救われる人、苦しめられる人

 再演というタイトルはなんて残酷だろうか。それを再演だと思っているのは誰だろうか。少なくとも主人公は思っていないだろう。彼は鉤括弧付きの再演だと思っているに違いない。
 ここに生きた母親は出てこない。全てが人々の記憶の中だ。しかし、それは色濃く今も生きている。それに救われる人と苦しめられる人がいる。主人公は、おそらく......後者だろう。
 今作で強調されるのは切実さ、だろう。少なくとも私はそう読み取った。何が苦しいのかすら分からない、だが生きるしかない、自分の使命はこれなのだ、このために生きている、これのおかげで生きていられる。

 そう思った少年が自分の気持ちに気づくとき、それが今作には描かれている。

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