第12話 ローグのスキル教官


 今回はお詫びだから、スキルをタダで二つ覚えられるまで掛け合ってくれたそうだ。


 なんと言うか、嬉しいけど申し訳ないような。ラッキーって喜んどけばいいのか。それとも、ちゃんと保証してくれたし、生死関わる情報を伝え忘れてたこと許したるかって思えばいいのか……。


 まぁなんにせよ結果オーライってことで。

 昨日、運悪くコップでお金を減らしてしまった、留美たちにとっては凄くありがたい。


 問題なのが、スキルがどの程度のものなのかってこと。

 チートはないなら、スキルはなんなのか。めちゃくちゃ気になる。



 内心ドキドキしながら、早くつかないかなとソワソワする。クリスティーナさんが止まった。


「留美ちゃんはここよ」


「ありがとうございます」



 広い家、いやお店か? 丈夫そうな壁が並んでいるから、ここかなーっとは思ってたけど、ここらしい。


「じゃ、頑張って♪」


「はい、ありがとうございます」


 クリスティーナさんが手を振って去って行く。私も小さく振り返しておいた。


 …………ここからは一人か。本当にここであってる? どこかインターホン……いや、ないな。勝手に入っていいのかな?

 ちょっと躊躇するように辺りをウロウロする。



 私は「行くぞ」と気合を入れてから扉へ手を伸ばす。


 そーっと中に入ると、要件は分かってるという風に、座っていたお姉さんが立ち上がった。


 メイド服を着ていて、硬そうなガントレットとブーツが、明かりに当たって光っている。

 少し冷たい表情をしているが、黒髪と明るいオレンジ色の目を持つ美人さんだ。


「留美様ですね」


「は、はい」


 わぁ、絶対戦闘できる人だ。戦闘メイドさんだ。かわいい。

 …………あれ、留美の名前。いつ情報が伝達されたんやろ?



 お姉さんに案内されるままについていく道は、シンプルで飾り気がない。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 部屋に入ると、誰もいなかった。

 ただの部屋。少し薄暗いが、どことなく生活感がある気がする。火のついていない暖炉に、観葉植物も飾ってある。

 そして違和感に気づいた。


 窓がない。

 暗いのは、いくつもある明かりが、一つしかついていないせいだと思ったけれど。部屋に一つはあるだろう窓がないのだ。


 まぁ、人の好みは、人それぞれだし。


 まさか吸血鬼……。ファンタジやし、ちょっと期待しちゃう。まぁ……、現実的に考えたら、太陽アレルギー?


「でだ」


 現実逃避をやめて、現状の把握にかかる。

 周囲を見渡しても誰もいない。部屋、ドアはひとつ。人が隠れてる……いやいや隠れる意味ないし。


 待ってればいいんかな?



 まさか、忘れられてたり……。急に不安になったその直後。


「お前がローグ志望か?」


 ゾクッ

 息が止まり、全身の毛穴が開いたような感覚に襲われた。


 びっくりするアトラクションとか、大きな音とか、暗い場所とか、狭い場所とか、私はホラー系全般がダメなんだ!

 止まった呼吸を、意識して再開させる。


 何とか落ち着かせようとしながら、声のした方へ視線を向けた。


 文句言いたい。



 灰色の髪と瞳を持つ男性が、部屋に現れていた。


 大事な事やから二回言っておこうか。

 現れたのだ。



 私はちゃんと部屋を見渡した。

 薄暗いとはいえ、その時には人の姿はなかったし、ドアも開いていない。これが、ファンタジーか。


 大丈夫。いきなりグサッじゃないから慌てないで。相手は人間。教官や。敵じゃない。落ち着いて対処していけばいい。知らない人を怖がるな。


 気を落ち着かせた私は、おどおどと話しかける。



「あ、あの」


 教官は町を歩いている戦わない人と同じような服装で、最低限の武器をのみを身につけている。


「で? 何を習いたい?」

「あ、はい。えっと」


 そうや、留美はスキルを習いに来たんやった。

 何を習いたいって、どんなスキルがあるのかも知らんし、どう言えばいいんやろ。


「決まってないのか?」


「えーっと。はい。何も聞いてないので……」


男は少し目を細め、私を見下ろした。


「どういうものが良い? ……攻撃か? 防御か? 回避か? 移動か? 妨害か?」


 あ。意外と親切なんや。

 クリスティーナさんのおかげやったりしてな。顔も合わせてないし、クリスティーナさんのおかげなわけはないか。


 顔怖い人って、優しい人多いよな。

 ヤンキーとか近づきたくはないけど、話しかけると結構優しいし。でもあれは向こうにいた時の話やから、こっちではそう思わん方がいい。


 平気でお金奪うような奴もおるし。あぁ、向こうでもおったわ一緒やん。


 でもなぁ、昨日見た限りじゃ、治安最悪っぽかったし。人気のない道とか入った日には、襲われること間違いなし。

 ……じゃなくて、どういうものがいいかって聞かれてんのや。



 教官の男は、私が黙っているのをじっと見ながら待っていてくれている。


 えっと、攻撃……いや、サポート系か。罠とかが現実的かな。

 防御は今の時点ではいらん。相手倒してなんぼやろ。やから回避もちゃう。


 移動か妨害。攻撃……。あとは先手を取れるような、周りをサーチできたらいいんやけど。これかな。留美の役目。

 奇襲なんか受けたら確実に死ぬ。先手を取るのは最重要事項や。


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