第60話 大人と本気で遊ぶと人は死にかける



 近所迷惑も考えずに叫んだことで、幾分かの理性が戻ってくる。声を出すって大事だ。


 落ち着け。これは遊びや。留美が感知できひんほど、そんなに遠くには行かへんはずや。

 行かないよね? 留美、感知できる範囲そんなに広くないで?

 大丈夫大丈夫。これは遊び。だから……だから……。絶対勝ちたい。



 私の叫び声を聞きつけて、ピンクの髪に黒のメッシュが入っている男がやってきた。クリスティーナさんに止めてもらった、カムロという男だ。

 みんなローブを着てないと、合わせる気皆無の服装であり。同じ団体にいる人なのか困惑してしまう。


「キラさんがどうしたんだ?」


「あ、カムロさん。キラさんが遊びと称して、留美さんの武器を盗んだんです」



 事情を聞いたカムロさんも、何ともいえない顔をする。

 キラさんを探っているのだろうか、カムロさんは上を見上げていた。


「キラさんも大人げねぇことするな」


「ですよねー。ところで留美さん。どの程度までスキルを覚えているのか、聞いてもいいでしょうか? あ。言える範囲で結構です」


 言える範囲って言われてもなぁ。ほぼ初期スキルっていうか……。



「私は『シャドウステップ』と『音聞き』しか覚えてないです」


 留美は不機嫌そうにむくれていた。

 赤くなっていた顔が少しずつ落ち着いてきている。


「『音聞き』で僕たちを見つけたんですか? それって、すごくないですか?」



 なんや、その。そんだけしか覚えてないの? 逆にすごくない? 的なやつ。失礼やからな? 留美を煽ってんの?

 でもほんまに驚いてるようにも、見えなくもないな。


 キラさん見つけられへんから、正直なこと言っとこ。



「実をいうと、カムロさんしか見つけれてませんでした」


「え? じゃぁ、なんで僕たちの事、呼んだんですか?」

「また俺か……」


 カムロさんが顔を隠してしょんぼりした。苦笑したパニクさんが先を促してくる。


「あぁえっと……。一人いたらもう一人いてもおかしくないかなーって。……カマかけたんです。まさか三人もいるとは思いませんでしたけど……ああ怖」


「僕ら完全にバレているのかと思ってました……」

「キラさんが今やってるのって、そういうのの確認だよな?」


「えっ、そうなんですか? じゃぁ頑張りますっ。あの時より成長してるはずなので!」


 カムロさん止めてもらった後、実際違和感くらいしか感じひんかったもん。

 一人は全くわからんかったけどな。

 今なら見つけられるやろうか。熟練度、進化、明らかに成長はしてるはずやねん。


 なぜかコソコソ変人扱いされていることが納得いかない。



「キラさんを探したいので、静かにしてもらっていいですか?」


「あっ。はい」



 目を瞑る。

『音聞き』————どこや。朝やから人は少ない。足音が聞こえたら多分それや————分からん。


 ————……。————いない。



 一人見つけれんかった人ってキラさん!? 絶対無口の人やと思ってのに。

 あれ? 足音が範囲の外から……。あ。これ絶対キラさんや。留美がこおへんから、様子を見に来たんかな?


 行こう。……いや、この場所を見渡せて上の場所。キラさんの位置を考えて……あの建物の上に来るやろ。

 パチッと目を開けてどこか登れそうな場所を探す。


「留美さん。無理そうなら、最初は僕たちが見つけましょうか?」


「いえ、見つけたんで大丈夫です」


「え。すごい」


 素直な褒める言葉が苦く感じる。留美はそんなに無能に見えるのか。



「そうだ、パニクさん。後でキラさんにコレ飲ましてあげてください」


 そういってポーチから解毒薬を一つ渡す。

 キラさんに実験体になってもらお。あとそのお詫び。どうせ解毒薬で治らんくても、どうにかなるやろし。


「これは?」


「飲ませてみればわかります。毒じゃないので安心してください」


「嘘じゃないですよね?」


「そこは信用してもらって大丈夫です」



 疑って聞いてくるパニクさんに、私は笑顔で親指を立てて答える。


 留美は『シャドウステップ』で跳んだ。

 隠れながら、キラさんが来ると予想した、店の前が見える場所に身を潜める。


 物陰に隠れること数分後。————来た。留美の予想バッチリ!

