第28話 ミルラウネの町に無事帰還
ザクザク。
「お腹すいてきたな。ゴブリン肉でも食べようかな。流石に生は無理やけど」
『鑑定』
『ハズの実』
この辺りになる果実。
食べれるっぽい。
ポーチに入れておこう。非常食ゲット? 絶対ゴブリンの食糧やん。まぁ、貰うけど。
一旦帰ろうとした時に、ゴブリン発見!
今度は一匹で周りにもいない。 よし、留美のために死んでくれ。
そこに生物を殺す嫌悪感などはなく、絶好のチャンスが回ってきたと喜びすら感じていた。
『シャドウステップ』
ゴブリンの後ろに移動する。
「グギャッ!?」
気づかれた。
驚いてのけぞってる間に、ナイフで首を斬りかかる。
ブンッ!
「いやん!」
ミスった!
「グガァ!」
やっぱり斬るのは一撃じゃダメか。逃げよう。『シャドウステップ』
猛ダッシュで森の中を走るのは危険だと思い、茂みに隠れるように伏せては、ゴブリンの様子を伺う。
恐怖心で体が強張っているのか、留美は肩で息をしていた。口元を押さえて、息を殺す。
…………あれ? 周りを見渡してる? 完全に視野から外れてたんか?
よく見たらかなり血も出てるし。フラフラやん。演技ちゃうよな? それはやばい。
誰かと戦闘してた後やったんかも。警戒してるところに留美が行ったとか?
ただ留美がミスっただけに一票。
一人しかいないので可決。はい解散。
じゃなくて。
いけんじゃね?
めっちゃ警戒してるけど、もう一撃で殺せそうやん。
ただでさえ小さい体から、血が止まる事なく流れて行くせいか。時間とともに息が荒くなり、ついに剣を地面につくゴブリン。
死ぬの待とうかな……。でも移動されて、どっかにおる仲間と合流されたら耳が取れへん。
ガサッと小さく音を立てながら立ち上がり、『シャドウステップ』
胴体に入っている傷跡を狙って、肉に深く刺し込む。そしてもう一本のナイフで、首を狙って。――肉を半分切った。
うわっ血の量エグいっ。
頭の重みで首がベロンと千切れていく。そのまま身体も倒れ込んだ。
バタッ。
倒れた。死んだ?
ゴクッと喉が鳴る。緊張で喉がカラカラなことに今気づいた。
「地面に染み込んでる……血の匂い、やば……」
留美はナイフを振る。
ピシャと地面に打ち付けられる赤もあるが、べっとりとついた脂と血は綺麗にナイフから飛んでくれない。
水場まで行くのが面倒になってしまい、ゴブリンの身につけている布で拭いてしまう。
さて、離れるか。
ゴブリン出血死するの待っててもよかったんだけど。ちょっとこっちに向かってくる足音にちょっと焦ったよな。
まだ遠いし、ぼんやりとしか分からんのに。はぁ〜、しんど。……焦りは禁物。
左耳と、肉と、剣。今回は服の回収はしない。血の汚れ拭いちゃったしな。
「今日はもうゴブリン止めとこ。疲れたし」
武器をしまって、すんすんと手を嗅ぐ。
酷い血の匂いだ。
青々とした草を踏みつける。
「あは、あはは……。怖いな……」
留美が向かった先は川だった。
やっぱり家族と顔を合わせる前には、血を洗い流さないと。
ゴブリンの布も濡らして、血をふき取っていく。ゴブリンも上下服着てんだからびっくりだよね。意外と臭くないという。清潔なのはいいことだよ、うん。
今の留美の鼻がイカれてるっていう可能性は? わっからん。
あれ、街どっち? いや、二択じゃないけど。
「…………」
ヤッベ。
見上げても木と枝と葉っぱ。あとは遠くにある青い空だけ。雲がなくて快晴だ。
………………。
まいご……迷い人だけに……? すでに人生にも迷ってるけど。
「ふふっ……、ふはは。あはははっ! ……おもろ」
まぁ来た道戻ればいいよな。
うるっときてしまって、涙が流れる。擦ると痛くなるから、留美はそのままで歩き出した。
う、うーんと。こっちから来たよな。こう来て。こう来て。倒れてる木を通り過ぎて。こっちで。向こう行って、岩降りて、ゴブリンの死体。えっと、多分これが留美の通ってきた跡で。この木やろ。んで、この崖。水の流れる場所。ゴブリン……の死体はないけど、ここは見覚えあるな。んで。……こっちやな。
あっ。あっ! 人の声や。町やっ。
うわあーーーー! よかったぁ! マジでよかったぁ〜!
