第13話 スキルってすごいっ! チートでは?


「あの」


「思いついたか? どういう系統だ?」


 いつの間にか、考え込んでいた私を置いて、彼は椅子に座っていた。

 私は緊張故に、指を過剰に触りながら男を真っ直ぐと見つめる。


「周りを知りたい。奇襲を受けないために、周りを探知出来るようなスキルはありますか?」


 男は考えるまでもなく指を立てていく。


「一つは音。二つ目は空間。三つめは勘。ローグでスキルを望むなら、こんなところだろ」


 音か、空間か、勘……?

 勘はないな。余裕ができた時で。


 音か空間。

 空間ってなに? 地図みたいにできるってこと? レーダー的な? でもそれができたとして、どう出来るようになるん? 留美の脳で処理できるん?


 音は? よく聞こえる。だから何? 敵やって判断できるやろうか、相手が奇襲する気満々で潜んでたら、意味ないんちゃう。

 え、どれがいいの? どういう感じになるの? やってみな分からんかもしれんけど、どうすればいい? どれが正解? どれがいい?


 他のスキルをもっと聞いた方がええんちゃう?


 音と空間をとるっていう手もあるけど、二つともサーチ系にするのも変な話やし。

 やっぱ戦闘にも役に立つようなスキルが、一個は欲しい。今のところ前衛になるつもりやし。


「オススメはどれですか?」


「全部だ」


 それおすすめって言わないから。


 私は悩ましげに笑った。

 未知の空間を覚えるよりも、音で警戒する方が。……他のスキル……うんん、サーチは必要や。奇襲は怖い、突発的な事象に留美は絶対に対処できん。


 敵もスキル使ってきたらどうしよう!? ステルス系の敵がおったら無理詰む死ぬ!

 とりあえずゴブリンを相手にするんやから、音で警戒するので大丈夫……かな?


「今回は一つ目の音でお願いします」


「もう一つは?」



 戦闘に役立つもの。

 敵を倒すための攻撃系か、敵を撹乱かくらんさせるための移動系か。


 雷とパパがガッツリ攻撃覚えてくるやろうし、留美までガッツリ攻撃に行かんでいいか? 今のところ、サポートメインで行くつもりなんやから。

 どっちを選んでも良さそう……なら、偵察に役に立ちそうな移動系の方が優先度高いかも。

 囮になるにしても、移動系があった方がいい。


「移動系で何か良いものありますか?」


「色々あるが、まぁ、適性があれば確実に覚えれる、『シャドウステップ』ってのでいいんじゃないか?」


 面倒だし適当でいいか。みたいに言わないで。

 初めてくるお客さんには優しくしてください! とは言えないなぁ。……初心者向けの移動スキルやし、使いやすそう? ってことで納得しとこう。



「じゃあそれで。よろしくお願いします」


「賢明な判断だ」


 めっちゃ上から目線やん。

 足を組んでいる男を見て、私は微笑を浮かべる。


 うんん、留美がこの人より上のものってない。上からが当然で。それが正しい。

 ……賢明とか使う人、初めて見たわ。おもろ。



「攻撃系を選ぶと思ったんだが。まぁいい。俺たちは隙をついて相手を殺しにかかるか、仲間をサポートするのが役目だ。お前の場合、出来るだけ正面衝突は避けろよ」


 おお。なんか真面目に言ってくれてる。あー。でも、不安になって来た。留美たちは殺し合いするんか……。

 ところで、どうやって覚えるんやろ?


 キラキラ〜ってスキルツリーが現れたりするんかな!?

 まさか、地獄の特訓タイムが待ってたり………。二個のスキルなんて、一日で覚えれるようなもんなんやろか。


 そう思っていると、頭に手を置かれる。


「……えっと。なにしてるんですか?」


 さっきまで座ってたよな。いつの間にこんな近くに。……み、見せつけるねぇ。っていう感想を抱いとけばいいんやろうか。

 いま何かしたん? え、こわっ。


 手ェ叩いていい?



「今ので、お前は『音聞き』と『シャドウステップ』を覚えた。あとは練習して、身に慣れさせる」


 覚えた! …………ふぇ? 覚えたん?

 スキルツリーみたいなんも、魔法的なやつなんも感じんかった。えぇー!


「大丈夫か?」


「あぁはい。えっと、どうやって慣れさせるんですか?」


 覚えたぞって感覚が全くないんやけど。使い方の説明書ぷりーず。


「覚えても使えるとは限らない。まぁ適性はあった。あとは使えるかどうかだ」


 覚えたけど、使えるかどうかはわからないってどういうことよ。

 職業の適性はあったけど、能力値不足で使用不可。みないな? ひぃ……。知らんけど、使えんかったらどうしようっ。せっかくの無料を無駄にしてしまったら――


「取りあえず地面に耳を付けろ」


「ん、はい」



 言われた通りに、地面に耳を付ける。


 この後は?

