第63話 悔しい。でも家族で幸せパワー充填するもん



 キラさんたちがお店に入った頃、私は目的であった瓶も買えず、遊びに突き合せれた上に敗北して、悔しくなっていた。

 満足なんて一瞬だけ、負けたら悔しいに決まってる。


「ぐすっ」


 道の端で屈み込んで、涙が止まるのを待っていた。

 止まらない……、仕方なくとぼとぼと歩く……。


 広場っぽい場所に蛇口があった。

 いいなこの整備されてる感じ。


 水を出して顔を洗う。


 ちょっと頭が冷えた。


「はぁ……悔しぃ。……クソッタレ。ムカつく。グスッ……悔しいッ」


 キュッと蛇口を回す。


「早く帰らないと。怒られる……」



 あ、こんなところに解毒草。ぬきぬき……抜いてポーチへ入れた。


 急いで家へ戻る。

 ジェスさんが付いて来ているとは、全く思わずに。


 家に帰る所を見届けたジェスさんは、三人の元へ戻っていく。




 家。井戸。

 誰もいない井戸に入った留美は、林の中に入っていく。もしかしたら誰か部屋に来てる可能性もある。

 すでに涙は止まっていた、擦ってないから目も赤く放っていないはず。

 誰かが井戸へやって来た。この足音は……雷だ。


 足音だけで気づけるようになっている自分を気持ち悪っー、と思いつつ。何気ない顔で林から出ていく。


「ん、おはよー」


「……おはよ。朝っぱらから山入ってたん?」


「なに、雷も山登りしたかったん?」


「まったく」


 自分で井戸水を汲み上げた桶に、自分のコップを突っ込んで飲む。

 そこで先ほど空になった瓶も洗って、自分の部屋へ持っていく。雷に変な顔された。


 なんか、変やったやろうか。




 留美の部屋。

 空瓶に毒草の粉と、解毒草の粉の、残っている半分を瓶に入れる。


 毒薬(麻痺(強))一個、解毒薬一個完成!


 もっと実験して、どんなものなのか知りたい。でも興味があること実験する前に、目の前が目まぐるしく変わるから中々できん……。


 くぅ〜、体が三つくらい欲しいよな。……あぁ、三人居っても、殺しあってる未来しか見えへんわ。


 目の前に自分のコピーが複数いて、閉じ込められたデスゲーム! 生き残った人が本物なのか、それとも、生き残った自分すら偽物なのか。

 あははっ、なんかおもろー!


 そんなことせんでも、留美は留美を殺すよ。




 広間。十時前。

 留美がバタバタしていたせいか、ママが部屋から出てきた。

 ドアが開いた音に気づいた留美は、壁に隠れる。その行動を察した雷も井戸の方へ。


 階段から降りてきたママを後ろから抱きつく。


「きゃっ!?」


「若くなってる声の違和感……えへへっ♪」

「もー、脅かさんといてや」


「にししっ。元気〜?」

「元気元気。ほら離して。顔洗ってくるから」


 ぎゅっと腕に力を入れる。


「行かせん!」


「……ふん!」

「うわぁああ!」


 ママは留美のことを引きずって井戸の方へ向かっていく。途中で腕の力がなくなった留美は腕を離した。


「くっ、止められぬか……」


「ふふっ、井戸行ってくるな」


「…………」


 井戸の方で、もう一回悲鳴が聞こえた。




 続いてパパが下りて来た。

 ささっと移動していく留美を見て、雷も井戸の方へ行く。


 後ろからギュッと抱きつく。

 バシッ


「っ」


「痛い……」

「わ、悪いっ」


 抱きついた瞬間、体が伸びたと思ったら、腕が飛んできたのだ。

 がっちり掴まれた服を離してもらい、体も離れる。血の気が失せた顔でパパによしよしされた。

 留美もよしよししてあげる。


「…………パパさん驚かんねんけど」


 ちゃんと隠れて脅かしたのに、留美のことをスルーして椅子に座った。

 やっぱ反応が淡白すぎて脅かしがいがないな……。


 留美は雷が待っている井戸の方へ誘導する。


「パパ、ちゃっちゃと顔洗って来たら?」


「あぁ、そうやな」



 少しすると、雷が戻ってくる。ママの時とは違う反応に、もうお察しだ。


「スルーされた」

「おつ。……留美は攻撃食らった」

「おつ」


 何か考えているのか、何も考えていないのか。椅子に座った雷のほっぺたを引っ張る。


「いひゃい」


「むにっとさんやな」


 引っ張る手を退けると、雷が自分の手で頬をモミモミと触る。留美は自分の頬を摘んで、こっちもむにっとさんやなと確認した。



 *


 ギルドの食堂。

 料理人が変わったのか、今日も美味しい。


「ところで今日はゴブリン行くの?」

「どうする?」

「特に反対はない?」


 全員が頷いたので、行くことに決定する。


 その前に服とか買いに行った方が良いか? でもいま買ったらまた貧乏になるしなー。


 明日は休みにして、留美のお金で買ってこよう。

 言い訳はギルドで話してたら、誰かのお下がりとか、いらん物をくれた。でいいか。


 もぐもぐ。


 やっぱ美味しい。これこそご飯よな。美味しいは幸せ〜♪



 食べ終わった私と雷は掲示板の方へ足を運ぶ。


「何匹受ける?」

「十匹行こ」


「却下。三匹で行こう」

「昨日は五匹やったやん。なんで下げんの」


「昨日が危なっかしかったから」

「せめて五匹にしようや」

「しゃーないなー、妥協したろ」

「なんで俺が聞き分け悪いやつみたいになってるん」


 まぁ、雷の言う通りか。依頼より少なく狩るのはいいけど、多く狩るのは損やもんな。

 でもなんか嫌な予感がするねんな。……またゴブに殺されかけるんかな? 嫌やー。ゴブリンの数と奇襲には重々注意せんと。



「おはようございますクリスティーナさん。これ受けます」


「はーい♡ 今日も四人ね、頑張ってらっしゃい」



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