第73話 雷の隠しスキル『イベントリ』は面倒そう
だらんと休憩していた私たちは駄弁る。
「なぁ、イベントリーってどれくらい入んの?」
「さぁ。でも結構入ると思う。なんか結構設定とかあるから、スキルの機能知るのに時間かかりそう」
「じゃぁ雷も持っといて」
ポーチから欠損ポーション五個、ヒールポーション五個、毒薬(麻痺(強))一個、解毒薬一個を取り出して、地面に置く。
個数をちょっと減らすのと、一人でいる時に怪我した時のためだ。
「種類ちゃうの?」
「これが欠損ポーション。前に留美の目を治して、パパの腕を生やしたやつ。で、こっちがヒールポーションな。こっちより弱いけど、体感したみたいに効果十分。あんまり量はないけど、躊躇はいらんで。これが毒薬(麻痺(強))。飲ましたら即麻痺。ぶっかけても効果ありっぽい。んで、この白いのが解毒薬。毒系が即治る。体の異常を感じたら使うといいよ。ただ今んところ数がないかな。以上」
「欠損、ヒール、麻痺毒、解毒薬、……わかった。使った瓶は返せばいいねんな?」
「うん」
そういえば毒盛られたって言うアルさん大丈夫かな? 留美にできることといえば、大丈夫でありますようにって祈ることくらいか。
急に雷が立ち上がった。
「もう一戦やる?」
「……いいよー。次も留美が勝つけどな」
お互いに距離をとり、木刀を構える。そして私は息を吸った。
「やーやー我こそはっ! まるまる、さんかく、しかくしかく、の西上留美なり!」
「やーやーやーやー中略、西上
「中略しよった」
「まるまるさんかくしかくも、相当馬鹿にしてるやろ」
この後、私たちは一時間ほどやり合った。
結果は八戦中五回は留美の勝利、三回は雷の勝利だ。危なかった。もうちょっとで欠損まで行くところやった……。
「あー。しんどい」
汗だくの私は満面の笑みを浮かべた。
「へへっ、留美の勝ちやな!」
「俺も勝ったし」
雷が首から垂れた汗を手のひらで拭う。これは汗臭い。
「水浴びてこー」
「おう」
二人で数回井戸から水を汲み、服を脱いで頭からかぶった。井戸がある場所は、建物と壁て囲まれているため、外からは見れることはない。
屋根の上とかのぼられたら流石に丸見えだ。
バチャンッ
「冷たーい」
「俺は気にしいひんけどな」
「留美はあったかい方が良い」
バシャンッ!
「俺も……」
「なんか言った?」
「なんも」
私は身体を見下ろして思った。
胸ってあったらあったで、邪魔そうだけど。
ここまで絶壁やと、もうちょっと欲しくなる…………成長期って。……終わってるよね……ふふふふ。まぁどうでもいいけど。
前髪から流れた水滴を横に流す。
「あれ、雷」
「ん?」
「雷の方が、胸が…ある……!?」
すっと雷の目が死んだ。
「…………気のせい気のせい。留美は……まぁ、ぺたんこはぺたんこの良さがあるから。……気にしてたっけ?」
「いや、今から女体化始めんのかと思って」
「するか! 俺の身体そんな細くないしッ!」
ペチンと自分の体を叩いた雷を無視する。
「あったらあったで邪魔そうやけど、なかったらなかったで悲しぃ〜」
「ロリっ子目指す?」
「ないわ」
「ハハーw。すでになってるw」
「あ゙?」
「さーせん……」
「なんで絶壁は良くてロリはあかんねや……」などぶつぶつ言っている雷に、水をぶっかける。
私はストレートな黒い髪と、小柄な体躯と子供っぽい愛嬌ある顔立ちをしていると思う。言動も幼いからよく小学生や中学生に間違えられる。それでも、この顔は結構好きだ。コンプレックスだとかは思ったことはない。美醜なんて、時代や文化、場所、人によって違うのだから。
会話を交えながらの水浴びを終え、水で洗っていた服で水滴を拭き取っていく。濡れていても、絞れば拭かないよりは拭ける。
そこへ母と父が来た。
「何してんのや」
「水浴び終わった」
「木刀で殴り合ってた」
いそいそと乾いている服を着る。
穴あきぃ〜。
時刻は十三時を回っている。今から昼食に行くのかと思いきや、自由行動を提案された。
濡れたままの髪に触れ、みんなが動く流れに乗って行動する。
「じゃぁ各自スキル覚えに行くって事で」
「おう」
「お金、一人三十枚な」
「あれ? そんな枚数あったっけ……?」
「なかった気がする」
ママと雷め、記憶力いいな。
留美は自分で稼いだお金があるから、別に少ない家のお金を取らんでもいいの! 三人が覚えてきたらいいの!
私は雷の近くに置いた銀貨の山を、自分の方へ引き寄せる。
「えぇ? 雷いらんて?」
「いるに決まってるやろ」
雷はとられまいと銀貨三十枚を、体全体で囲った。
あはっ。
太陽の光が降り注ぐ外。
これなら濡れた髪も、干してる服もすぐに乾くことだろう。
私は北気味へ、ママと雷は西へ、パパは南気味へ歩き出す。教官たち一緒の場所にいてくれたらいいのにと愚痴りたくなる。
留美には何個の適性があるかなぁ? 片っ端から行ってみたいところではあるけど、とりあえずはローグ。ジアさんの所やな。
他の適性見る前に、他のスキルももっと覚えたいし。何より奇襲を受けないためには音聞きだけじゃ不十分や。
逃げるのもシャドウワープってのを覚えとけば、もっと早く動けそう。力がないなら手数で、速さで補うしかないやろ。
乾いてきた髪の毛を梳いて、ゴムで結ぶ。
よし。行くか。
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