スキルの修練

第74話 スキル覚えにいくぞ



 ローグ教官の勤務場所。


 中に入ると、前に来たときも受付に座っていたカナさんが座っていた。相変わらずのメイド服に、戦士属性をプラスしたような鎧をつけている。

 綺麗な黒色の髪を、オレンジ色の紐で結び、高い位置でポニーテールにしているのが個人的に好き。

 オレンジ色の瞳が私を見た。


 私が入って来たのに気づくと、無表情のまま挨拶をしてくる。


「こんにちは」


「こんにちは」


 気づいてくれたことに、留美は嬉しそうにしながらカウンターの方へ進む。



「二度目ですね? 引き続きジア様に習われてもいいのですが、ここには三人のローグ教官が在中しております。説明をお聞きになりますか?」


「……いえ、ジアさんがいいです」


 前に俺んとこ来いって、言われたしなぁ。

 それにジアさん嫌いじゃないし。あともう一個。……人見知りを舐めないでほしい。


 ジロッとオレンジ色の瞳に見つめられると、なんだか視線を逸らしたくなる。

 綺麗なのに、なんでだろう。



「ふぅ」


 ため息!?


「ジア様ならこの道を進んで、左の扉、三つ目です」


「ありがとうございます」


「いえ。盛大に笑ってあげるといいですよ」


 なにに!?


 事務的に喋る人なんや、って思ったけど……。悪戯心溢れてる人なんかな??

 一人で行けと言う態度に、後ろを気にする素振りを見せながら進んでいく。


 な、何か面白い事でもあるんかなぁ?

 本当に入ってもいいものか、振り返るとカナさんが小さく笑いながら見ていた。


 なんかあるんやなぁ……。



 考えていても進まないので、覚悟を決めて三回ノックする。

 ドアの前に置いてある石が光りだした。インターホンみたいな感じかな?


「やっとノックするようになったか。入っていいぞ」


 そしてどうしよう。多分これ、人間違いだ。分かっていても『許可』が出たから、私は入る。



「失礼しま…………ふぇ……」



 そこにはジアさんがいた。いたのだが、寝間着だった。茶色いクマさんフードが付いた寝袋のような服。

 もうとっくに昼過ぎてるよ……。


 ジアさんも固まっている。



「なに勝手に入って来てんだよ」


 理不尽。


「いや、ジアさんがOKしたんじゃ……」


 我に返ったジアさんは不機嫌そうに顔を顰めた。

 今まで寝てたのか、寝癖がついている。確かに面白い所、というか、意外な一面を見れた。けど……いや、そのギャップ……良き。


 とは思うものの。


 気まっずい!

 留美はハッとした。


「と、取りあえずドアの外に出ときますね」


「ああ」




 パタン。


「…………」


 いや、これは予想外。覚悟決めたつもりやったけど…………。もしかして、覚悟って砕くために存在する……? いや砕ける覚悟で望む……か。……留美何言ってんのや??


 じゃなくて。

 着ぐるみパジャマか……もしかしてここに住んでんのかな? そして、それを知った上でカナさんは留美に行かせた……と。


 ひどい……。


 頭の中で考えていると、部屋を教えてくれたカナさんが歩いて来る。



「留美様。中に入らないのですか? あ。それとも、もうお入りになられましたか?」


 ああ。やっぱり確信犯だこの人。


「入りました。……茶色でクマさんの寝間着を着てました」

「ふふっ。驚いた顔が目に浮かぶようです」



 咲き誇った黒い花に、留美は遠い目をした。

 面白い一面が見られたとはいえ、もうそれに留美を巻き込まないでほしい。


 他人の不幸は蜜の味ってやつかな? いや、ちょっと違うかも。ジアさんで遊んでる感じ。……それとも、単なるSの人?



