第10話 いざゴブリン退治……え?


 昨日見つけておいた場所で朝食を取ったら、家に戻る。

 装備を付けるためだ。


 意外とみんな普通に歩いている人も武器やら防具やらをつけている様子。次からは私たちもつけてから外出した方が良さそう。


 私は皮の胸当てを身に着ける。二本のナイフをベルトに差せば、完了。

 早く服が欲しい。半ズボンとか恥ずかしい。

 傷跡見えてないよな……。ビミョい、大丈夫、人は他人のことそんなに見てないって誰か言ってた。



 皆、準備オーケー?

 みんな自分の鞄を持っていくようだ。この格好に、前のカバンはとても浮いているが、仕方ない。


「じゃぁ、いこっか」

「よっしゃ、ゴブリン退治!」


「気をつけてや」

「慎重にやぞ」



 大男のクリスティーナさんに言われた通り、ギルドへ向かう。


 ギルドのドアを開けると、以前来た時と同じく騒がしい。

 あちらこちらで騒いでいる人たちは酔っているわけでもなさそうなのに、騒いでいた。無論、ガチで酔っ払っている人も一割ほどいるが。

 きっと騒がないとやってられないのだろう。可哀想……。


 留美はいま、そんな場所に足踏み入れようとしてるんか。……あっ、いま鳥肌立った。ああならないように頑張らないとっ。


 他にも、笑顔で食事している人や、絶望にうなだれてる人や、ただ静かに食事している人もいる。

 みんな違ってみんないい〜。


 よそ見をしていると、ママに服を引っ張られた。

 はいはい、自分のことに集中せんとな。



「あら、来たわね。いいらっしゃい」


 クリスティーナさんが手を振っている。


 他にも受付らしいのがいるが、知っている人の方が良い。

 頼れる人も何もない私たちには、クリスティーナさんのようなサポートとアドバイスをしてくれる人が必要だ。


「おはようございます」

「おはよう」


 彼は今日、黒いスーツを着ていた。

 ガラッと変わったクリスティーナさんに、萌え魂が疼く。お願いだから二次元に戻ってください。なんて言えるはずもなく、笑顔を取り繕う。


「じゃぁ、説明するわね。東のゴブリンに行くのよね?」


「はい」


 それ以外の選択肢知らんがな。

 クリスティーナさんは満足そうに頷いた。


「じゃぁ、まず一匹退治ね。数によって報酬も違うから、自分に合った数を選びなさい。選んだら、倒しに行って、倒す。あぁ、そうそう。倒した相手の左耳を持って帰って来てね。お金に変えるから」


 左耳。


「もし、一匹退治を受けて、二匹倒した場合はどうなります?」


「問題ないわよ。ゴブリンの耳一つで、銀貨五〜十枚。切り口によって決まるから、スパって、取りなさい」


「はい」


 スパって切れって言われてもなぁ。


「……以上ですか?」



 首を傾げると、少し考えた後、クリスティーナさんは手を打った。


「忘れてたっ。これもあげるわ」


 取り出されたのは飾り気のない素朴なポーチ。そういえば、パーティー単位で一人は必ずつけているものだ。

 ファンタジー知識を引っ張り出せば、この忘れられていたポーチは、とても有用なアイテムのはず。


「ありがとうございます……ポーチですか?」


 説明を求めるように、受け取ってから首をかしげた。


「ただのポーチじゃないわよ。アイテムポーチ(小)よ。たくさん入るような魔法がかかってるの」


「ありがとうございます」


 そんな大事なものを渡し忘れてたんですね。職務怠慢ですよ。


 文句を口には出さず、にっこり笑っておく。

 わざとじゃないだろうし。少し我慢すればいいだけだ。やり返すのは、ちゃんとサポートがもういらないって思った後。

『仲良く』という目標を設定しているのだから、怒ることは不利益につながる。


 手にあるポーチを撫でると、少し硬い革の感触がした。


「えっと、ゴブリン一匹退治を受けるのはどうすればいいですか?」


「あそこの紙の中から持ってくるのよ」


 クリスティーナさんが指さした方には、壁一面に、依頼書らしき紙が、大量に貼り付けられている。

 呪われてるみたいで、ちょっと怖い。



「今日はもう持って来てるわ」


 持ってきてるのかよ。


「助かります」


 なんだか彼に試されているかのようで、手に汗が滲んできた。

 人と話すだけでもいっぱいいっぱいやのにっ。


「こんな感じに書いてあるから、間違えないようにね」


 ヒラっと紙を見せられる。

『ゴブリン討伐』討伐数一匹。ゴブリンの特徴と大体の生息地、切り取る部位の絵が描かれていた。


 じーっと見ていると、クリスティーナさんは紙を下げた。

 もうちょっと特徴欄とか見せてほしかった。



「アニーちゃん、サクラちゃん。今いいかしら?」


「あ、はい!」

「なんでしょう?」


 二人の女性が歩いてくる。受付にいるってことは、クリスティーナさんと同じような役割の人たちって認識でいいかな。


「紹介しておくわね。こっちがアニーちゃん」


「ご紹介にあがりましたアニーです! 愚痴、相談、クエストの受付までこなせる元気いっぱいの女の子ですよー! よろしくお願いしますね」


 元気いっぱいで誰とでも仲良くなれる人だ。少し苦手なタイプ。そう思ってコクリと頭を下げる。


「こちらこそよろしくお願いしますね」


 無愛想な私の態度を悪く思い、母親がフォローしてくれた。



「こちらがサクラちゃんよ」


「サクラです。私も愚痴や相談事、クエストの受付を行なっております。何かあればご相談に乗りますよ」


 優しげに微笑んだ彼女からは、思いやりの心が感じられる。少し苦手なタイプだ。そう思ってコクリと頭を下げる。


「よろしくお願いしますね」

「はい」


 サクラさんもぺこりと頭を下げた。



「二人ともありがとう。新しく来た子達だから、気にかけてあげてね」


「はい!」

「わかりました」


「どれくらい生き残るかな?」

「こら滅多なことを言ってはいけません」


「はーい」


 うわー、うわー、うわぁああー。

 死ぬ死ぬ、絶対死ぬ! 生き残れると思われてへんもん。無理無理無理。むーりー! 運動神経ゴミとは言わんけど、まともに動けるん?


 ママとパパの若い頃って、どれくらいの身体能力なん!? 留美と雷って前衛で戦えるん!?


 ぐるぐると意味のない思考が回り、プシューと頭から湯気が出そうだ。


「さて、一応聞くけど、何を覚えたのかしら?」


「え? 覚える? 何のことですか?」

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