第44話 謎の青年はツンデレで、変な客達がガン見してくる
「何だ客か」と宣った青年は、今まで見た中で一番身なりが良かった。
金の髪と、金の瞳を持つ青年。
形こそ清潔な平民が街を歩くような姿をしているが、話せる距離になると、その素材がいかにいいものかが目に見えてわかった。
街にとけ混みむ努力は窺えるが、容姿と風格が貴族を思わせる。
絶対貴族か、貴族に近しい人や。違うかもしれんけどっ。
あの髪の毛って、ブロンドってやつやろうか。かっこいい! 王子様系やね。でも留美は黒が好き。いやでも水色とか青とかもいいな。深紅もめっちゃいいと思う。白も最高っ。…………結局、顔か。
そういや留美、ブロンドって最初茶色のことやって思ってた。ブロンズとブロンドって、ほぼ一緒やん。誰かに文句言いたい。
「人の話を聞かないタイプはよくいるが、微動だにしないのは少し怖いな」
「!」
しまった。また思考優先してた。
恥ずかしくて顔が赤くなっていく。それを隠すために意識的に笑顔を作ってやり過ごしにかかる。
「すみません。考え事をしていて」
「……瓶が欲しいってことでいいのか?」
接客業やのに、すごい不愛想。
でも、不思議とムカつかない。顔がいいからか。……それにこの人めっちゃ強そう。綺麗な剣持ってるし。高そう。うわー、うわー。うわーー。
「どうなんだ?」
「いくらしますか?」
留美のへんな間のせいか、青年は警戒するように剣に手を置く。その過剰とも言える反応に、留美の方も内心ヒヤヒヤしていたりする。
それをおくびに出さずに、瓶の方へ視線を向けた。
「一番大きいのは銀貨五十枚、一番小さいのは銀貨五枚。このくらいでいい」
くぅ〜。銀貨百五十六枚しかないけど、これは仕方のない事……。服買うために溜めてたけど、また溜めればいいだけの事!
留美は今これが欲しい!
うん、貯める手段があるなら買ってもいいと思うねん。
「じゃぁ、大きいの二つと一番小さいの十個ください」
「……ああ。百五十枚だ」
「銅貨?」
「銀貨」
青年は少しムッとしながら答えた。
特に意味もなく出た冗談だが、相手の気を悪くしてしまったなら申し訳ない。
カウンターの方へ行った青年についていき、ポーチから袋を。銀貨百五十枚を出して机の上に乗せていく。
じゃーん、十枚タワーが十五個。
カラン。
人が入ってきた。
うわでっかい。
同じような外套を着ている三人が入ってきた。一人は隠してないが二人は隠しているものの、明らかに武装しているのが窺える。
歩く瞬間に見えた外套の内は制服のようだ。彼らの動きから、なにか組織的な印象を受けた。
入ってきた三人は私と店員さんを一瞥すると、バラバラにお店の中に入っていく。
なんか睨まれたー。
青年は入ってきた客に声もかけず、お金を袋に入れていく。
「…………」
小柄な人が大盾持ってんのもいいけど、巨体が大盾持ってんのも安定してそうでかっこいいな。他の二人も戦士っぽい?
なんか視線を感じる。
そわそわした状態で後ろを伺うと、やっぱり目があった。
な、なんでこっち見てんの。留美カモられる?!
その中の一人が私の方に進み出して、途中で仲間の人に物理的に止められた。
「やめなさい」
「ちょ、リブ先輩、首締まってる……!」
元気有り余っていそうな男を、止めた男は私を一瞥する。
何をしようとしたんやろう……。
袖から出る指先を曲げて、手で口元を隠す。
不安すぎて、怖くて、顔を触りながら呼吸に意識を集中させるのだ。これで少し落ち着く。
奥へ入っていった青年が、皮で出来た袋に瓶を入れて持ってきてくれた。
トンと置かれたそれを見る。
「皮の袋って返しに来なくてもいいですよね?」
「ああ」
ラッキー。
次からもここで瓶買おうかな。店員さんの名前聞いたら不振がられるやろうか。でも誰でもいいから交流を持っておきたい。私が受け身じゃダメだ。あの門番さんみたいに、フレンドリーに頑張るんや留美。
「ありがとうございます。私、留美って言います」
「だから?」
だから? って返されるとは思わんかった。え、名前言ったら、名前返してくれるもんやろ? 違うん? 留美の知識と違うっ。
じわっと涙が溜まった状態で言う。
「貴方の名前も教えてくれませんか?」
「俺はアルト……アルだ」
「えっと……アルトさん?」
「アルだ」
キッと睨みつけられた気がしてたじろぐ。人怖いぃ。
「は、はいアルさんですね。……また来ます」
「ああ」
怖い人やった。ツンが強い。個人的なことは聞かん方がいいな。ぁあ、ハートブレイクされそう……。
素のガラスの心を覆わないと。
泣くな泣くなうざいやつって思われる。
ポーチに瓶の入った袋を入れると、店から出る。
なんとなく挙動不審に、追いかけられてないかとか見渡しながら走った。
ここまでくればいいよな。
とぼとぼと歩く。
別にさ、貴族っぽいからって探ろうとしたわけでもないしさ。偶然その店に行っただけやしさ。悪いこともしてないしさ。接客業なんやし愛想笑いくらいくれてもいいのに。
はぁ……。アルって絶対偽名やろ。
偽名じゃなくても、本名からポンポンって、とったような名前。
タダの人見知りかも知れないけどー。
まさかこの世界の人って、みんなあんなに無愛想に先客すんの!? この先また店に入れんくなる……。
人に会いたくないな。話したくないな。見たくないな。見て欲しくないな。話しかけて欲しいな。仲良くなりたいな。
矛盾だらけで気持ち悪い。
もしかして留美臭い?! 臭う!? だから辛辣な態度!?
すんすん。臭いとは感じひんけど、自分じゃぁ分からんからなぁ。分かったとしてどうしろと? って言う問題もある。
早く入って、汚れを取りたい。
はよ帰ろ。
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