ポロポロ溢れ出る涙を拭う。
泣いてるのを人に見られるのは恥ずかしい。
門の方へ歩き出す。
帰り道で『薬草』を八個と『毒草』を五個を見つけた。どっちも『雑草』と全く見分けがつかへんねん……。
*
ギルド前。
身なりが大丈夫か確認する。
よしっ。
ドアを開けた。
いつも通りガヤガヤと騒がしい。
見るからに屈強な戦士や、怪しい魔術師は意外といないのがこの世界。結構みんな自由な服着て、鎧着てって感じ。
迷い人が多いせいかな? 厨二病の人にとっては過ごしやすい空気ちゃうやろうか。
ガラガラのカウンターに向かう。
「クリスティーナさん。ただいま帰りました」
「無事に帰ってきてよかったわ。収穫はどうだった?」
ゼロ匹を予想しているのではないだろうか。
眉が下がっている。
そんな彼の予想を裏切るように、いかにも嬉しそうな表情で、ポーチから三つの耳を取り出した。
朝倒した奴も、いま交換してもらおう。
「一人で三匹も倒したの!? す、すごいわね。あなた来たばかりよね? 一回目よね??」
「ふふっ、一匹のを不意打ちしてますから、そんなにすごくないです」
「いいえ。十分凄い事よ。それだけ息をひそめられるのも、一人で森へ行ける勇気もね」
「そうですか? ありがとうございます」
………えへへ///
思ったよりも褒められたのが嬉しくて、時間差で噛み締めるように頬が緩んでしまう。
でも急に恥ずかしくなって、顔を手で隠す。
へ、変に思われたかな……?
「耳の切り取り方もいいわ」
「ありがとうございますっ」
クリスティーナさんは褒めて伸ばすタイプなんやね。留美はその方がいい。でも煽てても何も出えへんよ? いや求められたら出すかもしれん。
「――――よ」
「ご、ごめんなさい。もう一回言って貰えますか?」
「あら、早口だった?」
申し訳ない、ただ聞いてなかっただけや。
「三つで銀貨二十八枚。それと一匹退治の報酬十枚。合計して三十八枚よ」
「二枚減点の所はなんですか?」
「ここよ。切口はいいけど、色が変わってるから減点ね」
「ああ。なるほど」
きっと血がなくなってフラフラになってた奴のだ。他は満点だと思うと嬉しい。でもそんな簡単に痛むのか。
ていうか、ゴブリンの耳とか何に使ってんのやろ。
チラッ。
言いにくそうにクリスティーナさんを見上げる。
「あの。耳って何に使ってるんですか?」
「内緒♪」
内緒か。マジで何に使ってんのやろ。…………あぁ……使ってるとは限らんか。何匹倒したかってだけ、って事もあり得るし。
左耳だけ切り取って逃げる人とか……おったら嫌やなぁ。
「留美ちゃん?」
「あっ、ハイッ。すみません! ……なんですか」
またやってしまった。
不安そうに見上げると、心配されてるだけだった。けど。や、やばい。心臓がドキドキ……。
「なにか考え事?」
「い、いえ。あ、はい。ちょっと考え事です。その、明日も来ますね」
「大丈夫? あまり連日行くのは良くないわ。最初のうちは特にね」
「いえ。お金が必要なので」
稼げばいいのよって言ったんはどこのどいつやっけ?
真剣みを帯びた留美の表情を見て、曲げることはないと感じたのか、クリスティーナさんは苦笑した。
「……そう。待ってるわ」
ギルドを出る。
この銀貨は自分の部屋のベットの下にでも置いておけばバレんよな。
…………浅はかかな?
袋に入れて増えてたら、不審に思われるかもしれんし。…………ポーチに直で入れとく方がいいか? そうしよう。
気づけば、日が沈み始めていた。
あれ? 留美お昼ご飯食べてなくない?
全然お腹が空いていないけど、人は食べなきゃ死ぬんだ。まぁ、一食抜いたくらいじゃ死なんけどな。
……家族の元へ帰ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます