【第六話】うわっ:春野千春.txt
部屋に帰ると愛がおはぎを食べていた。
話を聞くと、隣の住人から貰った手造りおはぎなんだとか。
今時手作りとか、と思ったけど、見た目は凄くよくおいしそうではある。
何より私は餡子に目がない。
生クリームよりも、チョコレートよりも、実は餡子派なのだ。
愛にも言ったことないけど。
だって、餡子が好きとかおばあちゃんみたいじゃん。
「今のご時世に手造りなの?」
食べたいと思う心を押し殺して本心とは裏腹に、そう聞くと愛は、
「ものすごい美人だったから」
とだけ答えた。
その言葉に、私が眉を顰めると、愛はからかうように笑って、おはぎを口で加えたまま私を抱き寄せて来た。
そのまま、おはぎを近づけてくる。
仕方なく私も口を開けておはぎを食べる。
程よい上品な甘さ、しっかりとした餡子ともち米の確かな歯ごたえ。
おはぎを味わい、堪能し飲み込んだ後、
「何このおはぎ、お店で売っているのよりも美味しいんじゃない?」
そう言ったときには、愛は残りのおはぎを平らげていた。
もっと私も餡子を、おはぎを堪能したかったのに。しかも、それが最後の一個じゃないか。
「だよね、美人で料理までできるとかポイント高いよね」
その言葉に、私の眉は再び顰める。
その変化を愛は見逃さない。
「焼かない焼かない。でも、ほんとにアイドルとか女優なんか目じゃないほどの美人だったよ。あれは千春も一見の価値ありだと思うよ」
「私より?」
愛自身が相当な美形だ。
正直ちょっと顔が良いだけの私なんかよりも、愛のほうが圧倒的な美形で美人だ。
その愛がそれほど絶賛するということは相当な人なんだろう、っていうのは理解できる。
でも、今、愛と付き合っているのは私なんだ。
嘘でもいいので、ここは私と言ってほしい。
「好きなのは千春だよ。千春は私のタイプだからね、いろんな意味であうしね」
「なら、よそ見しないでよ」
そう言って顔を近づける。
愛の餡子の匂いがまだする息が私の顔にかかる。
愛の顔、すべてが愛おしい。
すらっとした眉も、長いまつ毛も、きめ細かい肌も、魅惑てな唇も。
すべてが美しくて愛おしい。
なんで女なんだろうと、何度も思うよ。
でも、愛が女でもいい。私をどうしょうもなく満たしてくれるから。
「わかってるって、そういうところも嫌いじゃないしね」
そう言って愛は、餡子が付いたままになっていた私の唇を舐める。
私はそのまま愛に身を任せる。
昨日はいつもにもまして激しかった。
最近、声を抑えられなくなっている自分がいる。
やっぱり女同士のほうが体のツボを心得ているのかな?
気が付いたら、そのまま寝てたよ。
帰って来たばっかりだからシャワーすら浴びてなかった。
起き抜けにシャワーを浴びた後、まだベッドに裸で寝ている愛に声をかける。
「今日は講義全部一緒だよね? そろそろ起きないと間に合わないんじゃない?」
そう声をかけると、愛はもそもそと起き上がる。
寝起きの顔も美しい。
私の寝起きの顔なんて見れたもんじゃないのに。
顔が良いって得よね。
ちょっとした仕草が様になっててたまんない。
冬至君も素材自体は悪くはないのよね、おしゃれする気ゼロなのと手入れもしてないから、ひどいだけで。
まあ、もう冬至君のことは忘れよう。
幼少期のいい思い出でした。はい、さようなら!
そう思ってたのに、学食で愛とお昼を食べていると、冬至君が窓の外から覗いていた。
うわ、って、思わず声が出かけちゃったよ。
あー、ストーカー化か、それは考えてなかったというか、そういう度胸もないと思ってたけど、そうなっちゃうのか。
これは参った。対応を完全に間違えたかもしれない。
あれ? でも冬至君すごい驚いた顔している?
偶然見かけて驚いているだけなのかな?
そ、そうよね? 私にストーカーする価値もないもんね?
あっ、やっぱりそうだった見たい。どっか行ってくれた、よかったぁ……
流石に冬至君が私のストーカーになったら、冬至君のおばさんに合わせる顔もないもんね。
でも、まあ、そんな機会ももうないのかな?
私、もう田舎には帰るつもりもないからね。
こっちで就職してこっちで暮らしていくよ。
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