第27話 1人でゴブリン退治レッツゴー! ハッ、これはっ!!


 ギルドのドアを開く。


 ゴブリン一匹退治の紙を手に取って、クリスティーナさんの所へ。

 あまり人はいないが、少し早足で歩みを進める。


「おはようございます。クリスティーナさん」


「おはよう。留美ちゃん」


 にこやかに挨拶してくれる事に、嬉しさが湧き上がって来る。

 何故か無性にに緊張してきて、袖で口元を隠す。


 今日はぴっちりなTシャツなんですね。ムキムキ感がよくわかっていいね。……なんて言えるわけないやろ。

 変な間を作ってしまって、慌てて紙を机に置く。


「えっと、これ受けます」

「まさか、一人で行く気?」


「仲間には内緒でお願いします」


 留美の細まった目を見たクリスティーナさんが、顔を近づけて来る。


「他の三人はどうしたの?」


 心配してくれてるんだろうけど、ちょっと近い怖い。

 今日は、自由行動。何をしていようが問題ないのですよ。ふっふーん♪



「…………あ。えっと。昨日仲間が負傷して。皆それが心配で。戦闘は無理っぽかったので。とりあえず自由行動という事にしました」

「止めときなさい。一人は危険よ」


「危なくなったら、帰ってきます。無茶はするつもりありません」



 留美はどうしてこの人が、私のことを心配しているのかわからなかった。たいして仲良くもないし。


 私から見ればその顔や態度、最初に会話した人だから印象深いけれど。クリスティーナさんから見た私は、こっちにきて間もないただの迷い人の一人にすぎない。


「……そこまで言うのなら、仕方ないわね」

「仲間には絶対内緒ですよ。バレたら確実に怒られますから」


 渋々といった風な彼に釘を刺しておく。


「わかったわ。くれぐれも気をつけて」

「ありがとうございます」



 *


 東門。

 ゴブリンの森へ入る。


『音聞き』———拾え。足音を。人間の足音じゃない。



 もう少し進もうか。


 ザクザクと躊躇なく足を進めて行く。

 無意識に口元が、ニンマリと楽しげな笑みを浮かべる。——見つけた。


 草を踏みつけ、慎重に向かう。油断してると、他のやつに奇襲を受けるかもしれないから。それはダメだ。



「あれか」


 周りの状況をよく見て、周囲にはゴブリンがいないことを確認した。

 地形も悪くない。


 大丈夫。殺れる。


 あ、そうや。

『鑑定』


『ゴブリン』

 この地域に住む種族。

 互角っぽい。



『鑑定』


『ゴブリン』

 この地域に住む種族。

 気性が荒く知能は低いっぽい。



 おっ、文字が変わった。

 何度かやってみたけど、変わったのは一回だけだった。


 ふーむ……。あれで知能低いのか。十分高いと思うけどな。

 昨日なんか、フェイントかけとったやん。まぁ個体差はあるやろうけど。


 鑑定さんが互角って言うってことは、留美はまだ戦い慣れてないし、地理的にも、向こうの方が有利って思っといた方がいいかな。

 一撃で仕留められんかったら撤退するけど。



 …………よっしゃ化け物殺すぞっ。うははははっ! 落ち着け。神経を研ぎ澄ますんや。いやちょっと集中するだけでいい、周りの注意が散漫になる。


 心が静かになってから、ナイフを抜く。

『シャドウステップ』


 ゴブリンの後ろに移動した。


 まだ気づかれていない。ナイフをクロスして斬る。


「グガァっ!?」


 反射的だろう声が響き渡った。

 油断していたところを攻撃食らって、ゴブリンは斬られた反動でのけぞる。これで仕留められてたら一番いいんやけど。


 留美が続けざまに刺そうと、手の内で回したナイフが滑った。


「あっ」


 どっかいったナイフは放っておいて、すでに足を踏み込んでしまっている私は、振り向かれたゴブリンの目を狙う。

 反対の手に持ったナイフを差し込んだ。


 そしてゴブリンの肩を蹴っ飛ばす。

 ブンッ!


 あっぶねぇっ!

 ゴブリンの持つ武器が私を狙っていたのだ。あの瞬間に離れなければ、お腹斬られてたかも。

 相手の武器に意識を向けていたから防げたけど――


 バタッ……。



 転がって止まったゴブリンを見ながら、戦闘態勢で数秒待つ。


「……ふぅ」


 一応、ゴブリンの首をもう一回斬る。

 生きていて後ろからグサリ、なんて笑えない。ほんとに笑えない。一人で来てんだ、警戒は周到過ぎる方がいい。


 あ、周囲確認。



 ――――――――大丈夫みたい。


 いや、ビビった。ナイフ飛んでいくとかないわマジで。

 手汗を服に擦り付ける。


 てかゴブリンの目に当たらんかったら、留美の方がやばかった件……。

 拾ったナイフも服で拭く。


 うわぁぁああ! 鳥肌やばいぃぃーー!!


