第51話 魔が差して、故意に奇襲を受けてみた



 私たちはゴブリンの姿をとらえた。


『鑑定』


『エリートゴブリン』

 この地域に住む種族。ゴブリンより強い。

 一人でも大丈夫っぽい。



 鑑定さん雑。一人でも大丈夫って信じても良いのか……。


「雷が行って、留美が行って、必要そうならパパが援護で」


「おっけー」

「おう」

「あたしは?」


「ママはいつも通り、もしもの時パパを守るのと、怪我をした時のヒール。何かあった時のフォローも頼むわ。後は周りを警戒かな」


 正直一番難しいポジションやと思う。

 守る、援護、フォロー、周囲の警戒。やることめっちゃある上に、ママが動いたら、もう後がないところまで来てるってことや。


「あ、留美と雷反対でもいいけど?」


「俺行くよ」

「そう?」


 アイコンタクトを取って頷き合う。

 雷は剣を構えて、飛び出していった。


 隠そうともしない足音で、ゴブリンが雷の存在に気づく。そしてゴブリンは剣を抜いて構えた。



「オラッ!」

「ガァ!」


 剣は当たった瞬間に、弾き合う。火花みたいなのが散っていた。

 出る時を伺っていた私は、剣が完全にゴブリンの制御化にないうちに『シャドウステップ』で背後に回る。


 私に気づいた雷は一歩下がった。エリートゴブリンは留美に気づかず、剣を構え直しながら正面にいる雷を威嚇している。

 無表情に、冷酷に。


 私は敵の首を後ろから斬った。のけぞったゴブリンを刺すことも出来たが、トドメは雷にくれてやろうと、いったん離れる。

 ブンッ!


 エリートゴブリンが剣を振り回しながら振り返った。

 とっくにいなくなっていたが、一秒二秒遅かったら傷を受けていたかもしれない。怖っ。


 離れる選択をしたことが安全第一という意味では、正解だったようだ。不正解なら血がブシャー。



 留美の方を向いたゴブリンを見て、雷はその隙を逃さず。背中から深い一撃を与える。

 ザッ!


「グッ、ガ、ァ……」


 バタッ。



 よし。怪我人なし。

 ママとパパも安心して、近づいて来る。


「よっしゃ! 倒したー!」



 剣を振り上げたせいで、垂れ流れとんだ血液が雷自身にかかっていた。


 嬉しそうに宣言した弟がブンッと剣についている血を払おうとしている。

 殺すのが嬉しいとか留美にはわからん感覚やな。…………そう思うのが、正常、普通、……かな?


「うるさいで。ゴブリン寄って来るやろ」


「いいやん。あっちから来てくれんねんから」



 これは奇襲やから、楽に勝ててんねんで。

 ゴブリンから奇襲を受けてパニックになったらヤバイからな? 一回そうなった留美が保証しよう。


 奇襲は、ヤバい!



 っと、噂をすれば何とやら。ゴブ四体来てるやん。

 私は魔が差してしまった。もしも奇襲を受けたらどうなるのだろう。そんな興味。


「雷。ゴブの上の服、剥いで」


「分かった」


 留美は両親の方を見る。


「ママとパパは一応、周囲の警戒」


「ああ」

「分かった」


 警戒してって留美は言うたからな。

 私はゴブの耳を取ると、ポーチに入れる。雷が取った服もポーチに入れた。



「雷も警戒しといて」


「はーい」


「あ。この石ガリガリ削るのにいいかも」


 私は石をポーチに入れると、肉を取るためにエリートゴブリンを解体する。そしてポーチへ。

 今日の夕ご飯にしては少ないよな。


 剣もしまおうと手に取った時。

 森から奴らが出てきた。


「グギャ—!!」

「きゃぁ!?」

「ガァー!」

「ググァー」

「ゴブ来た!!」



 ゴブリンが走って向かって来る。雷は慌てて剣を抜いた。パパは固まり。ママは武器を構える。


 みんなで死ねばいい。

 血の滴ったナイフと手をそのままに立ち上がった。留美はナイフの後ろを腹に打ちつける。


 考えてはいけないことを考えてしまった。

 自分が死にたいからって、家族を撒きこんならダメだ。死ぬべきはゴブリンたちの方に決まってる。


 カンッ!!


「うわぁ!?」

「雷!」


 ブンッ!

