと、出口がございます」
「はい。ありがとうございます」
言われたとおり行くと、外に出た。
できるだけ急がんとな。
オレンジ色の地面だ。一歩踏み出すと、地面を赤く染めていた光が顔にかかる。その眩しさに目を細め、私は人が歩いている道へ進んでいく。
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