第9話 準備万端

 えーと、相変わらず言い訳混じりのバリボのガイダンスは以下の通り。


 フィールドでも街中でも『セーブポイント』という場所があるということではなく、僕が安全を確保できてひとりでいる時にステータスを開けたら、その開いた時のステータス状態を『セーブするかしないかを選べる』ということ。


 だから、戦闘中や他の人達といる時に開いて確認したとしても、それをセーブするという作業ができないということのようだ。

 セーブできる時は『SAVE』という文字が出る……らしい。


 そして当然ながら、生命力がゼロになったら死亡。

 だけど今回は『全うする前』だと、あるアイテムで一度だけ『蘇生』ができるが……その場合、はじまりの街からやり直しになってしまうらしい。

 変なところでゲームっぽいけど、それは絶対に避けたい。


 身体力はなくなると身体が動かなくなるけど、じっとしていれば少しずつ回復していくし食事や睡眠で回復する。

 魔法力と精神力も同じ。

 時間経過で回復はするけど、魔法力がなくなると魔法が使えないだけだが、精神力が使えなくなると能力スキルが使えなくなるということらしい。

 どれもゼロには、絶対にしてはならないということだね。


 魔法力については魔法によって消費数が違うというから、所謂MPマジックポイントと一緒だね。

 生命力がHPヒットポイントかな。


 だけど、精神力というのはスキルを使っても減らないけど、精神攻撃というものをされると減るらしい。

 ……精神攻撃って、どういうものかがよく解らないなぁ……

 要は、心が折れなきゃ平気ってことかな?


 魔法とスキルは、行動で増えるものと職で増えるものがある。

 その他にも獲得方法があるかもね? なんて言っていたからあの『バグの店』で買ったような本とかアイテムとかから……だろうなー。


「質問!」

〈ええー、なにぃ?〉

「高次の存在って、僕のスキルボードを全部勝手に見たりチェックしたりできるの?」

〈……できないよぉ。できたらもっと簡単にバグが処理できるもーん〉


 だよね。

 よしよし、ならば。


「それじゃあ、未来の方向性を操ることもできないんだね」

〈そう。だからさ、頑張ってよねぇ〉

「このガイダンスが終わったら、もう喋れないの?」

〈えぇぇ〜? もしかして、もっとお喋りしたいって思ってるのぉ? へへへっ〉


 バリボは、僕と喋りたいのかな?


〈新しいセーブポイント……つまり、街の安全な所に入った時に一度だけなら、セーブの時にお話しできるよぉ。ふふっふー〉

「解ったよ。じゃあ、淋しくなったら話しかけるね」

〈うん、うんっ! じゃあ【会話】を付け足しておくねぇ!〉


 うーむ、喜んでいる……まぁ、いいか。

 いろいろと情報が引き出せたら便利だもんなぁ。

 それに……本当に淋しくなっちゃうかもしれないからね。


 あ、チートスキルに『会話☆』が追加になった。

 この文字に触ると、バリボと喋れるのかも。

 四個目のチートスキルをもらってしまった……よかったのかな?



 翌日は、最後の親孝行の日。

 母様と父様の側で、思い出話などしながら今までの幸せな日々を振り返る。

 本当のことを言ってしまえば、僕はここを離れたくはない。


 だけど、今の僕はこの無意味な『何も為しえないままの転生』を終わらせたいんだ。

 なのでっ!

 この育成ゲームとおぼしき人生を、しっかりと全うしようと思いますっ!


 翌々日、戻ってきた兄さんと新しく家族になった義姉ねえさんを迎えてから、出発を告げる。

 兄さんは気を付けろよ、と肩を叩き父様は、挫けるなよ、と背中を押してくれた。

 母様はいつでも帰ってきていいんだから、と僕の手を握り締め、義姉さんは瞳に涙を溜めた母様を支えてくれていた。


「いってらっしゃい」

「いってきます」


 家族と交わす、もしかしたら最後の言葉かもしれない。

 僕は『終わらせるための旅』に出る。

 ここに……笑顔で帰ってこられる未来は、あるんだろうか。


 振り返らず、背筋を伸ばしてこの街を出る。

 ここから次の街までは安全な街道を歩いて、ほんの一時間ほどだ。

 初めてこの街アルーデアの外へと、足を踏み出す僕。


 大丈夫、人の瞳は前を向くためについているのだ。

 一歩ずつ先へと、未来へと。

 行き着く先は『終わり』かもしれないけど、それは誰の人生だって同じこと。

 それを意識して生きていくかどうかという違いだけだ。


 さあ、行こう!

 僕にだけ見える青い星の瞬く目の前の道へ、追い風が僕の背中を押す。

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