初めましてこんにちは。ゴブリンさん私のために死んでください

第15話 ゴブリンの森。


 朝。


「留美ー! 起きろ」


 バタン!

 私は毛布で顔を隠し、ベットの上で寝返りをうつ。


「……あと二時間」

「せめて分単位にしろよ」


「起きるから、先行っといてー」


 部屋の扉がカチャッと閉まった。



 その数分後にむくっと起き上がる。

 あかん、眠い。


 数分後。

 薄い布から出る。素足で触れた地面が砂だらけだった。ぱっぱっと払って、またベットに倒れる。


「…………」


 重い頭を持ち上げて、ベットの下のほうに置いてある靴下に手を伸ばす。

 履いていた靴下をまた履いて。慣れない靴を履く。


 ミシッと地面が音を立てたことに、若干悪寒を感じながら立ち上がった。家の中で靴を履くだなんて、やっぱ違和感バリバリで気持ち悪い。


 のびーっと。

 日課の柔軟をしてから、部屋の外に出る。木で出来ている手すりに軽く触れながら、慣れない階段を降りていく。

 下にはママと雷が座って待っていた。


「おはよ」


「遅いぞー」

「もう九時やで」


 まだ九時だよ。


「おはよう」


 父よ。挨拶を返してくれて感謝じゃ。

 井戸から戻ってきた父に後ろから抱きつく。


 眠すぎる。



「ご飯食べにいこー」


「待ってー、まだ顔も洗ってない」


 私はゆったりした動きで井戸へ向かう。


「早くー」

「はいはい」



 朝の準備を出来るだけ整えて、ご飯を食べに行く。

 私たちの不安や気の重さをいったいどれだけの人が分かるだろう。照りつける太陽が肌に当たる。町も賑わっていて憎たらしい限りだ。


 人の多い露店で売っている、相変わらず美味しくないご飯。よく分からないものを色々食べてみる。

 ちゃんと美味しいものも存在している、と言うことが分かっただけで収穫だ。


 なんだかやる気が出ない。


「このポーチ留美が持ってたけど、留美が持ってていいの?」


「いいんちゃう?」

「そうやね」

「なんなら、俺の鞄も俺といてや」


「あたしのも頼むわ」


 早くみんなの分のポーチ欲しいな。賑わっている街ではぐれないように、私たちは目的地へ向かって歩き出す。




 ギルド。

 朝から賑わっている方を一瞥して。

 大男のクリスティーナさん(仮)の方へ、一直線で向かって行く。


 今日はまた和服を着ているようだ。和服男子。……和服オヤジ?……どっちでもいいや。とにかく良きかな。


「来たわね」


 このギャップもいい……。



「こんにちは」


「今日が初戦闘よね。頑張って。くれぐれも無理しないように」


 ビシッと指を突き立てられる。

 一応、親切な人? なのかな。たぶんそう。


「ありがとうございます」


「行ってらっしゃい♡」


 ハートが飛んだ。

 私以外の三人が気持ち半歩下がる。私もびっくりして、一歩下がってしまった。


 あれもスキルなんやろうか。


 周りにこういう変な人がいなかったから、どう反応したらいいのかいまいち分からない。まぁ、そのうち慣れるやろうけど。


 世界にはいろんな人がいるなぁ。

 心配なんは、留美らが慣れる前に、向こうに拒絶されちゃったらそれまでいうことや。そん時はそん時か。他当たればいい。


 クリスティーナさんとの会話を終え、ギルドから出た。



「なぁ、ところで何覚えた?」

「はいはーい。俺から言う」

「ええよ」


「俺は『二段突き』と『スラッシュ』覚えたで」



『二段突き』は二回つく技なんだろうけど、二段に強くなる突きなのか、ただ二回つくのか。

『スラッシュ』は、なんだろ。雷の性格からいって、細かい技ではないはず。大ぶりの一撃かな。


 人がいないのをいいことに、エア剣で、どんな攻撃かを示す。

 やっぱりそんな感じよな。


「反応うっす!」


「どっちも攻撃やんな? 使う時どんな感じ?」


「ん? あー、普通に自分でやる感じ。スキルっていう割には技って感じはないな」


 はい出た感覚派。

 雷が後ろに視線を向けた。


「ママは?」