 すりすり。



 シン……。


「んぅー……」



 地面に倒れているゴブリンの左耳を回収する。

 採取ナイフと攻撃ナイフ、長さが違うけど採取ナイフの方が切れ味が良さそうなんやけど……。なんでもない。留美は何も思わなかった。片方採取ナイフにしようとか考えてない。


 チラッ


 ……考えてない。そんな悲しいこと言わんよ。うんうん。


 今は背後からの奇襲じゃないと、留美に勝機はほぼ無いと考えるべきやな。正面からやるにしても、家族がいる時にやるべきや。


「そういえば、ゴブリンの肉食べれるんやったな。この剣も使えそうやし。もらっとくか」



 ゴブリンの剣をポーチに入れる。

 着ていた服も回収した。流石に股間の布は遠慮するけど、上着はまだマシやと思いたい。


 少し躊躇しながら、ゴブリンの胸を切り裂いて、肋骨を折り、おそらく肉……を取り出す。


 これは……内臓? 食べれるやつかな?


 心臓、腎臓、腸。料理にそんなんあった気がする。いけるいける。ここは食べたらあかんでって何も言われてへんし、骨もかじれるかも。でも硬いから食べ……せんべい? いや、流石に味が染み込まんやろ。



 うげー。なんやろう、背筋がヒヤってした。

 食べれるところ少ないし、臭いし、ほんまに食べれるんやろうか。


 解体なんてしたことないから、手を切らないように適当に切って行く。血抜きとかせなあかんのやろうけど。そんな知識はない。


 時間止まるしと、適当に防水袋Sに入れてポーチにしまう。


 手が血まみれだ。

 水の音するから、どっか川があるはず……。



 ――あった。


 水が流れている。

 バチャバチャ。


 周囲の確認……あ。二体来てる。逃げないとっ。

 血を落とし切ってからスキルを使いつつ、気持ち急足で森を歩く。やっぱり水の近くはゴブリン来るよな。


 森の中で一匹で彷徨いてるアホおらんかなぁ?



『鑑定』

『雑草』


 いま私は鑑定しては、名前だけ見て目をそらしている。薬草とか、毒草を探している最中なのだ。

 これも、今回の目的の一つ。


 火炎花とかいう毒草があるなら、もっと他の毒草もあるはずで。なんならなんでも傷を治せるエリクサーの材料とかも見つかるかもしれん。


 夢と希望を抱いているさっ。


『鑑定』

『雑草』

『鑑定』

『雑草』

『鑑定』

『雑草』

『鑑定』

『雑草』

『鑑定』

『薬草』

『鑑定』

『雑草』

『鑑定』

『雑草』

『鑑定』

『雑草』

『鑑定』

『雑草』

『鑑定』

『雑草』

『鑑定』

『薬草』

『鑑定』

『雑草』


 か、ん?


 少し戻って『鑑定』



『薬草』

 食べると傷が回復する。

 すり潰して水に混ぜると、ポーションが作れるっぽい。



 キターーーーー!!


 来ましたよこれ。やった。薬草やって。しかもポーション作れるって!

 なんという幸運。留美はとっても運がいい!


 このちょっと青い雑草みたいのが薬草か。…………全く見分けがつかんわ。雑草やんけ。



 慎重に根っこから引っこ抜いて、ポーチに入れる。


「あ。根っこに毒あったりせえへんよな?」


 分かるはずないよなー、と思いながらも、ポーチから出して『鑑定』


『薬草』

 食べると傷が回復する。

 毒はないっぽい



 ないか。よかった。……なんかちょっと前から思ってたんだけど。鑑定の一番下にでる、〜っぽいって文が変わってんのなんなん?


 さっきのゴブリンの時も助かりました。ありがとうございます。

 意味わからん力が、意味わからん挙動をしたところで、それを受け入れるしかないんや。


「でもこれで傷受けても治せるぞっ」


 嬉しくなってジャンプジャンプくるくるっと回る。

 うふふっ!


 っと。落ち着け。ここは危険地帯や。獣虫の森より危険やぞ。


 うっぷ……画数多い文字みすぎて吐き気が……。ゲシュタルト崩壊……。あかん、鑑定はここまでか。



 おお。言わんこっちゃない、ゴブリン発見や。

 剣を研いでるみたいな動きしてる。


 ちょっと正気疑って目ぇ見開いてもうたわ。剣研ぐってやばない? 包丁研ごうとして失敗した留美からしたら、剣研ぐって相当勇気いるねんけど。留美も練習しないとな。

 ゴブリンに負けてるってことになってしまうっ。



 字に酔って少しムカムカする胸を抑えながら、剣を研いでいるゴブリンの周囲を確認する。


 留美はやる気満々で、ぺろっと唇を舐めた。

 もはや習慣となってきた周囲の確認を行い、――――おるんかい!


 残念。一匹周りにいた。それに、座ってるからすぐには動いてくれそうもない。

 もうばか……。



 さ。別の所を探そー。



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