『シャドウステップ』ゴブリンの方へ走って蹴り飛ばす。


「ギャッ!」

「ママ、パパとその一体相手して! 雷、二人で二体やるで!」


「お、おう!」



 ギュッと剣を握りしめ、向かってくる敵の剣を下がって避ける。それを牽制して下がらせるのは私の役目だ。

 幸い、ゴブリンは協調性が低い。

 二人が一匹を倒す時間を稼げれば、数の理でゴリ押せる。


 カンッ!! ブンッ!



 いつの間にか雷と留美は距離が空き、一対一の図になっていた。悲しきかな。協調性がないのは留美も同じって言う……。

 正面からの戦闘はマジで無理。


 キンッ!


「痛いっ!」


 それよりも気がかりなのが、出て来たのが三体って事だ。もう一体は弓使いか。戦闘中に周囲を探るなんて高度な真似は、今の留美には出来ない。

 目の前のゴブリン捌けてる私すごーいっ! アドレナリンどばどばである。


 ここで四体目が来ていたのを知っていた留美は、冷静に言う。

 隠れてる弓使いが厄介や。



「ひっ!?」


 あっぶね!!


 私の顔めがけて矢が飛んできた。留美じゃなかったら、確実に当たってたよな。怖いわー。

 冷静な頭で叫ぶ。


「わぁーー!!」


 私が間一髪で、避ける事が出来たのはスキルのおかげだ。


「もう一体、弓使う奴いる!」

「マジ!?」



 私が遠くに跳んだせいで、雷はゴブリン二体を相手していた。

 なんか大丈夫そう。うまく立ち回っている弟にゴブリンを任せて、視線を巡らせる。


 両親の方はママがゴブリンと対峙して、パパが魔法を打つ瞬間を考えている。


 いた。

 弓使いゴブリンを見つけた。



「パパッ! 雷の方も援護! 留美はちょっと弓使い先に殺って来る!」

「おい!」


 雷の相手していたゴブリンを通り魔しておこうとしたら、振り返られた。

 そのまま通り過ぎる。


「パパッ『バインド』してくれ!」


 パパは雷の要望に応える。

 ついでという風に、ファイアーボールも打つ。



「ふっ」


 ママはゴブリンに向かって鈍器を振り下ろす。

 ゴブリンは避けながら、たまに打撃を弾いていた。冷静すぎて気持ち悪い。嫌がらせに関しては何故か頭が回るとかいう害悪か?


 数の上では互角。



 雷が『バインド』で固まったゴブリンを一匹、深々と刺し殺した。


「もう俺は良いから、ママの方手伝って!」


「分かった」


 母の方は立場が逆になっていた。

 そして今、ママが転がって攻撃を回避している。


「ブルカーン・バル・プラーミア・ノワイドファイヤー。ママ頭低くしといて!」


「っ」



 パパの放った『ファイアーボール』は見事ゴブリンへ命中し、口から煙を吐いて倒れこんだ。

 一応という風に、ママはゴブリンの頭を潰す。

 グシャッ!


「うわっ」


 簡単に頭が潰れたことにママは数歩下がる。


 ママとパパの戦闘が終わっても、まだ雷の戦闘は終わっていない。

 雷は剣を弾かれて、後ろに下がっていた。その動きは戦闘に慣れているものの動きのようにも見える。


「わっ」


 その場所にあった石につまずいて、尻餅をつく。


「ヤバっ」


 ゴブリンが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 確かに勝つだろう。この場に雷とゴブリンが一人つづなら……。


 ゴブリンが剣を振り上げる前に、ファイアーボールが顔に命中する。

 その後、ママがフルスイングで顔を強打した。もはや躊躇など存在しない。



「グ、アァ……」


 ゴブリンは顔が潰れ、武器を手放してもがき苦しむ。

 そこにすかさず、雷が劍を振るって致命傷を与えた。ゴブリンは完全に息絶えたようだ。


「雷、大丈夫か!?」


「大丈夫。それより、留美は?」

「まだ帰ってきてない」



 地面に落ちているやを見て、血の気が引いていく。もし留美が死んでしまったらと思うと、走らずにはいられない。


「俺探してくる! 二人は色々回収しといて!」

「雷!」

「雷に任せよ。そんなに遠くまで行ってへんやろ」


「……ああ」


 両親は二人の言った方向と眺める。



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