第52話 留美はもう躊躇がない
少し離れている弓使いを倒しに行った留美は、一直線に向かっていた。敵のいる木の下まで来ると、木の上にいる弓を使うゴブリンまで『シャドウステップ』で移動する。
急に現れた私に、ゴブリンが驚いてのけぞった。
「落ちろ」
前と同じようにゴブリンを蹴り落とそうと足を出す。しかしゴブリンは留美の足を避けて、自ら降りることを選んだ。
私はこの状況から避けられるとは微塵も思っていなくて、バランスを崩し木から滑って落ちた。
「う、わぁっ!?」
二階から地面に落ちたような衝撃、頭から行かないようにしながら衝撃を受け流す。
絶対打撲できた。木の幹に当たった腹痛いっ……。
間抜けすぎて笑えてくるわ。
痛む腹を押さえながら立ち上がり、ゴブリンの走って行った方へ追いかけ始める。
追ってきていると気づいたゴブリンは、迎え撃つために振り返った。
「ガアアアアッ! グゥ—」
「だから何言ってんのか分からんねん」
平地を走ってゴブリンへ直線でに近づいていく。
パンッと射られた矢を『シャドウステップ』で避ける。このためにわざわざスキルを温存していたのだ。
ゴブリンは再び矢を打つ前に近づかれると思ったらしく、弓を放り投げて剣に持ち替えた。
留美は舌打ちをして足を止める。
このまま突っ込んでも良かったが、勢いだけでいくのは不安の方が勝った。
弓ゴブなら、弓持っとけばいいものを。
「普段弓なんだから、無理するなよ」
ブンッ!
ゴブリンが振るう剣を回避する。
剣の長さは向こうのほうが長い。おそらく力もゴブリンの方が強い。
一対一で正面向いて戦う時、留美が取るべきは、守り優先での相手にたくさん血を流させること。無理に急所を狙う必要はない。
避けて。避ける。『シャドウステップ』で背後に回り込み、ガラ空きなゴブリンの背中を斬った。
きっとそのうち慣れてきて、背後に回るのも予想される。だから次からは上、横、考えて跳ばないと。
「ガッ!」
ゴブリンが振り返って剣を振るう。
ブンッ! ドンッ!!
「グギャッ、グッ!?」
ゴブリンが振った剣は、太い木に当たって抜けなくなっていた。
頑張って抜こうとすることに必死になっているゴブリン。抜けるのを待ってやるほど、私は優しくない。
首に一筋の深い傷を刻み、離れる。
跳ねた血が木や剣に付着し、足がおぼつかなくなり震えていた。
ドサッ!
ゴブリンは剣から手を離して倒れこんだ。
死んだ。
「ふぅ。あっちは終わったかな? ってまだいるやん」
ゴブリンの後ろ姿が見えた。追いかけて殺す。もし留美のこと覚えてて復讐にとか来られたら嫌やし。
『シャドウステップ』真後ろについた瞬間に、陰った後ろを振り返ろうとしたゴブリンの両目にナイフを差し込んだ。
飛び散る血を浴びながら、全体重でゴブリンを押さえつける。
グサッグサッグサッ! グサグサグサグサグサグサグサグサグサギーコーギーコーグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサ
「あー、グロいグロいっ♪ たのしー♪ うはははっ♪」
なんか一瞬、変な思考が通り過ぎて行ったような……。まぁいいや。
真っ赤になった手をゴブリンの布になすりつける。
「ふぅ。今度こそ終わったよな。なんか最初より全然楽に殺せるようになった気がする。いいことや。……ってグロ……誰やこれやったん。留美しかおらんよな……はぁ」
耳を回収っと。
頭痛がすると少し目を閉じる。
あ! まさか皆、死んでたりしいひんよな? 大丈夫や。皆んななら普通にやれば勝てる。
私はポーチに、耳と武器だけ入れると、三人の場所へ急ぐ。
三人が戦っていた場所に戻ってきた私は、ママとパパが耳と武器を集め終わり、解体している所を見て、冷たいものが走った。
雷は?
「留美、よかった」
「雷は?」
「留美を探しに……」
目を見開いて地面に屈む。
『音聞き』――――ドクドクドク。うるさい。心臓黙れ。――――――――足音。――――「留美ー! どこやー!」
あのバカ。そんなに騒いだら、他のゴブリンも寄って来るやろ!
森に響く声に誘われて、すでにゴブリンが近づいていっているのがわかる。
「耳とかポーチにしまっといて。雷を連れ戻してくる」
そう言って私はポーチを投げると、森の中へ消えていく。
ママは慌てたようにポーチを受け取り、消えた留美に一応返事をすることにした。
「わかった」
母は何も出来ない自分に、苦虫を噛み潰したような表情をする。
任されたの役割くらいは全うしなければと思い、取れたものをポーチに入れようとして……入らない。
「入らんわ」
「……なんで渡したんや?」
「さぁ」
パパも入れようと試みて、……入らない。
そういえば最初の頃に、雷がポーチに手が入らない。と、留美専用のポーチになってると騒いでいたなと思い出す。
「二人とも大丈夫かな?」
「あたしらが行ってもどうにもできんからな……でもついていけばよかったかも……」
それ以上話さず二人は黙って息を潜めておくことにした。
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