「あたしは『ヒール』と『毒消し』覚えたかな」


「完全なる補助系やな」

「『ヒール』は絶対いる」


「攻撃はスキルなしの打撃か。まぁ人のこと言えんけど」


「え、留美も攻撃手段なしなん?」


 意外そうに目を丸めた雷を放置して、私は後ろを向く。ママも私と同じように後ろを向いた。


「パパは?」

「おい無視するな」


「俺は『ファイアーボール』と『バインド』」


「名前聞く限り、火の玉攻撃と、足止めか」

「そんで留美は?」


 魔法いいなぁ。留美も魔法使いたかった。

 やっぱりファイアーボールっ! って叫ばなあかんのやろうか。最初の方は厨二チックで恥ずかしそう。


「そんで留美は??」

「うるっさい」

「早よ言え」


 ドンと体当たりしてきた雷に当たり返す。


「こらこら、道の真ん中で暴れなさんな」


 ママに嗜められて、暴れるのをやめる。戯れ合いはこの辺にしておこう。


「留美早よ言って」


「留美は『音聞き』と『シャドウステップ』」


「は?」

「は? とか言わんといて」


「はぁーー?」


 デシッ!

「痛った」


 雷がやり返してくることはなかった。そろそろ人がいるようになってきたからかもしれない。

 変に目をつけられたくないし、騒ぐのは自重しておこう。

 留美は背筋を伸ばして歩きながら、前を見て口を開く。


「ぼんやりと音で周囲の探知。なんかあった時の為に逃げる手段」

「うわ。一人だけせこい」


「なにが? 周囲の探知は絶対必要やろ。あと、偵察に行った時に死にたくないからな」

「なるほど。ちょっと俺の考えがゲスかったわ」


 偵察に行く意味があるかは知らんけど。……それも、森に行って見てからの検証やな。



「ゲスいって何考えてたん?」


「さあ行こー!」

「雷走んなよ!」


「ハッハー! ブーメラン!」


 二人して走って行く子供を、大人二人は苦笑して追いかける。


「元気やなぁ」


「こらそこほのぼのとしない!」

「それは良くない?」



 *


 壁を見ながら、東門まで来た。

 その場所に近づくに連れて緊張していたためか、手が汗で濡れている。ナイフがすっぽ抜けたら死んじゃいそう。


 森に入って行く人間は私たちだけでない。

 狩場でも競っているのか、早足で追い抜かして行く人たちは、みんな真面目な顔をしていた。

 見ていた感じ、大体五、六人構成が多いようだ。


 緊張して突っ立っていると、何組かに微笑ましそうにされる。初心者だってバレバレのようだ。

 なんだか恥ずかしい。


 でも誰もが通る道や。バカにする人がいたら、その人間の方が頭おかしい。



 森の方を眺める。

 やっぱり、無性に何かに引き寄せられている感覚がしていた。何かに呼ばれてる気がする。まだまだ遠い気がするけど、行かなきゃいけない気がする。そんな予感。


 今はそんな曖昧なものより、目の前のことに集中しないと。


 私は家族の顔を見回した。


「あのさ。命大事に。無茶はしない。出来るだけ冷静にやで」


「分かってる」


「ゲームちゃうからな」




 再度確認したところで、私たちはゴブリンの森に足を踏み入れた。


 ゴブリンか。どんな姿してるんやろう。やっぱ小鬼よな。肌の色は緑かなぁ、薄褐色はやめてぇ、赤色かなぁ、黒やったりして。


 入るとすぐに木、木、木。岩。崖。草草草草。人の出入りがあるから獣道のようになっているが、それもどんどんなくなっていく。

 足場が悪いし、枝を踏んだ時のパキッと言う音が緊張感を増大させる。


 森だから仕方ない。

 草で見えない場所は、あまり足を踏み入れないようにする。

 いつ敵が襲ってくるのかと言う恐怖に、私が耐えられそうもない。私は少しだけ開けた場所で足を止めた。



「周囲聞いてみる。一応周り見といて」


「おけ」



 砂の地面に耳をつけて、目を瞑る。集中――。

 音。生き物を探せ。水の音を探せ。生き物である以上必要なモノ。小さな足音は?



 —――—1つの小さな足音を見つけた。

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