第42話 私たちは(非)日常へ戻る。



 元気よくギルドから出て、家に戻っていく。

 広間。十五時 


 椅子に座っていたママとパパが「おかえり」と声をかけて来る。それに挨拶を返すと、どっかりと椅子に座る。

 できれば地べたに寝転がるか、座りたいところだけど。土足で歩いている場所に寝転がるのは、汚れが気になってやりたくない。


「ママとパパってお昼ご飯食べた?」


「食べてないな」


「じゃぁ、食べに行こ」

「俺も腹減った」



 という事で、お昼ご飯を食べに行く。

 もぐもぐ。


「酢豚うまぁ」

「カレーじゃね?」

「何言うてんの、オムライスやろ」


 何も言わなかったパパを見る。


「……それ俺もボケなあかんやつか?」


「ぶっ」

「ふふっ」

「どれでもないって言うな」


 四人は笑って各自の手にある、なんの肉かわからない串肉を頬張る。味が肉っぽいからたぶん肉。見た目ツヤツヤした赤いボールのような見た目のもの。

 お腹がすいている事もあり、いつもよりは美味しく感じた。


 空腹は最大の調味料ってね。




 家に帰ってきた私たちは広間で寛ぐ。

 留美は椅子を並べてその上に寝転がっていた。


 特にすることもないが、猛烈な疲労感を感じる。

 思い返せば、朝から木を切って、山を歩いて、精神的ストレスを受けながら警戒しつつ山歩いて、戦って。一日が濃い……。


 今日は戦わへんって思ってたのに、戦うことになるし。

 はぁーーーーって。クソデカため息出るわ。出てへんけど。



「じゃぁ俺と留美は、庭で木刀作ってるな」

「むり」

「ほら留美行くで」

「ほんま体力有り余っとんな。……まぁどうせ暇やしいいか」


 起き上がって椅子を戻していく。動き出した子供達を見て母も立ち上がった。


「あたしちょっと寝るわ」

「パパは?」


「俺も調子悪いから寝とく」



 二人は自分の部屋へ。雷と留美は井戸の近くに木を持って行って、作業の続きをする。


 木を削っていく。

 その単純作業に、疲労が相まって思考が目の前から離れていく。


 ゴブリンの森普通に行ったら、もうちょい倒せたと思うのに。ままならんなぁ。


 この破けてる服嫌やねんけど。


 そういえば、ママもパパもローブボロボロになってたな。パパに至っては片腕ないし。

 誰のを先に買うんやろ?


 明日は行くんかな? 行かなあかんやろ。服の為に!

