第40話 アハハッ瀕死だ! ……やばいやん



 ゴブリンの森。

 整備されていない道というのは、それだけで体力を奪って来る。それに加え、視界の悪い鬱蒼とした木々が、敵の視認を阻んでくるのがすごく嫌。

 かと言って、よく見通せる平原でゴブリンに囲まれるのも嫌だ。


「何気にコミュ力高くなってるし、何があったん?」


「今、周囲聞いてるから黙って」


「……おぅ」



 ママとパパの事やから、そんなに遠くまで行ってないはず。


 二人組の足跡を。


 二人の声を。


 息遣いを。


 探せ。



 ………………いない。この辺りにはいないようだ。自分のスキルの狭さに舌打ちしたくなる。


「雷。この辺にはおらんぽいから、もうちょい進むで」

「おう。ていうかお腹減ったんやけど」

「我慢して」

「はーい」


 ギルドでご飯食べるつもりやったのに、駆け出していったん雷やん。そんな文句をうちに秘めながら、獣道の草を踏みつけて進む。

 不思議なことに、木を倒すのは罪悪感を感じるのに、草を踏むのはさほど罪悪感を感じないんだよな……。


 不思議。

 後ろをついてきている雷が滑った。


「大丈夫?」


「セーフ。……ちょっと前から思ってたけど、なんか留美リーダーっぽいな」


「ただ周囲を確認できるのが留美しかおらんからやろ。全然変わってくれていいで」

「無理」


 両手でバツを作って嫌そうな顔をしている。留美も嫌やねんけどなぁ。



 森の奥へ進む。街からずっと東に歩いてきているけど、もし二人が北や南の方角へ歩いて行っていたら。私では探し切ることができないだろう。

 嫌な光景がしきりに浮かぶ。


「あ」

「見つけた?」


「うん」


 岩の上で音を拾っていた留美が飛び降りる。


「ゴブリンと交戦中みたい」

「急ご」

「こっち」

「ちょっ、早い」


「お前が遅いねん」



 森の中でゴブリン二匹と戦っている。両親の二人がいた。意外とママが前衛に立って、後衛のパパが援護する形になっている。

 雷が走って行こうとしたのを見て、物理的に止めた。


「ぐほっ」

「雷待って」


 雷が襟を掴まれて不満げな声を上げる。


「なにすんねん」

「正面から行くより、背後に回った方が良い」


「……確かに」


 早足で進む。


『鑑定』

『ゴブリン』

『ゴブリン』



 ただのゴブリンか。良かった。戦闘してる時点でそんなによくないけど、エリートゴブリンやったら留美らがいても厳しいかったかも。


「もう行っていいよな」

「うん」


 背後らへんに回ったとたん、雷は飛び出していった。


 二匹のゴブリンは無傷。今はニヤニヤと笑いながら、ママにゆっくりと近づいて行っている。

 最初に会った個体のように、遊んでいるという印象を受けた。

 痛ぶる性質を持つ相手って、良いのか悪いのか。


 音で振り返ったゴブリンに、雷の剣が振り下ろされる。

 もっと早くに気づいてもいさそうな気もするが。ニタリと笑っていたゴブリンは背中に一撃を入れられ倒れこんだ。


「グギャッ!」


 仲間が斬られたゴブリンが驚いている。一瞬目を丸くしたと思ったら、深傷を負った仲間を無視して、ママかパパへ走っていく。

 母が敵を迎え撃つように鈍器を構えた。


 怪我をしているのか、恐怖からか、顔を歪ませている。



 私が『シャドウステップ』でゴブリンに追いつくと、びっくりしたように顔が向いた。その敵の目にナイフを突き刺す。グチュ。


 のけぞっていくゴブリンに追撃。

 首を切り落とすべくナイフを振るった。やはり切り落とせない。倒れたゴブリンの腕を踏みつけながら、首を刺して、骨を折る。

 慣れてはいないが、やり方は覚えた。


 私は血を被った顔で、背後を振り返る。



「ふぅ……。なんであのゴブ生きとんの」


 背中を切られたにもかかわらず、意外と浅かったのかもしれない。雷は血を流してフラフラしたゴブリンと向かい合っていた。

 もう出血で死にそうやのに、中々しぶといやっちゃな。

 ママが鈍器を握りしめてやってきた。


「留美、雷なんでここに……」


「それこっちのセリフやねんけど。とりあえず傷治しとき」


「魔力がなくて、もう使われへん」

「パパは?」

「あと一回や」


 結構ギリギリやったんやな……。


「雷! 一人で倒せるか!?」



 雷はゴブリンと斬り合っていた。

 とても泥臭い戦い方だが、攻撃は受けていない。前回よりも遥かにマシな戦い方に見える。


 素直にすごくない?


「大丈夫やけど手伝って!」

「わかった!」



 二人を置いて、敵に向かって走る。

 明らかな殺意を持った存在に気付いて。ゴブリンは雷の方へ向けていた視線を変更し、私へ視線と剣先を向けた。


 なんでこっち見んねん!

 足を途中で止めると、正面からやりあうのを嫌がった留美は、後ろに下がる。


 留美のビビっている行動を見たゴブリンは、武器や防具を見回して目を細めた。そこに後ろから雷の一撃が入る。


「『スラッシュ』!」

「あほ?」


「グ、ガ……ァ」


 バタッ。


「死んだ?」

「もう一回くらい刺しとけ」

「わかった。最初の一撃で殺せたと思ったんやけどな」


「同じく殺ったと思った」


 グチュッ。

 ゴブリンから流れ出る液体に顔を顰めて、雷が血を飛ばそうと剣を振るう。

 座り込んでいるママとパパを一瞥して、私は倒したゴブリンの方へ歩き出す。


 耳の鮮度大事っ。



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