「何か私に対して失礼な事を思いませんでしたか?」


 何気に鋭い。


「黙秘します」


「では有罪ということで」

「なんで?」



 あ。ドアが開いた。

 出てきたジアさんは服を着替えていた。しかし灰色の髪にある寝癖は直っておらず、不機嫌そうな顔もそのままだ。

 カナさんの少し後ろにいる私は、彼女の顔が見えない。でもきっと笑っているのだろう。


「ジア様。おはようございます」



「……はぁ。留美ついて来い」


 明らかに相手をしたら疲れる。と分かっているようだ。


 コツコツ。


 そういえば。留美の名前……覚えてくれてたんや。嬉しい。

 ついていっていると、後ろから不穏な言葉が聞こえた。


「ジア様に八つ当たりされないように、気をつけてくださいね」



 誰のせいやねん。と、言い返したい気持ちもあるが。黒い笑みを浮かべていた人に言えるはずもなく。

 苦笑いを浮かべてジアさんの後を追った。


 ジアさんと最初に会った部屋だ。

 さっきの場所、完全にプライベートの部屋だった可能性……。



「ドア閉めろ」

「あ、はい」


 ドアを閉めると、静かになった。聞こえていた外の音も、何も聞こえない。『音聞き』が解除されているわけではないようだ。

 まぁ、ほんまか? って言われたら、スキルなんて感覚やからイエスとはいえんけど。


「で? 今日はなんだ?」


「えっと。前言ってた空間と勘、他にもスキル何かないかなーって、来ました」


「前回覚えていった『音聞き』と『シャドウステップ』は問題ないようだな?」


「はい」


 ジアさんの灰色の瞳がジーッと私を見てくる。

 私を見ているようで見ていないのがとっても不愉快だ。それに、無言になられると、気まずくてどうしたらいいのか分からなくなる。


 おろおろ……。


「やっぱ、シロクモに連絡しとくか……?」


 ジアさんが小さい声で、よくわからないことを言った。連絡って言ってるんだから、人なんだろうけど。その人不憫な名前……。

 私は控えめに発言する。



「あの……」


「すまん、考え事してた。他に覚えたいスキル先に全部言ってくれ」


 誰かが言っていた、移動系スキルっぽい名前のものが浮かんできた。確か、追いかけっこしていた時のこと。


「シャドウワープ? っていうスキル覚えられますか?」


「大丈夫なんじゃねーの? 以上か?」


 かっる。


「あ、待ってください。えーっとなんか言ってみてください」


「攻撃系、移動系、回避系、防御系、妨害系、体術系、潜伏系。……これくらいか? 色々ありすぎて、どのスキルがどれに入るのか良く分からんな」


 教官ってそんなふんわりしてるもんなん?


「リストみたいなのないんですか?」


「ない。作る気もない」


「じゃぁ大体の説明ください」



「説明なぁ。求められたら、しないわけにはいかないよな。攻撃系は、一瞬相手を麻痺させたり、なんか斬撃増えたり、ちょっと飛ばしたり、攻撃した後に自動的に下がるってのもある。基本斬撃の強化、付与って思ってくれればいい」


 使ってみたい。

 説明を聞いているだけでワクワクしてくる。どんなスキルなのか、何が出来るのかって。留美の輝いた目を無視してジアさんは続けていく。



「回避は回避だ。相手の動きが良く見えるようになったり、来るところが分かるっていうやつ。一瞬の未来視とも言えるな。まぁ、使える奴がかなり少ねぇから、過度な期待はやめておくのが無難だな」


 使ってみたいっ。

 未來視! 一瞬やとしても未來視やって! やべぇー! めっちゃ覚えたいっ!



「で。防御系なんだが……今のお前には無理だから説明は無しな」


「え、なんで無理なんですか?」


「単純に武器が壊れるからだ。お前それ二本しか持ってねぇだろ?」


「はい」


 指さされたボロボロのナイフを、留美は大事そうに撫でる。

 まだ折れないでね。


「防御って言っても、カウンターみたいなもんで、諸刃(もろは)の剣だ。名前も反射、だしな」


「何で諸刃の剣になるんですか?」


「何でって、剣を犠牲にするからだよ」


 なにそれ、もうローグじゃないような気がする。それに、それ防御じゃない!

 私は心の中だけで抗議しておく。



「防御と呼べるものは今の所一つしかないが、合わせれば確実に防げる」


 あっ留美苦手なやつ。

 合わせるとか音ゲーでもするんかな? 何にせよ、合わせるのは苦手。


「金があるなら覚えておいて損はねぇ。……ただ、これもかなり使える人間が少ない」


「ほぇ……反射はどの程度まで出来るんですか?」


「どの程度? 知らねぇーよ、能力は本人次第だ」


 本人次第……。嫌いな言葉。

 出来る才能ある人を是とし、出来ない人を努力不足の烙印を押す。……ただの戯言。きっと、その通りなんやろう。できないのは努力不足なんや。

 頑張らないと頑張らないと頑張らないと頑張らないと。



「……何を心配しているのか分かんねぇが。相手の攻撃が強すぎて反射できなくても、自分が吹っ飛ぶから攻撃は回避できるぞ。まぁ、相手がバケモンじみてない限り、吹っ飛ぶなんてそうそうないけどな」


 化け物じみてる人がなんか言ってる……。

 吹っ飛んだ事あるんですかね?

 はぁ……スキルも使い勝手が良い物ばかりじゃないのに、覚えられへんものがあるとか……。あっ、ゴブリンの剣とかでも出来るんじゃない? あれなら全然壊れてもいいよ。



「次は妨害について。……相手の動きを阻害する。物を投げる。相手の詠唱を邪魔する揺らぎを作る。こんなところか」


 そういいながら、ポーチから針のようなものを出す。


「一番簡単なのが、これだな。当たり所が良ければこれで仕留めることも出来る」


 順に大きな武器を指の間に持っては、板のある壁に投げた。

 ドンッ! と深く刺さる音がする。衝撃波が来ているわけではないが、音が鳴るたびに何故か身がすくむ。一番簡単と言いながら、それなりに脅威になりそうなスキルだ。


 私はパチパチと手を叩く。留美は円を描いた武器を見て、目を輝かせていた。

 ジアさんがそれを取りに行く。



「体術はその名の通り、武器がない状態で使うスキルだ。これは俺に習うよりも、別のローグ教官……シーファって奴に教わった方が良い。女性の教官って言ったら分かりやすいか?」


 カナさんに揶揄われた事で下がっていた機嫌が、やっと直って来ていたのに。シーファという名前を出した途端に、嫌そうにした。

 ジアさんって女性に揶揄われる体質なんかな……。


 じゃなくて。

 体術のスキルは女性の教官シーファさんに習うべきっと。ちゃんと覚えとかないと自分が不利益被るか、バカにされる。



「最後に潜伏系だが……。今お前に教えられるのは二つしかない。それと金額が高いから、今のお前には払えないだろうな」


 今覚えられるのは二つしかない? スキルツリーみたいに、何かを覚えないと、次のスキルが覚えられへんってことかな? とりあえず置いとくか。


 留美は所々に開いた穴と切り裂かれた箇所を撫でる。どのスキルを選ぶか、お金と要相談ってところか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る