第45話 人間に追いかけられる恐怖よ!



 普通に歩いていると、違和感に気が付く。


 ……………………ん。つけられてる? 自意識過剰?

 真後ろ近く追ってきてるわけじゃないんやけど、ちょっと遠くから探られてる感じ。こう言うのって怖いな……。スキルなかったら絶対気づかんかったやつ。


 うぇぇん……カモられる……。何も持ってないよ留美……。



 私はポーチを探るふりをして止まる。

 すると相手も止まった。


 首を捻りながら動き出すと、相手も動き出す。


 怖い、こわい、コワイ、怖い、怖い怖い! 怖い!! 留美やん、確実に狙ってんの留美やん!



 ドク ドク ドク ドク ドク。


 精密に場所を把握するには、相手が歩いている時に、地面に耳を付けねばならない。しかしそんな事をすれば、私が気付いている事に気づかれる。私が止まった時点で相手も止まるから、そもそも耳をつける隙もない。


 人が多い場所に行くべきなのだろうが、どれが何処かなんて分からない。


 同じ音がずっとついてくる。

 怖い怖い怖い。


 見えないお化けがついてきてる、も怖いけど。悪意ある人間がついてきてるのも怖い!


 誰か助けて。

 うんん、知ってる、誰も助けてはくれないってな。


 うぅ、怖いよ……。



 ブチッ。

 いつまでついてくんねん。

 用があるなら来いや、指の一本でも食いちぎったるわ。


 恐怖が怒りの方へ流れていく。



 私は『シャドウステップ』を使いながら、東門へ向かった。


 振り切れるやろ。と思いきや、きっちりついて来ているようだ。

 しかも視界には全く入って来ず、なんとなくいるなーとしか分からない。わかる留美すごくない?



「はぁ。居らん」


 仕事だから助けてくれそうな人。今日は門番さん今休憩中かな?

 いや、迷惑すぎる。


 屈んで休憩する。

 来ない。


 何かを仕掛けてくるわけじゃないのか。人がいるから来ないだけなのか。



 ゆっくり歩きながらギルドへ向かった。

 もう冷や汗が止まらない。出来るだけ人がいる道を通って、ひとりにならないように。



 ギルドに入る。

 なにしてよう……。ウロウロしてるのも何なので、張り紙だらけの掲示板ボードを眺める。

 依頼だけでなく、最近のニュースなんかも貼られているみたいだ。



 うわぁぁ……入ってきた……。


 私が入った後、少ししてから入って来た人物。多分あの足音。


 それはローブを着た男だった。

 ローブを脱いで椅子に座る後ろ姿を、じーっと見つめる。


 見た目は……ワイルド、ストイック?

 広い肩幅に分厚い肉体。いやクリスティーナさんと比べると、そこまででもないかな。比べる相手が悪いわ。

 あんなガッチリしてるのに、スキル使いながら走った留美についてくる身軽さヤバない。

 確実に移動系のスキル持ってるわ。


 なんであんな強そうな人が追いかけてくんの、怖すぎる。

 これだけガン見してて目が合わない。人違い? それとも見られてるわぁって思いながら知らないフリ?