 キラさんは建物の上から、私が先程いた場所を覗く。


「あれ? 留美いないし。帰ったって事は無いだろう。今どこだ?」



 あ。探知される。

 気が付かれる前に、捕まえる!!


「っと。残念」


 にやにやとした表情からは、わざと誘ったことが伺える。

 はぁ。釣られた、不覚。


 建物のギリギリにいたキラさんに避けらた。

 つまり私もギリギリまで行かなければならないわけで。避けた際に、私はトンと押されて、建物から落ち……た。



「わ。あ、お、落ちる!? ……わ。高いしぬ」



 無理無理無理!! こんな所から落ちたら死んでまうって!

 キラさんのバカ—! 遊びで人殺すとか何考えてんのや! まさかそれが目的。絶対呪ってやるからな!


 実際は二階くらいの高さなため、下手なところ打たなければ助かる高さだったが、完全にパニックになっていた私は目を瞑る。


 意味ないやろうなと思いつつ、体を丸くして、受け身の準備をした。



「――――――」


 地面に打ち付けられる前。


 下から声が聞こえたかと思うと、落下の痛みはやって来ない。既に地面に叩きつけられている頃なのに、まだまだ落下しているような風を感じる。

 何が起こっているのかと目を開けると、強く吹き付ける風で、身体が宙に浮いていた。

 ゆっくりゆっくりと地面に体が落ちる。



「た、助かった。ありがとうございます……」


 手や背中に冷や汗が滲んでいた。


「はぁ。危ない……」

「下手したら死人が出るとこだったな」


 汗の流れそうな額を拭う。



「おい留美、なんで『シャドウワープ』使わねぇーんだよ!」



 建物の上からキラさんの声が聞こえる。

 は? なんで使わんのやって? 留美がこっちに来て、まだチュートリアル抜けたくらいやって知ってるやろう?


 留美が死なんかったからその言い訳? いや意外とあの高さなら生きてたかも。大怪我は必須。でもポーションあるし大丈夫そう。

 いや落とすとか酷いやろ!


 私は怒った表情を作ると、叫んで返す。


「覚えてないからに決まってる! 殺す気!?」


 もう敬語を使ってないけど、今はいいよね。いいのか? ……いいよね?

 キラさんそういうの緩そうやし。


「はぁ?」



 キラさんはいまだに疑って、降りてこない。


 そんな事より、今の魔法。パニクさんがやったよな。すごいすごい。風魔法やっ。空飛べる!

 少なくとも、二つの適性持ってるってことになる。やっぱり適性があれば、別職種のスキルでも覚えられんねんな。


 魔法とかめっちゃ憧れる。……絶対覚えよ。



「パニクさんほんと助かりました。ありがとうございます」


「別にいいですよ。死にでもされたらこっちも困りますから」


「パニクさんって、もしかして魔法使いが本職なんですか?」



「そうですよ。僕はローグと魔術の適性があります。ちなみに、カムロさんは重戦士とローグ、昨日のジェスさんはローグのみだけどピカ一。キラさんは剣士とローグですね」


 全員の適性暴露しちゃってるよこの人。いいの? 裏の人なんだよね? 知ったところで、ってやつ?

 しかも、ローグの適性みんな持ってるし。……みんな二個で別々の適性持ってるとか。なんか、かっこいいやんけ。分担とかうまいこと出来そう。


 はぁ……ローグって、結構ありふれてるんかな?

 その適性持ってる人を集めただけかもしれんけど……。まぁこの人たち、裏護衛だもんね。必須なんかも。

 素早く動いて、闇に紛れる。うん、血生臭そう。かっこ、個人の感想です。格好閉じる。っと。


 でもそれにかっこよさを感じている自分がいた。キリッ。はいはい、会話中やで。



「その適性って、どうやったらわかるんですか?」


「兎に角教官に習ってみる事、ですかね。使えるかどうかは生まれ持った運次第です。あ、キラさん」


「え? あ。キラさん。私が高所恐怖症になったら如何してくれるんですか!」



 キラさんは建物の上から、降りて来ていた。

 カムロさんと、パニクさんは一歩下がって、傍観する気のようだ。



 まだ遊びは続いてるって事か。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る