第29話 ゴブリンのお肉のお味はいかに!?


 絡まれることなく家に戻ってこれた。人と人の視線を避けたのだから、当然と言えば当然だ。


 自分の部屋に窓から入り、ナイフを置いてもう一度外へ出る。

 同じ装備にしておかないと、突っ込まれた時に言い訳できる気がしない。


 今度は、ちゃんとドアから入った。

 広間、十六時。



 バタン。

「ただいまー」


「お帰り」

「遅かったな」


 広間で三人がくつろいでいた。

 コツコツと椅子に向かって歩きながら、息を吸うように本当を混ぜた嘘をつく。



「うん。クリスティーナさんの所で雑談してた。それでな。ゴブリンの肉が食べれるねんて」


「次から肉も取るって事?」

「人型の解体留美らにできると思う?」

「やろうとしてみんとわからん」


 ポーチから黒い防水袋Sを取り出す。


「なにそれ?」



 雷に中身を見せる。

 血の滴る肉の見た目をしているそれを見て、かなり引いていた。


 私は机の中央で、中身が溢れないように口を広げる。



「てってれー、ゴブリンの肉〜」



 ママとパパの反応も見ると、顔を青くしていた。

 どうしてそんな反応をしているのかわからず、不思議そうに首を傾げる。


 あ。今度は赤くなって来た……。

 なんか怒ってる?


「留美。まさか一人で行ったんじゃないよな?」


 ああ……。

 ないない、と否定するように手を振る。


「行くわけないやん。誰かに引き付けて貰わんと、あのゴブリンと正面からはキツすぎ」


 肉出したから留美が取ってきたんちゃうかって思ったんか。……正解。

 面白半分で言った私の言葉を聞いて、二人は安心したように脱力した。



「そうやんな。良かった」


「で? その肉どーしたん?」


 袋をツンツン突く雷から袋を遠ざける。


 父と母も気になるようだ。

 さっきまで蒼白な顔色していたのに、赤くなったり真面目になったり……。そんな顔色さしてるん留美やわ。反省しないと。


 お肉をポーチに入れておく。



「さっきのお肉はクリスティーナさんに貰ってん。一回食べてみる? って」

「ああ、なるほど。あの人強そうやもんな」


「今日の夜ご飯はゴブリン肉にしよ、っていってもそんなに量はないけどな。なんか買い足す?」

「夜やしあと寝るだけや」

「それだけでいいんじゃない? 最近食欲そんなないし」


「雷は育ち盛りなんやからちゃんと食べや。留美もな」



 私は椅子に座ってだらんともたれかかる。


 留美、お昼ご飯も食べてないんよなー。お腹すいたなー。

 足をぶらぶらさせる。


「もう食べる?」

「早ない?」


 まだ十六時過ぎだった。



「早寝早起きは三文の徳って言うやろ」


「何時に寝るつもりなんや……」


 する事がないから早く寝るだけや。あー、ゲームしたーい。

 はぁ。ゲームしたいな……。暇すぎる。昔の人って自力で遊び生み出しまくててすごかったんやな……。

 工夫と知恵か。


 電気を使わずに、お金のかからへん遊び…………。鬼ごっこ、隠れんぼ。石投げ。あー、なんか色々思い浮かんで――


「まぁ、用意にどれくらい時間かかるかわからんからな」


 パパが立ち上がった。

 続いてママも立ち上がるから、留美と雷も立ち上がる。



「ゴブリンの肉をどう料理する気なん?」

「留美は石の上で、パパにファイアーボールで焼いてもやう気で。味付けは……まぁ、素材の味って事で。ど?」


「マジ?」

「マジ」


 鍋もなければ、フライパンもないし、金網もない。

 調味料なんてものも一切ない。調理道具なしで、他にやりようないよな。こればっかりは仕方ない。


 って事で、いま庭で石の上に肉を広げた。血がたくさんついてたから、水で洗い流す。


「パパ。真っ黒焦げにしたらあかんで」

「生焼けもあかんで」


「分かってるけど、加減がな……ブルカーン・バル・プラーミア・ノワイドファイヤー」


 ボォと手に浮かんだ火の玉が、細切れ肉を攻撃した。


 炭。シューッと音を立てている。


「あー!」

「あははは!」


「あぁ……」


 しょんぼりしたパパを雷が慰める。留美は炭をツンツン。


「ダメっぽい。中まで炭や。ファイアーボールって意外と火力あんねんな。レベルでも上がった?」

「俺も思ったそれ」


「どうなんやろうな……」


 留美も魔法覚えたいなー。

 でも、留美ローグになったし? いや、魔法使えへんって決まってはないんやった。


 暮らしが普通になったら、魔法覚えれへんか行ってみよ。

 適性がなんちゃら、なだけで一つとは限らへん。鑑定とかいうスキルも覚えられたし…………変なの。



「もう、薪に火つけた方が早いわ」


 薪を持ってきたママが地面に落とした。


「そうしよか」


 パパのコントロールがちょっとダメそうなので、薪に火をつけた。火に当てる石を置いて、その周りも石で囲む。


 もしも火花が飛んで、草に燃え移ったらめっちゃ大変んなことになる。周辺を湿らしておいて。とりあえず、たぶん。大丈夫だと思いたい。

 桶に用意した水だけでは心もとなさすぎる。



 肉を焼く。

 全く煙が立たないのが、なんか自然の摂理とか、化学とか、色々無視してる感があって怖い。


 初めてのゴブリン肉や。

 どんな味するんやろ。おいしそうとは全く思わんけどな。



「焼けたで」


 ナイフで切って、生焼けじゃないことを確認する。焦げた外側はもったいないけど、黒い鍋の中へ。

 肉にかぶりついて、もぐもぐ。


「うわー。めっちゃまずい」

「でも食べれなくはないよな」

「まーずい」

「…………」



 でも、思ったより不味くなくて驚いた。食べれる食べ物の範囲内やけど、食べたくはない味。…………やっぱまずいわ。生臭いっ。

 ちょっとしかないのに、消費が進まんの笑う。


 その日はそれで解散した。



 お風呂は無しなので、水浴びをしておく。なお、服タオルはない。

 あぁぁぁ。



 *


 留美の部屋。


 薬草をすり潰したいのだが、すり潰す道具をどうするべきかを考えていた。

 何をするにも道具で行き詰まるこの現状。もどかしい。



「道具屋に行ってみるか。いや、その辺の石でやってみるか……今すぐやりたいってなると。それしかないわな」



 やっぱりお金か。何をするにもお金がいる。お金が足りない。お金が欲しい。お金がない。留美、ばっちり守銭奴やん。


 今日はもう寝よう。また早起きできたら、朝の狩りにでも行こっかな。手ごろな石探しも兼ねて。


 二十時前やったけど。いいや。おやすみ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る