 そう思って見上げると、灰色の男はため息をついた。


「移動するぞ」



「え? あの……」

「ついて来い」


 今の何やったん?



 *


 建物から出て、広い場所にやって来た。


 庭広すぎ。少し向こうは木々が生い茂っている。その見た目に私は物申したい。

 嘘や! こんな場所外から見てもなかったし! と。


 まぁいい。一旦置いておこう。

 実際にやってみろって事? そう言ってたしな。まさか、ゴブリンおらんよな?



「あの。あれ? いない。帰っちゃったとか?」


 キョロキョロ。


「そんなわけあるか。歩いて移動している俺を『音聞き』で探してみろ」

「は、はい!」


 どこからか突然聞こえて来た声に驚く。そういうスキルもあるのか。

 でもどうやって探すん?



『――耳を地面につけろ』


 ああ。そう言ってたな。早速、耳を地面に付ける。


 うん…………?

 …………………………………………。

 ………………………………………………………………ん?


 なに?

 よくわからんねんけど。



『音聞き』音を拾うスキルってのは分かる。使うって言っても、どっかにスイッチがあるわけでもないからなぁ。

 体のどっかにスイッチ出てたりして……ないない。


 スキル欄どっか見えてへん? ステータスオープンっ。スキルオープンっ。

 ポチッと押すだけで簡単スキル操作〜。


「スキル。ステータス。なんか出てこいっ」


 アホなこと考えとらんで、集中しよ。



 ………風が木々を、草を揺らす。遠くから声が聞こえる。音。音。音。足音。……見つけた。これ? これであってるのかな?

 行ってから考える。



 私は、聞こえた方に走りだす。そして――


「見つけました!」


「ほぉ、早いな」


 教官は感心したように笑った。私は嬉しそうにぴょこぴょこする。


「なんかっ、音がいっぱい入って来て、いろんなものを感じたんですっ」


「ふーん、いいんじゃないか」


 その場の草を踏みつけ、ザクザクと道を歩く。

 こんなに足音が鳴っていたら、音聞きを覚えていなくてもわかりそうだ。もっと小さい音も拾いたい。もっと遠くまで。もっともっともっともっと。


 うずうずしているのが伝わったのか、教官の足音が止まった。


「慣れるためにも、あと三回見つけてみろ」


「ふふっ♪ 頑張ります」


 サクサクと草を踏みつける音が聞こえる。

 教官の男が木の後ろを通ると、彼の踏みつけていた草の音が消えた。私はまさかと木の後ろに慌てて走っていくと、当然のように教官の姿はない。


「あ。え? うそぉ、消えた」



 ブワッと鳥肌が立ち、高揚感に包まれる。


 すごいっ、面白いっ。留美も。あ、消えたって、誰かに言わせたい!

 ファンタジーってすごいっ。


「あはははははっ! やばぁ♪」


 あかん、あかん。冷静になるんや留美。

 こんな事が出来るのに、死んでる人がいっぱいいるんやで。気を引き締めないと。

 気を引き締めすぎて、不安の方が勝利してしまいそう。そうなるなら、ワクワクの方がいいやん!


 でも今は集中――。



「見つけました!」

「おう」


 残り二回。


「見つけました!」

「ラスト一回」


 残り一回。



「…………………………………うぅん……………。もう夜です。ギブアップしたいです……」


 返事は返ってこない。


 とぼとぼと歩きつつ、苛立ちのままに枝を折る。


 くっそぉ。ラスト一回が見つけられへん。どこや。集中切れたとか? もっともっと集中集中。


 身軽な足音すら聞こえへんってことは、止まってるんやろ。止まってる相手を音で見つけるには……うにゅー、とにかく探せ。


 止まってる相手のなる音ってなんや?

 人の声。風の音。音。音なぁ。足音。自分の息遣い。相手も呼吸をしてる。音。音。音。呼吸音。心臓。心臓! ——見つけた。


 私は走る。


「見つけました! やったやった!」


「……おう。遅かったな」



 教官は太い木の上で座りながら、本を読んでいた。木の幹にもたれ掛かるのをやめ、パタンと書物を閉じる。

 あれやったら、髪をめくる音も聞こえてたかもしれん。


 めっちゃ時間かかってもうたー!


「すみません。ちょっと時間かかりすぎました」


「いや、合格だ。次は『シャドウステップ』な」



「えー。お腹すきました」


 われ、休憩もとむ。



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