第58話 解毒薬と毒薬



 ギルド。

「ギルドのご飯ってこんな美味しかったっけ?」


「美味しいなぁ」


 ギルドのご飯に変化を感じながらもぐもぐ。



「あ! ポーションの子だ!」

「「ん?」」


 覚えてる、あの顔。

 ポーションを買い損ねた男が、私を見つけて指を差していた。三人は何のことかわからず不思議な顔をして食事に戻る。

 私は笑っているものの、ちょっとキレそうだ。

 ママはまだ気になるのか、チラチラ見ていた。


「指さされてる気がすんねんけど、何やろな?」

「留美見てない?」


「なんか見覚えあるわ。ちょっと話してくる」

「行ってらっしゃい」


 コツコツ。



「なぁ、ぽーしょ――」

「ちょっと外に行こうか」


 まだ言おうとするので、『シャドウステップ』で近づき、相手の言葉を遮った。ぶん殴りたい衝動を抑えて、男の腕を掴む。

 私は冷静だ。


 しかし、先程まであった笑顔はどこにもなく、冷たい瞳が見上げている。


 彼は困惑した顔をして、何がいけなかったのか分かっていないようだ。

 まぁ伝わってないこともあるやろう。それか、こいつが物覚え悪いただのアホなんか。穏便にお口チャックしてもらうにはどうしたら良いやろうか?


 留美の敵意を向けるような目を見て、不思議そうにしている男のパーティーは顔を強張らせていた。



 ギルドの外へやってきた私は、即行用事を済ませる。


「クリスティーナさんに聞きませんでしたか? 私が仲間といるときは、ポーションの話はするなって」


「え。あ、ああ」


 その返事どっちやねん。聞いたん? 聞いてへんの? もー、確かに睨んだけど、そこまで顔色悪くせんでも良いやん!

 男は顔色を悪くして固まっていた。

 他にかける言葉もないし、留美が言いたいことも言った。自己中と言われそうな振る舞いに、少しだけ罪悪感を感じる。


「……それだけです。戻りましょうか」


「あ、はい」



 なんで敬語?

 この人の方が年上やんな?


 その後、何の話? と聞かれたが、適当に誤魔化しといた。



 *


 家。広間。二十時前。


「お風呂誰が入る?」

「留美はいるー」

「俺入るー」


「じゃんけんしよか」


「ほい、じゃんけんほい!」


 留美は安定の最後風呂だった。…………なんでだ!



「俺いっちばーん!」

「通さぬ!」


 当てつけのように元気に風呂に行こうとする雷を捕まえる。


「ぎゃー、ひっつき虫がついたー!」


「ふふふっ、この先へはいかさん!」


「あ、じゃぁ、あたし入ろっかな」

「ちょっ、ママっ! いかさん!」



 ふざけ合って三人がひっついている様子を、パパが水を飲みながら微笑ましそうに見ている。

 私たちは数分間、抜けようとしたり、捕まえようとしたり、引きずられたりしながらも笑い合う。

 疲れて手を離すと、みんな汗ばんでいるという本気の掴み合いだ。


「あぁ、いらん汗かいた」

「留美が阻むからやろ!」



 ふぅ。

 一息ついて、各自離れていく。


 私は角材を削って、パパの杖に似た物を作っていく。


 丸く削るのってめっちゃ難しい。……でも剣よりはマシ。慣れた手つきで木を削り続ける。



「上がったよ」


「あ。留美の番か」


 手元には、言われてみれば杖やな〜。という代物が出来た。

 まだまだ削る必要がありそうだ。


 木屑を集めて、いつもの場所へぽいっ。




 体を洗って、湯船につかる。


 ふぅー。そういえば、虫、見いひんけど、個体数が少ないんかな?

 そのまま滅びてくれればいいのに。地面に耳つけたりする事あるから、虫とかいたら嫌やねんな。あの生命はほんまに嫌い。見るだけで背筋が冷たくなるわ。


 あー。思い出すだけで、ぞわぞわして来た。……出よう。



 お風呂を出ると時計は二十二時前をさしていた。


『音聞き』を使う。みんな自分の部屋か。

 留美は階段を上がっていく。


 留美も毒草でも削ってみようかな。どんな毒が出来上がるんか楽しみ! 一発で殺せるよりも、ダメージ与えれる毒がいいなぁ。

 だって毒殺って、おもんないやん。安全ではあるけど。


 確実にダメージ与えられるのもいいけど、やっぱ毒といえば、麻痺かな。くふふっ。麻痺毒ができれば、復讐相手殺すのに余裕ができるかも!

 あぁ、ほんと、待ち遠しいな。あいつらの泣き顔見るの。懇願させて、殺すの。うはははっ。

 まぁ、まだそこまでの力はない! がんばろー。


 あとは……自分にも使えるかもしれんし。死なないなら。いいよね。




 留美の部屋。

 新しくとってきた石をポーチから出す。


 ガリガリ、ゴリゴリ。



 毒草をすり潰していくと、サラサラな粉が出来た。

 やっぱり粉か。

 さらさらしているそれには触れずに、ポーチを探る。空の瓶が二つ。これは子供とお兄さんが口つけたやつ……。



 瓶が、ない。うおーー。マジか。

 ポーション入れるための瓶、増やさな。明日の朝、買いに行こ。……お金あるし。

 留美はにっこり笑う。


 お金あるしっ!



 ……瓶先に洗ってこよう。


 部屋に戻り粉が飛ばないようにゆっくりと歩く。洗ってきた瓶には、あらかじめ水を入れておいた。

 解毒草もやらんとな。解毒草は、薬草を削っている石で削っていく。

 毒草を削ってる石と間違ったら大変や。でもどうなるんやろうっていう興味もちょっとだけあったり……。


 小さな瓶に少しずつ粉を足していく。

 目分量ではあるが、解毒草は三分の一、毒草は半分入れたら変化した感じだ。


『鑑定』


『解毒薬』

 毒による状態異常を治せる。

 一口で効果でるっぽい。



『鑑定』


『毒薬』

 なんらかの毒。

 麻痺毒になったっぽい。



 麻痺毒か。いいんじゃない? 雷とかで一回試してみようかな。


「ちょっと待てよ」


 この色はヤバいかも。

 今手にしている毒薬(麻痺)がヒールポーションと全く同じ色をしていた。間違えて飲みでもしたら確実に死ねるっ。

 回復したい時に追い討ちダメージとか、まじで死ぬやつやん。



「あ、でも、このポーチさんの機能も結構すごいから、大丈夫か」



 ポーチは思ったものを出してくれる、便利な道具なのだ。ただし、何が入っているかを忘れると、取り出せなくなるデミリットもあるが……。


 忘れ去られるってことは、そんなに重要じゃないものってことだよきっと。……たぶん、おそらく。

 たまには、強制的に全てを取り出した方がいいかもしれない。


 解毒草の粉を最後の小瓶に入れて、水を満たす。

 残りの毒草の粉とかをポーチへしまっておこう。


 留美は柔軟をして呼吸を整え、精神をゆっくりと何も考えないように落ち着かせていく。



「……寝よ」


 おやすみなさい。



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