第23話 服屋のおばちゃんと勝負!


 服を着て、服屋を探しに行くと言う意見が一致した。


 服屋? 服屋ってあるんだろうか? 流石に、あるよな。

 クリスティーナさんに聞いた方が早い気がするけど。皆はそんな気なさそうやし。まぁいっか。街ぶらり〜ん。気長に探そう。どうせお金そんなないし。



「手分けする?」

「いや、一緒に行こう。何かあったら嫌や」


「そうやね」


 町でも警戒せんとあかんのか。……そりゃそうか。治安悪そうやしなー。

 大通りはいいけど、路地とかちょっと外れたら座ってる人、痩せてる人、死んでそうな人、はぁ。つくづく嫌なところに来てもうた。


 見つからないよー、見つからないよー。もう、人に聞いた方が良いんじゃないかなぁ。

 人混み嫌い。そもそも人が嫌い。



「あそこじゃない?」


 お? 見つけた?


 雷の指差した方向に、飾り気のない布の服が売ってあった。露天売りだ。

 いくらするんやろ?


「銀貨四十枚」


「へ?」


 見ていたら、おばちゃんが値段らしき事を言ってきた。この店の人なんやろうけど。……露天売りってこんな感じなんか。


「一枚銀貨四十枚だよ」


「うっ……。もう少し安くなりませんか?」


 銀貨四十枚ってことは…………四千円。服一着四千!? 個人売りやし、大量生産とかされてなさそうやし、手縫い一着四千円。時間と労力考えたら……いやそれにしても高くね!? ゼロ一個間違えてない?! いやそれやとこのおばちゃんが生活できんよな。


 でも留美らも生活できんくなる。……値切るしかない! 根性見せろぃ!


 四十銀貨枚だったら、全員の分買えないし、何より今、金欠や。他人の事情なんかしらねぇよって言われたらそこまでなんやけど。

 手持ちは、銀貨九十八枚と銅貨二十枚。全然足りねぇ!


「お願いしますもう少しお安くしてくれませんか」

「ならないよ」


 無理っぽい。いや諦めるな留美。

 頭の中の情報をフル活用して、いけそうなものを見つけた。


「下着ありませんか?」


「男物も女物も、銀貨十枚」



 くぅ……。とりあえず全員分の下着と、雷の服を確保したいところ。

 タオルも欲しいけど、服の方が優先度高いよな。


 留美はおばちゃんの前に屈んだ。

 睨みつけるわけではないが、その眼差しは真剣そのものである。


「下着を女物と男物を、二つづつ買って、服も一つ買います。だから、銀貨六十枚までまけてください」


「仕方ないね。銀貨七十八枚」


「もうちょっとお安くなりません?」

「……七十四枚」


「あと四枚だけまけてくださいお願いします」


 パチンと手を合わせて頭を下げる。その必死さが伝わったのか、彼女はため息をつく。


「いいよ。銀貨七十枚だ」


「やった、ありがとうございます」


 初めて値切った。しかも成功した。なんか感動!

 よっしゃ、銀貨十枚浮いた。もっと値切りたいけど、あんまり値切ると来るなって言われるらしいからな。半額とかにする猛者は、もうちょっと相手のこと考えた方がいいで! あ、これ前の世界情報ね。


 お金の残りが銀貨二十六枚か。

 服高い。下着高い。これが普通? いや、高いかって考えたら安い? だって服とか一回買ったら、当分着れるやん。このおばちゃん、これで生活していけるんやろうか。


「はいよ」

「ありがとうございます」



 受け取った服を雷に渡す。下着はポーチへ。

 留美は立ち上がると、後ろで立っていた三人に申し訳なさそうに眉を下げる。


「ごめんな。なんか勝手に買っちゃって」

「別にいいよ」

「サイズ合う?」


「お客さん。迷い人かい。……ほー」


 おばちゃんがふむふむと私たちのことを見回してくる。


「サイズは着れば合うようになってるから、気にしなくていいよ」


 なにそれすごい。

 雷が脱いで服を着た。渡された服をポーチに入れておく。


「教えてくれてありがとうございます」

「うおー、まじでサイズいい感じっ」


 その声を聞いて、留美も来てみたい衝動に駆られた。


「うわいいなぁ。また服買いに来ますね」


「はっはっは。待ってるよ」



 おばちゃんとお別れして、私たちは来た道を戻り出す。

 これ以上の買い物は、生活費というか食費がなくなる危機があるからと、まっすぐ家に帰って来た。

 寄り道するとあれが欲しい、これが欲しいっていう欲が出ちゃうからね。


 家の広間に突っ伏して、留美は「お金、お金」と妖怪のように呟く。

 自分の服が買えなかったことに文句タラタラなのだ。


「留美怖いって」

「明日どうする?」

「行くしかないやろ……」


 三人の反応に顔をあげる。


「留美は明日くらい休みにしてもいいと思うけどなー。こんつめんのは良くないっていうや――」

「いや、行こう。服が欲しいわ」


 被せてきたママをじっとみる。


 焦りも感じるけど。まぁ、必要やと思ったから言ってんのやろう。……雷がまた穴開けられたりしてな。

 私は時計を見る。


「じゃあ朝七時ご飯、九時お出かけって感じ?」


「りょーかい」

「そうしようか」


 パパも頷いてたからちゃんと聞いてるはずだ。



 明日七時にご飯ってことは……え、五時起き? 一時間くらいずらすかも。


 椅子から立ち上がって、誰も座っていない椅子たちをきっちりと机のそばに揃える。……完璧。


 今日はもう寝よう。明日に備えなあかんからな。

 そういえば、鑑定って、自分で覚えられへんかな? あれば結構楽になる気がする。

 熟練ゴブリンと初心者ゴブリンの差とか分かればいいのに。



「お先、おやすみー」


 急に眠ぃ……。


「おぉ、おやすみ」

「あたしも寝るわ」

「俺らはどうする?」


「…………寝ようか」


「えぇ……寝るか」



 *


 留美の部屋。


「鑑定」

 ベットに言ってみる。


「鑑定」

 椅子に言ってみる。


「鑑定」

 布団代わりの布に言ってみる。


 やっぱ覚えに行かないとダメか。

 でも、もしかする事もありそうやから、ふとした瞬間にやってみよ。……待って。完全に痛いやつやん留美。


 それでもいいんや。もしかしたら、出来るかもしれんし。

 この世界のこと全然知らんから、手当たり次第思いついたことやっていく方がいい。


 厨二病最高〜! …………寝るか。



 急に冷静に戻ると、恥ずかしくなるやつな。


 大丈夫。留美は生涯厨二病を愛することを誓いはせんけど、そうなる気がする。だってかっこいいって思ってしまうねんもん。


 怪我なく、元気に、健やかに生きていけますように。明日がいい日になりますように。どうか、死にませんように。


 守護神様どうか私たちをお守りください。



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