「クリスティーナさん」


「今日は一人?」


「いえ。今日は戦いに来たんじゃなくて……」


 恐怖で潤んだ瞳に涙が溜まっている。そのことに気づいたクリスティーナさんが少し屈んでくれた。


「どうしたの?」


「付けられてる場合って、どうしたらいいですか」


「つけられてる?」


 うおっ、声低くなった。

 私は真剣に聞いてくれる彼に頼ることにする。


「たぶん、私の後に入って来た人だと思うんですけど……」

「分かったわ。留美ちゃんが出て行って、追うようだったら、私が止めてあげる。まっすぐ家に帰りなさい」


 うおー。心強い。

 これで自意識過剰だったら、恥ずかしいなー。


「お願いします」


「ええ」


 ウィンクしたクリスティーナさんに笑かけて、私はギルドを後にする。



 少し離れると、ギルドの方から悲鳴が聞こえた気がした。

 いや、気のせいだろう。うんうん。てか、やっぱ追ってきてたんや……。


 ダッと走って人気がない場所へ。

 一応、地面に耳をつけた。


 自動販売機の下にお金ないかなーって見てる人みたいになってる……。これ、誰かに見られたら、変な人確定やん。



 —————音。—————吐息。——まだいる。


 ゾクッ。


 今度こそ勘違いであれと願うも、捕捉した場所からの音がずっとついてくる。

 確実にまだいる……。


 人がいる場所に行った方が……。

 クリスティーナさんの言った通り、家に帰るべきか? 家族を巻き込むのは絶対なし。

 家族にまで被害が出たら、留美許せへん。害意を与えてきた人間に、周囲の被害考えんと無謀でも突撃してしまいそうや。

 頑張って、ぶん殴って、ぶん殴ってぶん殴るねん。



 今の留美に確認できるのは、さっきの人と。後二人。

 何かした? 行ったらあかん場所とか。見たらあかんもん見たとか。……ああああ、どうしよどうしよ。



 ほら、可能性を考えてみよう。


 ただのストーカー! 一気に三人とかありえへん。


 ゴロツキ? いくら弱そうでも、明らかに武器持ってる人を襲うより、持ってない人を襲うやろ。

 ていうか何回も止まってんのやし、さっさとカモを絞め殺しにきそう。

 家まで特定した上で骨の髄まで搾り尽くすぜ、ぐへへっな悪党やったらどうしよう。絶対巻かねば。


 殺人鬼? 留美もう死んでそう。

 特殊性癖の無差別なら有り得るけど。……違いますように。お願いします。いやです。


 実はアルさんが偉い人? 偉い人があんな朝から、お店開いてるとかない。そういえば後から入ってきた三人が護衛やとしたら……。

 いや人ちゃうかったし。そもそもそうやったとして追いかけられる理由はない。



 今までの感じ、逃げても振り切れそうもなけど……かと言って、家にも帰れへん。お風呂入りたいのに。

 それならいっそ本人たちにい聞いてみようか。


 アホ? え、待って。死んだらどうしよ……。

 そん時はそん時だよ、なんて言えん。あぁ、怖いなー。怖い怖い怖い。鳥肌がー……。



 この無意味な鬼ごっこで時間を稼ぐべき?

 それもいいかも。

 いやどうなんそれ。

 帰ってくれへんかな。

 家族に心配かけてしまう。

 気味が悪い。怖い。見るな、見るな、見るなよ! こんなことなら気づかなければよかった。


 知らなければよかった。


 …………ムカつく。怖いなら、壊せばいい。壊せ、壊せ。


 おもむろに振り返った留美は、その小さな口を開く。


「私に何か用か? いい加減、あとを追ってくるのを止めてくれません?」



 誰も答えない。


 虫の音も、風の音も、何の音もしない。


 いきなりの無音、逆に不気味だった。私が緊張しているだけなのかもしれない。自分の心臓の音がやけに大きく響いている。

 鳥肌が立ってゾワゾワする。


 そんな自分の反応にも怒りが湧いてきて、その怒りを不思議に思っている自分がいた。


 あわわわっ。

 そんな演出いらないから、早く。本当に。いや実は自意識過剰? まさか。………………え、違うよな?



「はぁ……」


 いま何か言ったら、絶対に声が震える。

 恥ずかしい恥ずかしい。ただの自意識過剰。違う確実についてきてる。来ないなら逃げ続けるしかない。


 その時。


 うわっ!?


 いきなり青い髪の男が現れた。……現れたというより、上から降ってきた。

 え、大丈夫?


 その類の驚きは、スキル教官のジアさんで一度味わっているので、声には出さない。

 目は見開いていたかもしれないが仕方ないと思う……。生理現象だ。


 スルーしていいかな? ……あかんよな。



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