第14話 スキル『シャドウステップ』かっこいーってなるやつやん!


「えー。お腹すきました」


「俺がつきっきりで付き合ってやってるのに、文句か?」

「何でもないです。よろしくお願いします!」


 文句ないです。

 ふと気がつく。なんでこの人と馴れ馴れしく話してるんや? と。この人も気にしていなさそうだから、今更言葉遣いを変える気はないけど、不思議と違和感を覚える。


 私たちは森から、草原の方へ。



「シャドウステップは、まぁ移動するだけだ」


「どうやって移動するんですか」


「何もかもをすり抜ける感じだ。無理な態勢とか、足場がないと出来ないから、注意しろよ」


 足場がなくなる状態っていったい……。


「はぁ。すり抜ける……」


 気の抜けた返事を聞いても、教官は表情を変えない。

 こんな夜遅くまで付き合ってくれるなんて、優しい人には違いないんだろうけど。


「兎に角やってみろ」


「はい……」



 何もかもをすり抜ける……ぐぬぬぬぬっ。

 ステップって言うんだから、歩く感じ? らっらら〜。……これはスキップや。


 止まって頭を抱える。



「見本はいるか?」

「いりません」


 最初から見本見せてよ! って文句を言えたらどんなにいいか。こうなったらもう意地や。自分でやる。やってみせますとも。

 でもどうすれば……。


 座って本を読み始めていた教官に視線を送る。


「質問いいですか?」


 言ってみろとばかりに視線が向く。


「シャドウステップをしてる時は走ってる感覚とかありますか?」



「あー。無いな」


「なるほどっおぉ! 出来ました! ぁははっ!」


 スキルスロットに入れてるものをキーで、ポチッと押す感覚。

 どんな感覚だよ。と言われそうだけど、そんな感じ! わーい! やった! 出来た!

 もう一回っ!


「ふはははっ!」


 出来た、出来た!

 走って移動する空間を切り取って、そこに足がつくんだと思えばいい。


 ようは受け入れたらいいんだ。一度鮮明に思い浮かべられたら、こうなんだと、なんの問題もなくできる。

 あとは考える余地すらなく、感覚で使えるように身体で覚えることが重要。



「ハハッ凄いな。この短時間で使えるようになったか。才能あるな、お前」



 教官が今日一番の笑顔で手を叩く。

 才能ねぇ。普通より、がつくんやろどうせ。嫌味なことなんてすぐに頭から消えていって、私はニコニコしながら教官に走っていく。


「死なないように気をつけますね」


「先に言うなよ。まぁ、せいぜい生き延びろ。次来る時も俺を呼べ、他の教官よりは教えれる量が多いからな」



 教えれる量なんてあるんや。

 この人がどんな人かまだわからんけど、今のところは嫌いじゃない。


「あ。また消えたし。……あ。あの人の名前聞いてない。あと、ここどこ?」



 まぁいっか。


 シャドウステップの練習しなきゃ。大事なところでミスでもしたら、シャレにならんからなぁ。



 それから一時間くらいだろうか。留美は一人でずっと練習していた。

 どうせもう真っ暗だ。一時間経ったところで風景は変わりはしない。汗の伝った首に触れ、少し冷えた空気を吸い込んだ。


「ふぅ。水が欲しい」


「どうぞ」

「――っび、びっくりした」


 いつの間にか、メイド服を着たあの女性が隣にいた。手には水の入ったグラスがある。

 暗くて表情はよく見えないが、少し機嫌良さげに笑ったように感じた。


「すみません。お水どうぞ」


「ありがとうございます」


 なんか冷淡、冷静というより、機械的なしゃべり方やな。

 最初は気づかんかったけど、すごく無理してる感じって言うか。いや、無理じゃなくて、素じゃないって感じかな。



「ジア様から、そろそろ引き上げさせろ、とのことです」


「ジア様?」


 私は首を傾げる。


「あなたにスキルを教えてくれた人ですよ」


「ああ。ジア様って言うんですね」


 留美名前も知らん人に教わってたんか。

 この人は名前なんやろう。受付にいた人やし、これからも関わるかもしれん。


「グラスを」


「ありがとうございます。あの、名前を聞いてもいいですか?」


「カナ、と申します」


「カナさんですね。……私は留美です。これからよろしくお願いしますっ」


 スキルは有用だ。長い付き合いになりそうやし、この人とも仲良くやれたらいいな。

 まぁ、できなくてもいいけど。

 カナさんがコクリと頷くと、歩き出す。


「こちらへ」



 *


 ほれほれと、追い出されるように道に出た。


 カナさん綺麗な人やったな。

 その姿を思い出す。


 黒色の髪と、明るいオレンジ色の瞳がとても綺麗。

 長い髪を高い位置で括り、ポニーテールに。それを結ぶ、瞳と同じ色の紐。髪よりも長く、腰あたりまで垂れている。

 服装はの高そうなロングスカートのメイド服。黒と白に統一されており、そこにチラッと入ってくる髪を結んでいる紐のオレンジ色がまた綺麗だと思わせる。

 しかし、足元に覗く靴はどう見ても戦闘用で、蹴られたら痛そうだ。

 よく見れば、袖の内部や、服の至る所に不自然な膨らみが……。うん、気にしない。


 カナさん綺麗やったなぁ。で、いいんや。



 夜の街は昼とは違う意味で騒がしい。

 人は生きようと思えばどんな環境でも生きていけるのか。答えは否だ。私にはできない。そんな覚悟も強い心も、持ちっちゃいないから。


 三人はもう覚えたかな?

 家にいるかな。



 歩く道に街灯はあったりなかったり。無い方が多いかもしれない。主に、住宅地の細い道がこわいぃ。暗いぃ。

 人と鉢合わせた時、悲鳴が出そうになった。ビクついて固まったら、めちゃくちゃ不審がられたよ私。


 あぁ、怖。


 全然道見えへんねんもん。




 家。

「ただいま」


 誰の言葉も帰って来ない。

 今何時や?


「あぁ、夜の二時、ね。帰っててもみんな寝てるか」


 早く行きたい。森の方へ。留美、何かに呼ばれてる……。これが『迷い人は行きたい方に行くこと』とかいう、クリスティーナさんの重要アドバイスのやつかな。

 確かに、何かに呼ばれてる……。

 自分で思ったことに、なんとなく恥ずかしくなって額を叩く。


 寝よ。


 てことで、おやすみ。


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