第64話 人間狩り



 ギルドを出た私たちは東門にやってきていた。目の前にはゴブリンの森が見えている。

 門番さんの立つ門をくぐったその時。


「そこの四人組!」


 呼ばれたであろう私たちは足を止める。


「はい?」

「なんやろな」

「さぁ」


 いつもの門番さんが近寄ってきた。

 周囲をよく見れば、いつもより門番の数が多めだ。何か関係があるのだろうか。


「お前らか」


「なんですか?」


「いや悪い。今ゴブリンの森に初心者狩りが現れるらしいから、行くのはお勧めしない。もし行くのなら、中にいる人間には十分注意しなさい。…………なんてな。ちょっと最近初心者が帰って来ない事が多くてな。強いゴブリンでもいるのか、そんな噂までたつ始末だ」



 これや。絶対引っ掛かる。

 絶対やめた方が良い。完全にフラグやって、留美たち絶対狩られかける、か、狩られる。


「止めよ」

「止めといた方が良いわ」

「そうやな」


「えー! 行こうや! 五匹倒したらすぐ帰るからさ〜」


 雷。お前もフラグ立ってるって分かってるやろ。分かってて、回収しに行こうとしてんのけ? バカじゃないの!?


「五匹って結構多い」


「大丈夫やって」


 何を根拠に……いや行きたいやりたいに理由なんかないよな……。

 ママが諭すように言う。


「雷。危険な時に行く必要はないやろ。今日は止めとこ。昨日お金入ったし当分は大丈夫やから」

「俺一人でも行くで」


 何故に頑なに行こうとするのか。

 お前、あれか? 偽物か?


