第59話 裏護衛のキラさんに遊ばれる



 朝。まだ太陽も登らないくらい時間帯だ。


「ふぁ〜あ。んー。なんかあんまりぐっすり寝られへんかった」


 瓶買うためにあの雑貨屋さん行くぞって思うと、ドキドキで……。緊張する……。


 柔軟して広間へ。四時だった。流石に早すぎるかな……。まぁ、ゆっくり行けば三時間はかかるから、開くやろう。

 私はポーチとナイフを持って、出かける。



 *


「開いてた」


 時刻は六時過ぎ、まぁ、空いていても不思議ではないけど。ちょっと開くの早い気もする。

 ……一つ気がかりなのが、お店の中にゾロゾロ人がいることだ。

 何かあったのかもしれない。


 そんなピリピリしてる状態のお店に入りたくないので、ちょっと時間をおくことにする。



「やあ、また会ったな」


 目が合わんうちに、巻き込まれんうちに。って思ってたのに。私に嫌がらせ尋問をしてきたキラさんに見つかった。

 私は声など聞こえていないかのように、振り返らずに早足で進む。


「無視する事ないじゃないか」


 前に立たれたので、立ち止まらざるを得なくなった。


「……何の用ですか?」


 正直この人と関わりたくないんやけど。

 関わっても、ろくなことがないに決まってる。だって偉い人の護衛の人やろ? しかも暗部系っぽいし。関わりたくないやーん!

 でも怒ったら怖いから言葉を返す。……はい、チキンですとも。コケコッコー。


「おーい、聞いてる?」

「すみません、聞いてなかったです」



「え、ああ……君を見かけたから、何しに来たのかなーって」


「ただの散歩です」

「本当に?」


 キラさんは疑うように私を見てくる。私もガッツリ警戒中だ。警戒したところで私にできることはないが、不利って結構大事なことなので。

 私はいつも通りの表情、立ち方で、左腕を少し後ろに動かす。


「はい」



 キラさんが顔を近づけてきた。

 パーソナルスペースって知ってる? 私は一歩下がって、視線を逸らす。


「家からこんな所まで散歩に来るなんて、よっぽど暇なのか?」


「暇な時はめちゃくちゃ暇です。なにをやればいいのか、やらないといけないのかっていうのがまだよく分からなくて……。ほら、まだこっちに来て浅いじゃないですか。だから街を見てるだけとか……嘘つきました。すみません」


 白状したのは、気分を害した雰囲気があったから。別にバレてもいい嘘を、バレてるのにつき続けるメリットはない。

 なに言っても信じそうにないっていうか、最初っから疑ってかかってくる人になんて言えばいいんやろう?

 私は正直に話しだす。


「今日の一番は、瓶を買いに来たんです」


「店は開いてるよ」



 まだちょっと疑われている。

 嘘ついたから信用度がマイナスになったんかな? そのまま関わらんといてくれたら良いのに。てかどっか行け。


 不安気に視線を逸らしている留美の内心は結構攻撃的だったりする。

 キラさんがお店の方を振り返った。


「少し人が多いけど気にしなくていいよ」


「人が多いから行きたくないです」


「じゃぁ遊びに付き合ってくれよ」


 じゃぁって何。絶対嫌。アホなん?

 キラさんには遊びでも、こっちは命がかかりそう! そういうのはマジで勘弁してほしい。

 私はあり得ないと首を振る。


「遊びません。絶対嫌です」


「そこまで拒否されると、逆に嫌がらせしたくなるな」


 なんで嫌がらせするんですか。気づいてますか?

 貴方がやろうとしてる事は、弱いものいじめですよー。弱いものい・じ・め!


 キラさんの言葉に、若干引いてる表情の私の背後から声が聞こえる。



「キラさん。嫌がってますよ。無理強いするのはやめてあげてください」


 ありがとう。君は救世主。

 私に棒読みの愛の告白的なものを仕掛けてきたパニクさんだ。


「やっぱり留美のこと気に入ってんの?」


 呼び捨て!?


「そうですね。嫌いではないです」


 ふふふ。ツンデレにしては、デレんの速いわー。別にいいけど♪

 ツンツンより、親しい方が留美は好きや。どろどろに甘いのが好き。ツンデレはゲームやから、いいんや。現実におったら面倒臭い。かっこ、個人の感想です。かっことじる。っと。


「嫌うほど知りませんし」


 前言撤回、ただの氷やった。



「私もう行きますね」

「ちょっと待った」


「……何ですか」


「一回だけ、な? ルールは……お前は何をしてもいいよ。勝利条件は俺を捕まえること」


 無理ゲー。

 課金しまくってるプレイヤーを、初心者が倒せっつってるようなもんやぞ。


「なにが一回だけですか。嫌ですよ」


「ふーん。自信ないのか」


「そんなアホみたいな挑発に乗るほど、子供じゃありません」


 留美はさっさと離れようと歩き出す。するとキラさんはまだ挑発するように、話しかけてくる。


「じゃぁ、これ貰うぞー」


「なにを……え?」



 振り返った私が見たものは、ナイフを二本持っているキラさんだった。

 見覚えのあるナイフだ。


 慌てて腰のベルトにつけているナイフを確認する。いつの間にか取られていたらしい。全く気づかなかった。

 ナイフを取られた瞬間も、ナイフの重みがなくなっていたことも。留美マヌケか?


 その瞬間、頭に血が上っていた。



「泥棒!」



 叫んだ留美は『シャドウステップ』で距離を詰める。


 そんなボロいナイフどうすんねん。

 いらんやろ返せや! それ無くなったら、留美戦えへんやん! うわ、……ちょー困る。


「返して!」


 私は取り返そうと、手を伸ばすも避けられた。短い距離を詰める。キラさんは私を躱すと後ろへ飛んだ。そしてまたもや挑発をしてくる。


「俺を捕まえられたらな。それにしても前よりトロくなってね?」


「こ、ころ……この、ぬすっと野郎ッ!」



 自分のものを取られて留美はブチギレていた。

 荷物を取れないなら、持ってる人を潰せばドロップするよね? と怒りで理性が外れかけていたり……。

 そんな怒り心頭に発した留美を嘲笑うかのように、キラさんが笑いながら上に跳んだ。子供か!!


 私は深く息を吸い込んで、叫ぶ。


「キラさんのバカ—!! それなかったら武器なくなるやろうが! 物取るんは犯罪やで! は・ん・ざ・い!」


「キラさん大人げない……」


 パニクさんも残念な人を見るような目を空に送っていた。



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