 ゴブリン倒せんでって証明できたかな。



 井戸の前で、角材を削る。

 時間が経って、雷の休憩が多くなり。留美の集中力もだんだんと落ちて来た。


「雷。もう暗くなって来たし、次にしよー」


 新しい木を切り倒してきた雷が、枝を運んでいる。


「俺あと、二本切らなあかんねんけど」

「留美も自分の木刀と、ナイフ型の木刀二本と、雷の木刀、全部完成してないし」


 飽きたから今日はおしまい。


「えー。じゃあ俺も入る」

「ヤスリとか売ってへんかな? このまま当たったら絶対痛い」


「石でいいやん。これとかザラザラしてるしいけるやろ」

「いけるか! でもまぁその辺置いといて。ないと思うけど使うかもしれん」


「うっす」



 削りかけと角材をポーチにしまうと、家に入る。

 広間ではママとパパが椅子に座っていた。


 角材にする時に切った枝は、風呂を沸かすときや、焚き火をする時に使える。そのため、薪置き場に置いておいた。



「ママー。パパ—、ご飯どうするー?」


「寝るからいらんかな」


「パパは?」


「俺もいいわ」

「マジで?」


 ご飯も食べずに寝ると言う二人が心配になる。お金のことなら心配せんでええねんけどなぁ。

 両親が目を細めて階段を上がっていく。

 なんか話してたんやろうか。木刀作りに集中していた私は、二人の行動が読めないでいた。



「雷ゴブ肉と食べに行くのどっちがいい?」


 どっちも嫌そうに顔をクシャッと縮めた。

 留美はその前で目をつくぞと、ピースした手を構える。


「やば」

「雷の顔が?」

「留美の頭」

「は?」


「……ゴブ肉でいいよ」


「そう?」


「どっちもあんまり変わらんしな。それならタダの方が良いやろ」


 今日取った分もあるしと、井戸の方へ向かっていく。


「あ」

「なに?」


「火ぃ、起こせる?」


「………………」


 留美は廊下で構えた。


「深き地に眠りし業火の炎よ、原初の力を我が――」

「そこまで強いのはいらん」


「………………」


「………………」


 私は踵を返した。


「パパに燃やしてーって言ってくるー」

「俺は木ぃ井戸に持って行っとくわー」



 パパに魔法で木を燃やしてもらい、たき火状態にする。それから石を組み立て、ゴブリンの肉を置いた。

 ジュー。


「お風呂も沸かす?」


「二人でやるん? 水運ぶのしんどいでー」


 実際にやったことがない留美だが、しんどい想像はできたので今日はやめておくことにする。



「明日の朝、誘って沸かそか」


「そうしよ」


 血の雫が火に落ちてシューという音を立てる。煙が臭い。次第にゴブ肉が焼けていく。

 …………焦げてる。


「なぁ、今更やけど、肉水洗うの忘れてる」


「あー、だから煙出てんのかな……しゃーない」

「しゃーないな」



 ナイフでぶっ刺して、コロコロ転がして焼いたけれど、火加減が強かったようだ。

 水で擦った石の上に、水で洗った薄くスライスしたゴブ肉を置く。


「これ、ちゃんと焼けてなかったら、食中毒とかになったりするんかな?」

「うわ、あるかも。ちゃんと焼いとこ」


 薄くしてからも炙るように焼く。


「焦がし過ぎたら食べられへん味になるから気をつけな」

「食べれる不味さか、食べられへん不味さか。……辛い」

「ほんまに。まずいよな」

「同意」



 ゴブ肉が焼けた。


「もう一個焼く?」


「……うん」


 不味いけど、育ち盛りの私たちはお腹が空いているのだ。エリートゴブ肉が焼ける。


「さっきより美味しい。なんかした?」

「いや? 何もしてないよ。焦げがちょっとなくなったとか?」


 エリートの方が美味しい。

 もぐもぐ。



「はぁ。この世界不便すぎるな。なんやねんこの微妙にへんな発展してる世界」

「迷い人がちょいちょい変革してんのちゃう。古いところと新しいところがゴチャってなってる感じ」


 奇妙としか言いようがないよな。

 エリートゴブの肉を手で食べていた雷が、煙の上がる空を見た。



「あのさ。ポーションってどうやって作るん?」


 私も食べながら空を見上げる。


「薬草を集めて、すり潰すやろ。そんで入れ物に入れて水入れる。で、完成」


「簡単やな」


「うん」


 作り方はなって言う条件がつく。

 鑑定がなかったら、薬草と雑草と毒草の区別つかんから厳しい。もしも毒草やったら、死ぬかどうかは知らんけど、悶えるのは確実やろうし。


「俺も出来る?」


「材料さえあれば出来るんじゃない? 薬草は自分で見つけてや」


「どんなやつ?」


 期待のこもった目を見て、留美は苦笑した。


「これ雑草。これ薬草。これ毒草。見分けつきそう?」


「俺じゃ無理やん」


「鑑定覚えれば? 鑑定鑑定言ってれば、覚えれるやろ。実際留美はそうやって覚えたし」


「……やってみる」



 肉を食べ終えると、後始末をしっかりしてから、二人とも部屋に入っていく。


 おやすみぃ。

 ベットに寝転がると、すぐに意識が遠のいていくのを感じた。



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