 あ。『鑑定』


『西上 雷』

 迷い人。少し精神的に弱ってる。

 異世界を楽しみたいっぽい。




 雷、大丈夫か。

 精神的に弱ってるって……。それやのに、楽しみたいって。矛盾してるな。

 もう、どうにでもなれ精神になってるとか? ……焦り、か。


「雷」


「なに?」


「はぁ……フラグ回収しんように注意していくで。もしエンカウントしたら、絶対留美の言葉に従って。反論は許さへんから」


「わかった」


 強く頷く雷に、私は仕方ない。と一緒に行くことにした。

 私が仕方なしにでも賛成側に回ると、ママとパパは不安そうに顔に出す。それでも子供だけに行かせるわけには行かないと、ついて来てくれる。


『音聞き』


 ————音。


 ———声。人間には近づかないように。————小さな足音。——ゴブリンやね。




「いたで、一匹。こっち」


「作戦はいつも通りでいいよな? パパが魔法やって、俺が突っ込んで、生きてたら留美が倒す。ママはパパを守る」


「うん。いいと思うよ。あ、あの一匹」



 ゴブリンの後ろについた。


 パパは頷くと、ファイアーボールを作り出す。

 言葉がいらないと分かってから、詠唱をしなくなった。


 気分的に言って欲しいよね〜。何が来るかもわかるし、こっちも避けやすくなるし。



「行くな」


 雷はファイアーボールが飛んで行ったのを見ると、飛び出して行った。

 次は留美や。


「グギャ!?」


 ファイアーボールが命中して、ゴブリンは倒れこんだ。

 それに剣を振り上げる雷だったが。


「……あれ?」


 一瞬剣を止めて、振り下ろした。

 そばに出ていた留美は、動かないゴブリンを見下ろす。

 ほとんど最初の一撃で死んでいたようなものだった。なんだか雷が剣を振り下ろす前から瀕死な感じ。


 パパの魔法の威力が上がった? それとも、当たり所が良かった? 分からん事だらけや。


「ゴブリンあっけなかったな」

「うん」


「いや、いいんやけどさ。手応えなさ過ぎて……」

「わかる。戦闘怖いけど、戦闘したい……みたいな……」



 私は耳などを回収すると、周囲を確認する。

 三時の方向にゴブリン二匹。


「あっちにゴブ二匹。あんまり浮かれたらあかんで」


「分かってるわ」



 雷が留美の忠告をウザそうに聞いて歩き出す。


 ゴブリン二匹の近くに行く。

 ゴブリンたちは喧嘩しているのか。修練しているのか。殺しあっているのか。とにかく剣をぶつけ合っていた。


 ゴブリン同士でもやりあうんか……。縄張り争いなのか、喧嘩なのかは分からんけど、意識が敵同士に向いているなら好都合や。


 二匹とも一撃で仕留めよう。


「左はパパと雷でやって、右は留美がやる。ママは警戒しながら状況見てフォローして」


「おっけー。何時でもいいよ」



 二人も頷く。


 パパがファイアーボールを放った。続いて雷が飛び出す。


「グギャッ!?」

「ガー!」


 一匹に命中し、ゴブリンに膝をつかせる。


 もう一匹は、出てきた雷に剣を向けた。

 すでにその時、留美は『シャドウステップ』で背後に回っていて、構え終わっている。そのまま勢いよく、雷へ剣を向けているゴブリンの後ろから、首を刈り取った。

 留美は血を噴き出すゴブリンから距離を取る。


 なんか楽勝やな。そう思った私のそばで、剣を大ぶりする音が耳に届く。


「楽勝!」


 雷は叫びながら、煙を吹いているゴブリンの首を断ち切った。その時少し返り血を浴びるが、少しも気にしていないようだ。


 急に狩りが楽になった感じがする。

 躊躇とか、スキルの使い方とか、動き方とか、距離感とか。…………いや、油断すべきじゃない。慎重に謙虚に、時に大胆に。



「怪我人なし?」

「おう」


 ママの言葉に私も頷いておく。


 はぁ、強いゴブリン来たらどうしよ……。

 エリートならまだいけるけど、やっぱキングかな? それともエリートが知恵をつけた?

 いいことが続くと悪いことが起こるんじゃないかって怯えてしまう。この現象なんなん。もっといいことが起こるぜ〜、精神でいたいのに。

 悪いこともプラスに考えれたらいいのに。……こんな無駄なこと考えてる場合じゃない。



『音聞き』————大丈夫。何もいない


 私は物を回収してポーチに入れる。


「次行こか」



『音聞き』——————こっちこっち。初心者っぽいのがゴブリン狩ってる。今がチャンスじゃん。



「っ! みんな帰るで」


「まだ三匹しか倒してないやん」


 雷たちからしたら声も聞こえないし、留美が変なことを言っている、とでも思っているのだろう。

 人間に攻撃されるなど、普通は考えない。でも現実はいつも無情だ。冗談ととられては困る。


「人間六。完全にあっちが上や」


「ただゴブリン、倒してるだけかもしれんやん」


「話聞いた。あっちは完全に殺す気、逃げんで」



「……うん」


 雷が重々しく頷いた。

 門番さんに感謝やな。これで慌てる奴がいたら逃げ切れへんかったかもしれん。……まだ逃げきれてないけど。



「走って、町までいけばまだ安全やと思う」


「距離は?」

「町のと同じくらい。でもあっち早い」

「はぐれん程度に本気で走るぞ」


 その合図で私も含めた四人が走る。


『音聞き』は最大限に発動させて、あっちの事を探っている。



「やっぱ森じゃぁ、全然見えねぇなぁ〜」

「はぁ、もっと近寄らせろよ」


「なんか走り始めた。気づかれてるかも」


「はぁ? 初心者じゃねぇーじゃん」


「ゴブリン狩って喜んでるなら、初心者でしょ」

「今も逃げてるしな」

「他に見つかんねぇーし、追いかけて、町に着く前にやっちまおうぜ」



 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!

 あっちの方が早い。あいつら森に慣れてやがる。このままやったら追いつかれる。


 どうしよう。留美一人なら、スキル使って町まで帰れるのに。三人はそうはいかんからな……。

 さすがに三人を抱えるのは無理やし……置いていく? いや。…………留美がちょっとでも足止めをする方がいいかな?


 留美たちが弱いから……。



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