この世界の人々。

王族と裏護衛

第43話 街の散策と雑貨屋の青年



 朝だ。

 まだ日が上がり切らない早朝。

 夜に何かうるさい音が鳴っていたけど、何やったんやろう。危機感のない留美はそんなことを思いながら、ゆっくりと柔軟をする。

 そして階段を降りて広間へ向かった。時計は五時を指している。


「おはよー」


「……おはよ」


 全員起きていた。寝るのが速いとやっぱり早く起きるものだ。

 早起きは三文の徳ってね。……でもなんか得したっけな?



「お風呂沸かそー」

「そうやな」

「皆で水、運ぼか」


 お。みんな賛成や。



「って言っても入れ物が、一つしかないで?」


 雷の言葉に留美は首を傾げる。

 確かに井戸にあるのは一つや。樽を半分に切ったようなやつしかない。その名を桶と言う! ででんっ。…………頭やーば。


「五回交代って事で」

「はーい」


「年上から行こ」

「パパからな」



 なんか決まったらしいから、井戸についていく。


 湯船の水が半分入ると、パパは火を起こすために離れた。

 あとは三人で運ぶ。 


 完成! したのに……あー。じゃんけんで負けて、最後になるという不運。いいけどね……。

 軽く見積もって一時間はかかるな。



 その間。私はポーションを入れる瓶を売っている店は無いかを探しに行くことにした。

 一応、ナイフも持って行く。


 一口で良いなら瓶は出来るだけ小さい方が良いよな。溜めとくために、大きいのも必要や。

 おっ買い物〜。おっ買い物〜。初めてのおっ買い物〜♪


「いってきまーす」

「いってらっしゃい。気をつけやぁ〜」

「はーい!」



 町を歩くが、なかなか人がいない。

 お店を探すには早すぎたようだ。


 酔いつぶれた人や、酷くやせ細った人などはいるが、話しかけずらいので無視だ。無視。

 留美もそんな余裕ないから怖い。



 一周まわる。ない。上通りへ行く。一周まわる。ない。

 もう一つ上。貴族区と呼ばれるところまで歩いてきたが、出ているお店は一つもなかった。

 すでに三時間程すぎていたりする。


「やべー戻るか」


 九時前ともなると、朝日が強い。




 戻る途中に、歩いていた人に声をかけた。

 彼は私たちのように、ギルドで収入を得ている人のようで、快く常識を教えてくれる。


 その人によると、この町は中心の北西よりに、王族がこの町に来た時に住む場所がある。

 その周りに貴族や裕福な者の住む場所。その周りに商店街が並んでいる。

 そのまた周囲に、平民が住んでいる場所がある。

 聞くと、南の方にはスラム街というものもあり、細い道に行ってはいけないよ。と忠告を受けた。

 そして今はゴブリンが数匹町に入るという緊急事態で、警戒の鐘が鳴っていたらしい。

 だから人がいないのか。そして、夜にうるさかったあれか。なんて思った。


 お礼を言って、離れていく。



 この世界は王様いるんやね。普段は北の王都で暮らしてるらしいけど、どんな人かなぁ?

 一応やる事はやってるらしいけど。周りが敵だらけ過ぎて、人間の領地を広げるどころか、維持するだけで精一杯ってな。

 ちょっと前に人間の領地がいっぱい広がったらしいけど。今は手をこまねいてるって感じらしい。

 貴族生まれが一番楽って事やね。結構いい暮らししてるみたいで、羨ましい限りや。


 何より、戦わなくても潤った生活出来るっていいよね〜。



 帰ろとか言いながら、留美は家とは別方向の場所へ向かっていた。

 西の方へ行くほど整備が進んでいて、街がきれいになっていくのだ。貴族街というものを一眼見てみたい。

 そう思って歩いていたが、商店街に来てしまったようだ。


 道幅が広くとられていて、歩道や街頭が設置されている。

 露店売りをしている人はおらず、お店が立ち並んでいるという印象だ。


 ガラガラ……。

 音で振り向くと、馬が走っていた。馬だけでは無い。車輪がついた箱もだ。……つまり馬車だ。

 装飾のついたおそらく貴族の乗っているそれが通り過ぎていく。


 うぉぉおおおっ!!


 留美は目を輝かせて、去っていく馬車を見送った。

 初めて見たそれにドキドキが止まらない。


 この辺馬車走んねや……。馬車……馬車やっ! くぅ〜〜っ! このときめきを誰かと共有したいっ!



 その想いは叶わずも、上機嫌でスキップしながら道を進み出した。




 開いている店を発見した。

 見た感じでは、雑貨屋、といった感じだ。めちゃくちゃグッとタイミングじゃないですか!


 入ってみる。


 カランッ。

 中はシンと静まっていた。人がいない。…………入っていいよな? ちょっと犯罪行為をしているようで、ゾワゾワする。



「あ。瓶、発見」


 小さいのから、大きいものまで瓶が一つづつ並んでいた。

 商品を見渡せば、陳列してあるのは一つだけで。在庫は裏かどこかにしまっているのだろう。

 一番小さいのが一口サイズくらいか。一番大きいのが、胴周り両手で持つくらいの大きさ。なお、手の指同士はぜんぜん届かない。



 一番小さいのと大きいの買えばいいかな? 値段にもよるけど。ちっちゃいのは買えると思うし。

 あれ、値段どこ?


 一番小さいのを手に取る。


「あんた、なにしてる」

「わっ」



 せ、セーフ。


 いきなり話かけられて、瓶を落としてしまいそうになった。何とか手でキャッチできてよかった。こんなお金ない時に弁償とか絶対嫌や。


 ……にしても、全然足音せんかった。いや留美が瓶に集中してただけかもしれん。

 足は……ちゃんとあるな。人間人間。



 安心して顔を見上げると、そこには青年が立っていた。青年もさっきの一言だけ言って、ただ私を見ている。

 ……留美から何か言わないとダメ? あぁ、何してるんやって聞かれてたわ。



「……お店、開いてますか?」


「何だ客か」


 お客さん以外に誰が入るんよ。



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