第39話 ママとパパがいない


「留美、切れたぞ」


 井戸のある場所まで、雷が角材を持ってきた。

 受け取ったそれはずっしりと重く、同じような長さだ。


「こっちも大体できた。これどう?」


 雷は未完成の木刀を、聖剣を抜いた勇者のように振り上げて、目を輝かせていた。


「おー! 剣やん。スゲー!」


「でもちょっと刃のところも、持ち手の所も雑いから、もうちょい削る必要がありそう。自分でやる?」

「留美やって、俺がやると壊しそうで怖いわ」


「しゃーないなー。やったろ」


「頼むわ。んじゃ」

「じゃ」



 雷はまた丸太を切りに行った。

 留美も大体出来た雷の剣を放置して、自分の剣を作りにかかる。


 ぐぅ— ギュルルルー。


「お腹すいた。えへへ、今すごい音なったくない!?」


「お腹の中に何かいる……!?」


 切れた木を運んできたのか、雷が横に座っていた。

 独り言に反応されて、ドキリとしたのは秘密である。


「お腹の中からエイリアンがピギャー!」

「いやぁぁーー!」


「で。いつからおった?」

「五、六分前」


 まだ十分に剣の形になっていない木刀を置いて、角材をポーチにしまう。

 ポーチにゴブ肉があるけど、普通に食堂に行くべきやろうな。ママとパパはなにしてるやろ?



「いったん家、戻ろっか」

「うん」


 井戸水を飲んでから、全部ポーチに入れて歩き出す。



 広間。

「ママー、パパ—、ご飯行こーって。誰もおらんやん」


「ほんまや。部屋かな? 雷ちょっと見てきて」


「一緒に行こうや」

「群れる女子かよ」

「女なん留美やろ」


 二人で階段を上がっていく。


「遅い、ほら行け、ほら行け。お尻叩くぞ」

「ちょっ、来んなw」


 ドドドドッと階段を上がり切って、パパの部屋を開ける。


「パパ—」

「居らんな」


 ママの部屋。


「ママー……もいない」


「雷ちょっと静かにしてな」

「ん」



 屈んで目を瞑る。

『音聞き』


 —————ママとパパは?

 ————家の中? ————留美と雷以外いない。————ならどこに? 庭にも居らんし、森にいた? 感じもなかったしな。


 ぱちっと目を開ける。


「ママとパパ家には居らんみたい」


「二人で買い物行ったとか?」

「金欠の時になに買えんさ。てかお金留美持ってるし」


 ポーチからお金の袋を取り出す。じゃらっと音がしても、十数枚の銀貨といっぱいの銅貨があるだけだ。

 銅貨の数えぐ……。


「じゃぁ。どこに行ったと思う?」


「んー、ゴブリン退治とか? ローブも武器もないし」

「はぁ!? 俺達にはいかんって言ってたのに、自分たちだけで行くとか――」

「まだそうと決まったわけじゃないし、ギルド行ってみよう」

「おっ、行く行く」


 ついでにご飯も食べよう。

 階段へ向かっていき、雷を振り返る。


「雷、防具つけてき」


「あー、分かった。先に行くとかなしやで?」


「広間にいるから」


 留美も自分の部屋に行って、コップに入ったままの欠損ポーションをポーチに入れる。

 蓋などはしていないが大丈夫だろう。ポーチの中は時間止まるし。




 広間。

 雷は中心の防具はないが、戦える人である事はアピールできているという風貌だった。

 ギルドの中って服装自由やいうても、武器防具をつけてる人ばっかりやからなぁ。

 わざわざ防具をつけたのは、それに合わせるための装いである。


「そんじゃ、行きますか」

「まずはギルドに行ってみよ」




 ギルドへ向かう。

 三十分くらいは確実にあるかなあかんから、ギルドって結構遠いんよな。


「もし、ママとパパが森行ってたらどうする?」

「確定やったら探しにいく。魔法使いとクレリックとかバランス悪すぎやろ」


「そこまで悪くないと思うけど」

「それはゲームの話な。ママが前に出れるとは思えへんし、実際傷でもおってたら魔法使えると思う? 刺されたんめっちゃ痛かったやろ? 火力で一撃でやれるなら別やけど。複数個体やと部が悪そう」


 魔法のリキャストタイムにもよるよな。馬鹿みたいに連打できたり、同時に二つ三つ出せんのやったら、魔術師激強やねんけど。みてた限りではそんな事もなかったか。


 隣で雷が石を蹴っ飛ばした。



「パパの攻撃力と、相手の数で勝敗が決まる感じか」


「そうかな? 足止めと攻撃をうまい事使えば戦えると思うで」

「さっきは部が悪いとか言ってたくせに」

「言ったっけ?」


「言った言った。そういやパパって魔法、そんなに打てへんって言ってなかった?」

「十回は無理って感じやったな。魔力なんて感覚全然わからんし、なんとも言えん」


「確かに。魔力なぞ」


 留美は手をなんとなくかっこいい感じに上に向ける。

 見える範囲に人がいないからこそ出来ることだ。


「内なる力よ。我が呼びかけに答えよ」


「イヤダヨ!」


「ふはっ!」

「イヤダヨ!」

「あはははっ! 言ってんのお前やんけ、しばくぞw」




 ギルド。

 バンッと勢いよくドアを開けて、ギルド内を見回す。音に驚いた数人がこちらを見て、向いた視線に内心ちょっとビビる。

 後ろから弟に背中を押され、ビビってるなんてお首にも出さずに探し他人を見て回った。


 いない。


 私はクリスティーナさんの元へ小走りで行く。入口近くにいる彼なら見ているかもしれない。



「クリスティーナさん。こんにちは」


「あらいらっしゃい。今日は二人なのね」


 体つきは厳ついが、温和な笑顔を浮かべたクリスティーナさんがカウンターに乗り出して来る。


「あの。もう二人の仲間を見ませんでしたか?」


「……見てないわよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 ギルドにはきてないのか。

 私と別れていた雷が紙をカウンターに置いた。


「これ受けます。見てないって?」

「うん」

「ゴブリン退治一匹ね」


「え? おい! なに勝手に受けてんねん!」



 雷がへへと笑って走り出す。

 それをイラッとしながら追いかけだして、クリスティーナさんに振り返った。


「あ、行ってきます!」


「行ってらっしゃい」


 もう、どんだけゴブリンと戦いたいねんっ。人のこと言えんけど!

 クリスティーナさんは何かあったと悟りながらも、受け取った紙を見下ろして笑った。


「元気になってよかったわ〜」




 ゴブリンの森前、東門。


「あ、門番さん」


「ん? ああ、どうした? 昨日の傷は治ったみ――」

「黒と白のローブ着た二人組を見ませんでしたか?」


 きょとんと目を丸めた門番さんが顎をさする。


「えー、あー。どうだったかなー。白と黒のローブきた二人組……ああっ、見た見た。黒髪黒目で、黒い方が男で、白い方が女の二人組だろ?」

「たぶんそれです」


「止めようとしたんだがなぁ。相当焦ってたみたいで、走って森に行っちまったよ」

「ありがとうございます」



 後ろで雷がそわそわしていた。

 留美もそわそわしながら、森を見る。そんな私の様子を門番さんは不思議そうな顔で見た。

 確かに一人でゴブリンの森へは入るけど、仲間がいるとまた違う緊張感というものがあるのだ。何より先に入った二人が生きているか、という問題。


「あの二人が仲間か?」

「そうです、ありがとうございます、さよならっ」



「気をつけろよー」


 真面目でお人好しの門番さんに手を振って、森の中に入っていく。



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