第38話 木こり見習いには転職しません



 家の庭。の壁の外。

 留美はナイフとポーチを、雷は剣を持ってきた。木の隙間を力ずくで進んでいって、剣を振り回せるくらい広い場所にたどり着く。


「どれ切り倒す?」

「木の声聞くんや」


「なんも聞こえへん」

「留美も聞こえへん」


「…………」


「これで良いんちゃう?」



 切り出すことを考えながら、太過ぎない木に触れる。なんだか土の香りがすごい。

 木刀を削る工程としては、まず原木を切る。枝を切る。適当な長さの角材にする。まぁ上手くいかんやろうけど。それからナイフで削る。以上! でいいよな?


 木を切る知識なんて皆無に等しく。浅い考えで、とりあえずやってみよう状態である。



「じゃ、十分交代な」


「時計」

「あー。じゃあ疲れたら交代な」


 アバウトー。雷が頑張ってくれるってことかな。


「俺からやるわ。留美はその辺にいて」


「疲れたら叫んで。上行って薬草とかないか探してくるわ」


「おけ。戻ってきて疲れたーはなしな」

「はははっ。頑張れ木こり!」


「木こり見習い君も頑張りたまえ」

「誰が言うとんねん。お前も木こり見習いじゃ」


「ははっ」



 笑った雷が木を切っている間に、留美は林の中を探索する。


 雑草と薬草と毒草ってほぼ同じやし見分けつかんのよな〜。『鑑定』『鑑定』

 ……なにこれ。変なのあった。


『鑑定』


『解毒草』

 食べると毒草の毒を打ち消せる。

 すり潰して水と混ぜると、薬になるっぽい。



 おお。解毒草ゲット。

 真っ白やん。これは見つけやすいな。

 見つけやすいと言っても、今まで目に入らなかったということは、それだけ数が少ないということ。


 草が五百個あったら、その中の二十個くらいが薬草で、二十個くらいが毒草って感じか。もっと薬草だけ分かるようなスキルないんかなー。

 一々鑑定するん面倒。あ。でも、鑑定にもレベルあったりして。


 この世界でレベルって見た事ないなー。実は知らんうちにレベルアップしてたりして。

 明日くらいにでも、クリスティーナさんに聞いてみよ。


「留美ー! 交代ー!」


「分かったー!」



 結構 長く切ってたな。体力あるっていいねー。

 薬草七本、火炎花四本取れた。



「全然削れてないやん」


「はぁはぁ。そんなもんやって。はぁー。しんどい、疲れたー」


 剣を地面に突き立てて、杖代わりにしている。手でパタパタと仰いでいる姿はすでにへばっている様だった。



「剣、貸して」

「嫌やし。自分のでやれよ」


「留美の武器ナイフやねんけど」

「知ってるー」


「はぁ」


 これで切り倒せるとは思えへんけど……、やれるだけやりますか。


「ふっ!」



 規則的に打ち付けられるナイフの音が響く。



 留美は玉のように浮かんだ汗を袖で拭った。


「あー。しんどいもう無理。交代」

「留美すごいな。俺より切ってるやん」


「まだ半分もいってへんどな。雷のやり方があかんのちゃう?」


 雷がサボってたんか、留美がなんか知らんけどいい感じに切れてたんか。

 どっちにしろ後は雷に頑張ってもらいたいな。もう一回回ってくる気がするけど……。


「やり方かー」


「木を敵に見立てて、『二段突き』とか、『スラッシュ』とかやってみたら?」



 留美の投げやりな言葉に考えるそぶりを見せる。


 斬撃の技、留美も欲しい。

 ゴブリンでも一撃で仕留められへん奴いたし。今後のことを考えると必須やろ。……あぁ、考えがあっちこっち行ってまとまらへん。

 攻撃系スキルは後で。今は奇襲受けへんことが最優先や。



「スキル使うと疲れんねんな」

「どうせ、剣振ってたら疲れるやろ。慣れろ慣れろ」


 もしかして二段突きとかって魔力使うんかな?

 それともただ体力の問題? 留美も無意識に魔力使ってたりするんかな?


 剣を持って木の前に立った雷を見ながら、別の木にもたれ掛かる。




 数分後。


「おらっ!」


 バキバキ! ドシーン!!

 よく分からない鳥が音に驚いて飛び立っていってもいいのに、生き物が逃げていく音はなかった。

 地響きに留美は拍手する。


「すげー! 倒れた!」

「よっしゃー!」



 雷が『二段突き』らしきもののスキルを使い始めると、見る見る木が削れていったのだ。

 やっぱり、雷の方が斬撃重いらしい。ゲーム風に言ったら攻撃力は高いな、って事か。留美も頑張らないと。



「次は?」


「次……えっと。取りあえず、葉っぱとか枝落とそか」


「これって結構、異世界補正かかってたりすんのかな!?」


「さぁ……。どうやろな? 最初の敵でヒーヒー言ってるし。これくらいが普通なんちゃう?」


 雷がしょぼんとした。


「そっかー。チート欲しかったなー」


「留美も」



 私たちは葉っぱと枝を切り落としていき、一本の丸太が出来上がった。


 苦労した。それはもう疲れた。

 太い枝は雷が剣で切り落とし、細い部分は留美のナイフで切り落としていく。細いって言っても、木を切るって大変。五センチの枝切るのに何分かかんねんッて、文句言いながらやり切った。

