第41話 ピンチを救うヒーローってね



「雷、そっちの左耳と、上布と、解体して肉を取っといて」



「……わかった」


 その間はきっと、解体するのが嫌なんやろな。だって、留美も嫌やもん。

 一匹は雷に任せて、留美も自分の倒した方のゴブリンの耳などを回収してポーチに入れる。



「雷、出来た?」


「グチャグチャになった」

「まぁ、いいんじゃない? 耳さえちゃんと取れれば文句はないよ」



 雷の方も回収する。

 手が血まみれ……。適当な石にこすりつけておく。


 さて、へたり込んでいるママとパパに話を聞こう。

 取りあえず、怪我してるままとか嫌やろうし、欠損ポーション飲んでもらお。あー、でも勿体ないかなー?


 どこも欠損してなさそうやし……あ、え。よく見たらパパ腕無いやん。え!? 腕、無いやん!!?



「留美、雷、なんでここにいんの?」


「部屋にいなかったから、探しに来た」

「俺たちが工作してる間に、ゴブリン退治行くとか酷いやん! 行かんって言ったんママやのに!」

「それな」


 不敵に笑うと、母はしょんぼりと顔を伏せた。


「あたしらは二人がどこにもおらんかったから、我慢できずにゴブリンの森に行ったんやと……」

「俺ら壁の向こうで木刀作っとっただけやで」

「庭の林になってるらへんな」


「……………」


 おっふ。なんというすれ違い。

 あ、そうや。忘れたらあかんこと。


『音聞き』で周囲を探る。

 今ゴブリンに来られたら、対応が遅れて死ぬかもしれん。十分に探ってから目を開ける。


「帰ろ」


「うっ」

「パパ!」


 パパが立ち上がろうとするが、倒れこんでしまった。ぎゅっと腕のないを肩を掴んで、苦痛に満ちた表情をしている。冷や汗もひどい。

 結構重症やな。治したら自分で歩いてくれるよな。おぶるとか無理やで?


 大丈夫だと達観しているからか、父の怪我に対して留美だけは冷静な態度で見下ろす。冷静すぎて薄情なきさえする。

 私はポーチから、濃い緑色の液体の入ったコップを出した。


「パパもママもこれ二口づつ飲んで」


「何それ?」


「欠損ポーション。昨日作った」


「あ。だから右目治ったんか」


 やっぱり気づいてたんか。

 ママもきっと、ヒールではパパの腕は治らないって知ってるよな。


「……うん」



 ママとパパが二口づつ飲む。返してもらったコップを、ポーチにしまう。


「うっ」


 パパがうめき声をあげる。

 なんかとっても痛そう。……え? 何か間違った?


 そう思っていると、二の腕から指先まで、すーっと再生するように腕が現れた。


「……うわ、生えて来た」

「腕治って良かったな」



「……ありがとう」


 良かった……。

 なんかミスったかと思った。


 ママとパパは茫然と生えた腕を眺める。雷も興味津々で触っていた。私も興味あるから摘む。

 なんだか小さい生き物をみんなで寄ってたかって、可愛がっているような図になっていた。

 なんとなく強く摘む。


「痛いっ」


「ちゃんと腕や」

「腕やな……」


 こんなことしてる場合じゃない。


「帰ろ」


「帰り道は?」

「たぶんあっちやと思うけど……。ママとパパはどっちやと思う?」


 二人は首を振った。


「必死で逃げてたから、分からん」


「たぶんおそらくきっとこっち」

「めっちゃ疑いたくなる」


 へへと笑って留美が歩きだす。それに続いてママとパパ、雷がついて来る。

 あれだけ憶測に聞こえる言葉を連呼したのに、ついて来ることに躊躇や文句はなかった。信用されているのか、とりあえずここから離れたかったのか。


 なんにせよ、留美は町の方向をちゃんと覚えていたから、どんどん進む。そして一度もゴブリンに見つかることなく、森を出た。




 東門。

 入り口で門番をしながら駄弁っていた門番さんが、私に気づいて走って来る。


「仲間は見つかったみたいだな」


「はい。情報ありがとうございました。お勤めご苦労様です」


「おう。気ぃつけてな」


 爽やかに笑った門ばんさんは、駄弁り仲間の元へと戻っていく。

 見つかったかどうかを聞きにきてくれたんか。なんてお節介でいい人なんや……。


 門を通り過ぎて、それなりに人がいる通路を進む。


「雷。ママとパパを連れて先に帰っといて、留美はちょっと耳をお金に換えて来るわ」

「俺もギルド行く」


「ん? 分かった。じゃぁ二人は寄り道せずに帰ってな」

「留美と雷もな」




 ギルド。

 騒がしい声と酒の匂い。昼間っからやってるねぇ……。

 耳の換金もそうやけど、留美も門番さんみたいに仲間見つかったよーって報告した方がいいやろうか。いやでも、あっそうどうでもいいし、とか言われたら泣く自信がある。

 やばい、考えまとまってないのに。


「クリスティーナさん。ただいま帰りました」


「お帰り。仲間は見つかった?」

「はい。ちゃんと生きてました」


 報告できたー。

 ていうか、死んでたらこんな普通に入ってこないよ。


 嬉しそうに目を細めて笑うとクリスティーナさんも笑みを深くする。


「留美ちゃんも元気になってよかったわ〜♪」



「…………えっと。ゴブリンの耳です」


 元気になってよかった。この返しって、なんて言うのが正解なんやろう……。あぁ、無視してしまったみたいになってるし、気ぃ悪くしてたらどうしよう……。

 勝手にネガティブになって萎縮していると、クリスティーナさんがカウンターにお金を乗せた。


「二つで銀貨十六枚よ」


「四枚マイナスなのは何でですか?」

「それはねぇ。……この耳のここ見て、切り方荒いのよ」


 荒い……雑い……。

 確かにギザギザ。



「雷……」

「いやいや、留美が綺麗すぎるんやってっ」


「それとゴブリン一匹退治の依頼報酬、銀貨十枚。合計二十六枚よ」


「ありがとうございます」


 チャリンチャリンと数えながらお金の袋に入れていく。

 ちゃんと二十六枚あるな。


「行こ」

「おう」


「またいらっしゃい♪」


「はい、また来ますね」

「あざーっす」



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