第8話 ステータス

「な、なんですって!」

「行商に出る……だと、エストレージャ?」


 予想通りの母様と父様の言葉。

 驚きと戸惑いを隠せない様子だ。

 僕の職も、兄さんと同じような『事務官』みたいなものだろうと思っていただろうからなぁ。

 商人なんて、ティングレーリオ子爵家門で出たことがないのだという。


「だけど、商人だなんて……『外』に出掛けるの? 危険じゃないの?」

「街道沿いしか通らないよ、母様。商人は『人の居る場所』の仕事だからね。街から街への移動は馬車だし、森や草原は護衛の人達を雇えばそんなに危険なんてないよ」

「うむ……おまえももう成人だし、新しい場所への移動も許される。しかも、商人ならば問題なく移動ができるし……だが、戦闘職ではない。その辺の覚悟はあるだろうな?」


 僕は父様に向き直り、力強く頷く。

 旅立ちのエールを、どうか、僕のために。


「解った。何があっても後悔しない道を選べ。おまえの未来は、おまえ自身が決めるものだからな」

「……はいっ!」

「だけどっ、明日……いえっ、明後日以降になさい、出発は! 明後日……サフィーロ達がこの家に引っ越してくるわ。ひと目会ってからに、なさい」


 涙を堪えるような母様に僕は頷いて、ふたりにありがとう、と告げる。

 少しだけ涙ぐみそうになるのを唇を噛んで堪えるのは、見せないようにして。



 僕は部屋に戻り、旅支度を始めた。

 あの『バグの店』で手に入れた『次元袋』に全て入れ込み、その袋とすぐに必要そうなものを【収納魔法】に入れておく。

 それとは別に『普通の旅支度』をした背負子リュックを作る。


 商人なのに、荷物がないのは不自然だからね。

 チートな次元袋をもっていると知られるのも、多分まだ序盤では危険だろう。

 これから先のどこかの街で売られていることが確認できたら、その後ならば表に出していいとは思うけど……当分、そんな街なさそうだけどなー。


 さて、もうひとつ大切なこと。

 ステータス確認だ。

 身分証を手に持ち、深呼吸をして記載されている『名前』の部分を指でシュッとなぞる。

 まるで、スマホ画面をスワイプするみたいに。


 目の前にステータス画面が広がった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 名 エストレージャ 

 家 ティングレーリオ子爵位家門 次男


 公国暦2667年青葉月19日 生

 ミラーヴァ公国スブルビオ区アルーデア在籍


 生命力 748 身体力 433

 魔法力 407 精神力 532


【叙職】

 公国暦2685年青葉月 商人 レベルA


【魔法】

 収納・C 点火・D 強化・C


【職位能力】

 目利き・A 記憶・A 交渉・A 

 先見(物品)・A 出納・A 強脚・A

 感情操作(自身)・A


【特別能力】 

 職業選択の自由☆

 所持能力即時熟練☆

 盛運☆


【所持金】

 270430 Mo

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ……魔法は能力スキルとは違うのか……仕方ないね、これは。

 だけど、チートの三つはレベルがないんだな。

 星のマークなのは、あの時にバスケの杖が僕に吸収されたせいかな?


〈おっそーーーいよぉぉっ!〉


 うわっ、吃驚したぁっ!


「なんで、バリボの声が?」

〈バリボ?〉

「あ、気にしないで。だけど、なんで聞こえるんだ?」

安全地帯セーブポイントでスキルボード出すと、ガイダンスが必要なタイミングだったら高次ぼくらと繋がるんだよ、転生者は。もーー、なかなか開かないからーー!〉

「もうひとりは?」

〈君が杖を吸収しちゃったから、通信室ここまで来られないのーー! 君が『まっとう』しないと杖が戻らないのぉぉぉ!〉

「なんか、ごめん」

〈いーよ。君のせいじゃないしぃ〉


 この会話は、心で思うだけで通じちゃうのか?


(おーい、聞こえてるかぁ?)


 心の中で話しかけてみたが、特に反応がない。

 返事が返ってこないから、声にしないとあっちには届かないんだな。


「セーブポイントってことは、なんかあったら時間を戻せるの?」

〈できるワケないでしょ。何? 君の人生って、思ったところからやり直せるの?〉

「じゃあ、なんだよ、セーブポイントって」

〈そこでスキルボード開くとスキルボードの記憶セーブができて、職が変わっても『身分証の全て』が高次に記録されてるから、転職しても技能がなくならないの〉


 うわ、知らなかった。

 転職したら、前職のスキルがリセットされちゃう設定だったの?

 ……高次ってクラウドかな?


〈はいはいーー、成人後のガイダンスを始めるよーー〉


 おお、ナイスアフターサービス。

 流石だね、チート人生。


 確かにチートもサポートもある。

 だけど、多分その分『甘くない』ということだってある。

 油断は大敵ということを忘れてはいけない。


 ぃよっし、しっかり聞くぞ!

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