 雷のスキルがなかったら、もう飽きて辞めてたね。



 切った枝は何かと使い道がある。雨に当たらないよう、丸太が置いてあった部屋に持って行くつもり。地面は石でできていたから、多少の汚れがついていても構わないだろう。


 木の皮を雑に剥ぎ取り、中の白い幹が見える状態にまで出来上がった。

 樹脂らしき液体がベトベトする。さっきまで生きてたもんな……。ごめんな遊ぶために殺してもうて。


 留美は次の工程を思い浮かべる。



「さて、コレ、剣の長さくらいに切ろっか」

「まだ切んのー!」

「留美も飽きたー」

「留美は飽きんなよ! 言い出しっぺやろ!」


 大体で長さを測っている雷が、木に補助線を入れていく。

 歪んでるーとか口出ししたら嫌がるだろうなと考えて、反対側から補助線を入れる。


「俺切っとくから、留美は枝な。家の部屋に運んどいて」


「結構重いねんけどー」

「俺もこれ切るねんから、しんどいのは同じやし」

「まぁ留美が斬るより、雷がやる方が効率よさそうやし……任せた」

「ん」



 木の枝の束を引きずりながら家へ向かう。


 あー。重い。足場が悪い枝が引っかかるー! もー!

 あと何往復しなあかんのやろ……。ポーチに入れれたら……って。ポーチに入れればいいんやんっ。

 疲労が溜まっていて頭が回っていなかった。


 枝をポーチに入れようと試みて。……当然入る。


「あははっ。よっしゃ、これで楽できる!」



 ノロノロとやってきた道のりを、タタタタッと軽やかな足取りで走っていく。


 トン、トンと太い木が切られていっている。

 黙々と作業している雷を見習って、留美も他の枝を黙々とポーチにしまっていく。

 今更だが、入れようとするとその大きさに合わせてポーチの口が広がるのは、どういう仕掛けなんだろうと首を傾げる。


 これが異世界クオリティーか。




 家に入ると、石でできた部屋に枝をすべて置く。そしてまた雷の所に戻る。

 やる事がなくて、地面に落ちている木の皮を拾いだす。


「あれ、早いな」


「ん? うん。ポーチに入ったから全然楽してる」


「うわっ、せっこ!」

「頑張ってー」


 ひらりと手を振って一回家に戻っていく。

 トイレに行ったり水飲んだり休憩してから、まだ音の聞こえる上へ。



「ほっほ。調子はどうかね?」


 生えていない髭に触れる仕草をする。

 雷は汗だくで、抜き身の剣を肩に乗せた。


「普通や普通」


 弟の目の前には四角い木材が出来上がっていた。丸の状態から長方形に切れてる。ちょっと歪んでるけど、どうせまだ削るんやし気にしなくてもいいだろう。



「留美も手伝おっか?」


「いや、出来たこれ剣の形に切っといて」

「それもしんどそう」


「言い出しっぺ頑張れ」

「おっけー。言い出しっぺがんばる。……もうちょい薄くして」


 雷のジト目にニコニコ笑顔で返す。


 さっきオッケーって言ったけど、剣の形に切っといてとか、かなり難しいよな。

 雷の剣を見ながらの作業かねぇ。そんな絶妙な調整はできるかはやってみな分からんけど。



「おし切れた」


「おつー」

「それ俺のやからな。留美のはもうちょい短く切る。長かったら後で整えればいいし短いよりはいいやろ」


 手を仰向けで出されたから、私はナイフを雷の手に乗せる。

 でもよく考えたら、木刀同士でやり合う方がかっこいい気がしないか?


「留美の武器。雷みたいな剣作るか、そのナイフみたいなん作るかどうする?」

「ん? あー。どっちでもいいよ。切り出す作業は一緒やし」


「じゃぁどっちもで。取りあえず剣の長さで切って」

「はぁ? 切るの俺やぞ」

「よろしくー」


 帰ってきたナイフで早速削りにかかってみるも、即行迷走した。



「ついでやし、ママとパパの武器も作ろ」


「ママはともかく、パパは杖やしいらんやろ」


「いやいや、一人だけ仲間外れとか可哀想やん」

「嘘つけ! 俺の仕事量増やしたいだけやろ!」


 別にそう言うわけではなかったけど、そう言うことにしておこう。

 私はわざとらしくふざけながら笑う。


「あ、わかったぁ?」


「……っしゃー! やったるわい! その代わり細かい作業は任せたからな!」


「失敗したらごめんな」

「失敗すんなよ!? 切るの大変やねんから!」

「失敗したくてするんじゃないで。失敗してしまうねん」


 大変そうなのは見ててわかる。

 留美も木を引き締めて取りかからんとな。でも初めてやから、失敗しても許してや。


「確率的に……ででん! 失敗率七十ぱーせんと!」


「はいはい。成功率三十パーセントもあるやん。いけるいける、留美が成功すればいいや。頑張ってー」


「雷もな〜。ところでちょっと剣貸して」


「はい」



 ポーチから筆箱を取り出して、剣の長さを測っては下書きしていく。これは剣をよくみる作業で、きっと切り始めたら役に立たなくなる。

 それでもじっくりと観察して、太さなんかも書いていく。


 上手くできんやろうけど、できるだけ上手く作ろうとする努力はすべきや。



 さて、剣の形。ナイフを持って削っていき始める。


 適当に刃っぽい所を作って行って、握る所やろ、なんか四角い所やろ。

 んー。太いな。もう一回り削って。


 ……形がちょっと歪やな。まっすぐな場所………壁でいいか。壁に合わせながら切って行く。

 真っ直ぐにはなったな。

 でもこれからが間違うと怖いところやし緊張するわぁー。


 …………刃の部分をちょっと切れ目いれてっと、先ちょっと尖らせて、それに向かって手元の方まで削って行く。


 こんなもんか?


 歪〜。


 持ち手のところもぼこぼこしとる。

 持ちにく。刃のところ太いよな? でもあんま細く削ると、パッキン行ったら嫌やし……。


 あー、むっず!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る