【第七話】どんな反応するか見てみたい:一夏愛.txt

 玄関の扉を開けると驚いた。

 自分も顔が良いとは思ってたけど、目の前の女は、まさにレベルが違っていた。

 思わず私が目を奪われるほどの美人だった。

 まあ、服装なんかは田舎の娘、そのまんまだったけど。

 けど、本物っているものだと思い知らされたよ。

 恐らくは化粧すらしてないのに、こんなに美しい人がいるだなんて。

 彼女の前ではどんな女優やアイドルだってかなわない。そんな風格すらあったよ。

 完成された美術品みたいな女だった。

 この私がどうこうしたい、という気持ちよりも、ただ美しいと見とれるくらいの美人と言えばわかる?

 それって、ものすごいことなのよ。

 だって、今までそんなことなかったからね。

 そんな美人がタッパを差し出してきた。

 その場違いなタッパにちょっと吹き出しそうになったくらいだよ。

「あの、よかったらおはぎを作りすぎてしまって…… あっ、すいません。私は又隣の秋葉って言います」

 秋葉と名乗ったその女はそう言ってタッパを差し出してきた。

 このご時世に? 手作りのおはぎ? と思ったけど、こんな美人の手作りなら逆に受け取るしかない。

「隣の秋葉さんね。あ、おはぎ? 作ったって手造りなんですか?」

 おはぎにそれほど興味はなかったけど、秋葉さん自体には大いに興味がある。

 もう少し話していたい気分だった。

 そんなところを千春に見られたら、彼女は猛烈に嫉妬するだろうけど、それを宥めるのも楽しみの一つだからね。

「はい、ああ、手作りとか苦手だったら、その、大丈夫ですので……」

 秋葉さんをちょっとまじまじと見過ぎたか?

 若干ひかれてしまった。

 いや、でも、こんな美人見とれないほうが失礼だ。

「いやいや、平気だよ。秋葉さんみたいな人が作ったものなら、逆に嬉しいよ」

 これは本心。

「あ、ありがとうございます、では。あ、タッパは部屋の外に置いといてくれれば回収しますので」

「そんなことできないよ。ちゃんと返しに行くから」

 うんうん、ちゃんと返しに行かないとね。

 できれば、その時お部屋にお邪魔させてもらおう。

 こういうのは同性の特権だよね。まあ、私はどっちも守備範囲なんだけど。

「あ、はい、ありがとうございます!」

 私の下心などに気づくわけもなく、美人は去っていった。

 おはぎは思いのほかおいしかった。


 大学の講義をさぼって一日中、千春をむさぼっていたい。

 そんな気分の朝だった。

 多分、あの秋葉っていう美人が忘れられなかったのかもしれない。

 昨夜は必要以上に千春をかわいがってしまった。

 まあ、去年もそんな調子でいたから単位に余裕がないんだけどね。

 千春はなんだかんだでまじめだからな。

 いざとなったらレポートを写させてもらって……

 そんなことを夢の中で考えていたら、

「今日は講義全部一緒だよね? そろそろ起きないと間に合わないんじゃない?」

 と、千春にどやされる。

 多分千春は何げなく、全部一緒、と言ってるけど、それ、割と重いよ。

 私は平気だけど、人によったら冷める要因だよ、と心の中で思う。

 そう思うこと自体、私の中で千春に冷め始めているのかな?

 んー、でも、千春のことはまだ好きだしな。

 なにせ体の相性がいいんだから。

 昨夜もあんなに盛り上がったし。

 千春はその名の通り春のようないい匂いだからな。私、千春の体臭大好きなんだよね。ずっと嗅いでいたい。

 でも、それだけ、あの秋葉って女が衝撃的だったということかもしれない。

 まあ、なるようにしかならないよね。

 起きるのだるいけど、千春の言う通り大学もちゃんといかないとね。


 そんなこんなでやっとお昼だよ。

 次は昼休みもあって、さらに一限開いてるしゆっくりしたいよ。

 そう思ってると、千春が、普段見せないような顔を見せて窓を見ていた。

 ちょっと不細工でも愛嬌のあるかわいい顔だ。

 そのまま見ていたい気分もあったけど、千春の視線の先をみる。

 男がいた。

 何ていうか、ザ・陰キャって感じの。

 痩せてて目が少しこけてて、服装もそんな感じのね。

 あれどっかで見なかったかな? コイツ? でも、記憶にないなぁ、忘れちゃったか?

 その男も驚いたようにこちらを見ていた。

 驚いているところを見ると偶然だったのかな?

 しばらくしたら、どっか行ったけど。

 その後の千春の嫌そうな顔は忘れないよ。

 話を聞くと、どうもさっきのが千春の知り合いという話だ。

 でも、彼、いいね。

 彼を交えて千春としたら、千春がどんな反応するか見てみたいよ。

 顔は…… それほど良く見てなかったけど、我慢できないほど不細工ってわけでもないし、最悪マスクかぶせちゃえばいいし。

 なにより、性欲強そうな感じだし。

 あ、千春に黙っておいて…… 千春には目隠しでもしてしてる最中に…… って、のは面白そうだけど、流石に怒るか。

 とりあえず、今度、千春がいないときにでも見かけたらちょっかい出してみようかな?

 絶対面白い反応するって!


 で、えーと、あれ?

 なんで秋葉さんにタッパを返しに行ったら、コイツが出てくんの?




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